堀田先生のコメント('24/12/23)への回答
私のnote記事(以下,『中平記事』とよびます)
に対して,堀田先生が次のnote記事(以下,『堀田先生記事』とよびます)でコメントされています。
念のため,主要なことを回答しておきます。以降では,『中平記事』と同じ用語を用います。
主な回答
堀田先生:また中平氏が提唱をするΘ理論の拡張では、「ボルン則」が成り立たないから、本書は間違っていると今回主張を加えられましたが、それも本書の主張を正しく理解されていないだけです。
(中略)
本書第3章の意味での「三準位系」の状態空間は、Θ理論では、この(1)式の密度行列の集合で定義をされることに注意してください。
中平回答:堀田先生の上のコメントでは,『中平記事』で示した理論$${\Theta}$$が量子力学の標準的な公理系を満たすことを示すために,理論$${\Theta}$$が持っている系$${X}$$(または系$${X'}$$)を具体例として挙げようとしているようです。
補足:堀田先生は,『前提』を満たす理論は量子力学の標準的な公理系を満たすと主張されています。理論$${\Theta}$$は『前提』を満たしますので,この主張によると理論$${\Theta}$$も量子力学の標準的な公理系を満たすことになります。堀田先生のコメントでは,このことを示そうとしているようです。
しかし,彼が "本書第3章の意味での「三準位系」の状態空間" とよんでいるものは,集合
$$
\left\{
\begin{bmatrix} \rho_1 & 0_3 \\ 0_3 & 0_3 \end{bmatrix}
\middle| \rho_1 \in \mathsf{Pos}_3, ~ \mathrm{Tr} ~\rho_1 = 1
\right\}
$$
のことです。これは系$${X}$$の状態空間
$$
\mathbf{St}_X \coloneqq \left\{
\begin{bmatrix} \rho_1 & 0_3 \\ 0_3 & \rho_2 \end{bmatrix}
\middle| \rho_1, \rho_2 \in \mathsf{Pos}_3, ~ \mathrm{Tr}(\rho_1 + \rho_2) = 1
\right\}
$$
とは明らかに異なります。このため,『堀田先生記事』で示されているのは,理論$${\Theta}$$の系$${X}$$(または系$${X'}$$)ではなく別の系に関する性質です。話がすり替わっています。
私の主張の一つは「理論$${\Theta}$$が量子力学の標準的な公理系を満たすことを堀田先生は示していない」であり,この記事でも示されていないようです。
念のため,ここまでの私の回答を言い換えておきます。
仮に理論$${\Theta}$$において堀田先生が言われている「低エネルギーの実験」を適切に定めたとしましょう。このとき,その「理論$${\Theta}$$の低エネルギー近似」は量子力学の標準的な公理系を満たすのかもしれません。しかし,「理論$${\Theta}$$の低エネルギー近似」は,理論$${\Theta}$$とは別の理論です。なお,理論$${\Theta}$$を,「高エネルギーの実験も行えるような理論$${\Theta}$$」のように解釈するとわかりやすいかもしれません。
つまり,私の主張である「理論$${\Theta}$$が量子力学の標準的な公理系を満たすことを堀田先生は示していない」に対して,『堀田先生記事』では理論$${\Theta}$$とは別の理論である「理論$${\Theta}$$の低エネルギー近似」を用いて反論されているようです。これでは反論になっておらず,彼の主張の信憑性は極めて低いと言わざるを得ません。
『中平記事』にて「堀田先生の主張の矛盾」の余談として述べた次の文章もご参照ください。
引用(余談):
『堀田先生記事』では,ある系$${Y}$$に対して,$${Y}$$の特定の測定(の組)の確率分布のみでは区別できないような$${Y}$$の状態を同一視したときに量子$${N}$$準位系と同一の数学的構造を持つならば,$${Y}$$は量子系とみなせるといった発言もされているようです。しかし,このように$${Y}$$の状態を同一視したとすると,状態空間が変わるためもはや$${Y}$$とは別の系の話をしていることになります。
このことは,堀田先生と同じ論理を用いた次の例を考えるとわかりやすいかもしれません。量子$${N}$$準位系$${Z}$$を考えて,基準測定の確率分布のみでは区別できないような$${Z}$$の状態を同一視することにします。これにより,$${N}$$準位の古典系と同一の数学的構造を持つことになります。しかし,だからといって量子系$${Z}$$が古典系になるわけではありません。
その他の回答
堀田先生(の記事の見出し画像):"自分の$${\Theta}$$理論は,「堀田量子」第3章の内容の致命的な誤りを示している"
中平回答:念のため正確に述べておきます。私が主張していること(の一つ)は,「『前提』を満たす理論を量子論とよび,その理論がもつ系を量子系とよぶ」という堀田先生の主張を受け入れると,「堀田量子本」のまえがきおよび第3章の内容と整合しない(具体的には矛盾などがある)ということです。
堀田先生:第2章と第3章では「理論の適用範囲を考えなさい」ということに過ぎず、これも当初から何回も中平氏に言っていることですが、Θ理論のような話は第15章でのテーマであり、彼が批判を続けている第2章と第3章での内容とは全く無関係なのです。
中平回答:堀田先生は以下のことを主張されているはずです。
量子力学の標準的な公理系を満たす理論を「量子力学」とよぶ。
『前提』を満たす理論は量子力学の標準的な公理系を満たす。
理論$${\Theta}$$は『前提』を満たすため,堀田先生の主張によると量子力学の標準的な公理系を満たし,したがって「量子力学」です。このため,理論$${\Theta}$$が持つ3準位系$${X}$$は,堀田先生によると「量子系」です。また,堀田先生の書籍の第3章では多準位の「量子系」の話をしています。系$${X}$$を「第3章での内容とは全く無関係」とするのは,上の堀田先生の主張と整合していないように思います。
'25/01/02追記:上の「量子力学」は公開時には「量子論」と書いていました。これに対し,堀田先生から "「量子論」という用語そのものを、教科書では全く使っておりません" という指摘がありましたので,念のため書き直しました。