堀田先生のコメント('24/12/16)への回答

私のnote記事(以下,『中平記事』とよびます)

に対して,堀田先生がさらに次のnote記事でコメントされています。

念のため,主要なことを回答しておきます。以降では,『中平記事』と同じ用語を用います。


主な回答

堀田先生:実際中平氏自身が示しているように、Θ理論は6準位系の量子力学において測定を人為的に制限をして、3準位系だけが観測できるようにしています。
(中略)
先の私のnote記事で回答したように、そのρ(Θ)も上に挙げた標準的な量子力学の公理を全てきちんと満たすため、3準位系の量子力学は「演繹」できているというのが、私の教科書の立場です。
(中略)
しかしそれを理由にして、「Θ理論が非量子論」であるとは言えません。ここに読者の方は注意が必要です。

中平の回答:堀田先生の上の文言は,私が挙げた量子系ではない(つまり$${\mathbf{St}_X \cong \mathsf{Den}_3}$$を満たさない)3準位系$${X}$$も,上で挙げた公理をすべてきちんと満たすため3準位系の量子力学が「演繹」できている,つまり「系$${X}$$は量子系である」と主張されているように読めます。また,私が挙げた理論$${\Theta}$$は非量子論であるとはいえないとのことです。しかし,標準的な量子論では,私が挙げた系$${X}$$を量子系とよぶことはなく,理論$${\Theta}$$を量子論とよぶことはないでしょう

中心的な議題が「与えられた$${N}$$準位系$${Y}$$が$${\mathbf{St}_Y \cong \mathsf{Den}_N}$$を満たすことを演繹的に導けるか否か?」であることは,22年8月15日公開の私のnote記事(やそれ以前に行った堀田先生とのやり取り)から変わっていません。堀田先生も,少なくとも22年8月14日には,このことが議題であることを認識されています議題をすり替えて,私が挙げた系$${X}$$を量子系とみなすといった主張をされているように読めますが,さすがにこの主張には無理があるでしょう。なお,私自身は「量子論」や「量子系」という用語を『中平記事』内で定めた意味で用いていますが,これらのよび方に違和感を感じる場合はほかのよび方に変えても構いません。もちろん,その場合でも議論の内容は変わりません。


堀田先生:彼がΘと呼んでいるその「非量子論」では、一般確率論の意味で識別可能な状態が3つではあるが、それは3準位系の量子力学とは異なる理論として扱われ、かつ私の条件を全て満たしています。しかし一般確率論ではよく知られているように、Θ理論を含むそれらの理論は、より多準位の量子力学の体系に自然に埋め込めます。実際中平氏自身が示しているように、Θ理論は6準位系の量子力学において測定を人為的に制限をして、3準位系だけが観測できるようにしています。
(中略)
繰り返して強調をしますが、Θ理論では敢えて3つの状態しか同時識別可能にならないように、この測定に人為的に制限を与えています。物理学の意味では、この測定の制限を6準位系において+状態と-状態を観測するエネルギーが足らないなどの測定技術の問題だと解釈することも可能なわけです。

中平の回答:私は,「実際には量子6準位系なのだけれど,測定技術の問題により系$${X}$$のようにみえるだけ」という状況のことは話していません。ある系が,上の系$${X}$$と真に同じ数学的構造をもつような状況について話しています。

「人為的」にみえるか否かは,今回の議題である「『前提』を満たす非量子論が存在するか否か?」とはほぼ無関係の問題です。「量子論の常識」から考えれば,系$${X}$$は測定に対して人為的に制限を与えているようにみえるかもしれません。同様に,すべての非量子論は人為的に何らかの加工をしているようにみえることでしょう。逆に,仮にこの世界が量子6準位系をもたないような理論$${\Theta}$$にしたがっていたとして,かつ私たちが理論$${\Theta}$$に慣れ親しんでいたとすると,きっと量子6準位系のほうが人為的にみえることでしょう。なお,今回の議題においては,「量子論の常識」は一般に通じないことは『中平記事』でも指摘したとおりです。

補足:仮に,ある系の測定として,系$${X}$$の測定に相当するもののみが実験で確かめられたとしましょう。このとき,「測定技術の問題だと解釈することも可能なわけです」という堀田先生の主張は間違っていないと思います。しかし,同様に「系$${X}$$と真に同じ数学的構造をもつ3準位系がある」と解釈することも可能です。前者の解釈ができるからといって,『前提』を満たす非量子論が存在しないと結論付けることはできません。『前提』を満たす非量子論が存在しないことを示すためには,前者の解釈しかあり得ないことを証明する必要があるでしょう。

その他の回答

堀田先生:私の教科書では、標準的な量子力学の公理系を満たすものという意味で「量子系」としています。多くの他の教科書にもある、その標準的な公理系とは、下記になります。

・量子状態は密度行列ρで表現される。
・物理量はエルミート行列に対応する。
・エルミートの固有値が実験で観測される物理量の値である。
・物理量の値が観測される確率は、ボルン則で与えられる。
・密度行列の時間発展はシュレディンガー方程式で記述される。

私の上の回答のnote記事でも述べたとおり、これらの公理は2準位系でも多準位系でも、私の方法によって実験からきちんと演繹されます。この点は間違いのない事実ですし、中平氏が言うような「致命的な誤り」では決してありません。

中平の回答:定義があいまいな用語がいくつかあるため,「実験からきちんと演繹されます」といわれても信憑性に欠けると思います。たとえば『前提』を満たす非量子論が存在する場合には,その非量子論のボルン則とは何を意味しているのかが不明瞭です。また,上でも述べましたが,もし$${\mathbf{St}_X \cong \mathsf{Den}_3}$$を満たさない3準位系$${X}$$も量子系とよぶのでしたら,それは標準的な量子論とは異なる話をしていると思います。


堀田先生:彼がΘと呼んでいるその「非量子論」では、一般確率論の意味で識別可能な状態が3つではあるが、それは3準位系の量子力学とは異なる理論として扱われ、かつ私の条件を全て満たしています。しかし一般確率論ではよく知られているように、Θ理論を含むそれらの理論は、より多準位の量子力学の体系に自然に埋め込めます。

中平の回答:一般確率論がより多準位の量子力学の体型に自然に埋め込めるか否かという点には,(とくに「自然」とは何かという意味において)議論の余地があると考えます。また,私自身はこの点について否定的な意見をもっています。たとえば,一般確率論の中には,各成分が四元数であるような正方行列(のうちある条件を満たすもの)を状態とするような理論も考えられますし,そもそも正方行列で表すことが自然とは思えないような理論も考えられます。

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