森の小さな研究室

森に関する学びの記録。自然資本、コモンズ、森林(木材)のサプライチェーンが関心事。Do…

森の小さな研究室

森に関する学びの記録。自然資本、コモンズ、森林(木材)のサプライチェーンが関心事。Doctor of Forest Sciences(ゲッティンゲン大学)。長期投資が趣味。

マガジン

  • 徒然日記

    研究や趣味についての雑感。NPO法人緑の地球ネットワーク(GEN)のnoteに寄稿したものも読めます。

  • ヨーロッパで森林を学ぶ:森林学修士課程SUFONAMA留学記

    2011年から13年まで、EUが提供する国際修士課程プログラムErasmus Mundusの森林学の修士課程 Sustainable Forest and Nature Management (SUFONAMA) に留学してました。留学中、ブログで情報発信していた内容をnoteに転載します。森林に対する世の中の関心が高まる中、本格的にそれについて学ぶために留学を考えている方のお役に立てば幸いです。

  • i-Tree:市民ができるスマホを使った地域環境調査ツール

    アメリカ農務省が開発し、世界中で使われている、市民団体にもおすすめな「i-Tree」に関する情報を紹介します。まとめサイト。

最近の記事

森で働く犬たち

KWF-Tagungは4年に一度、ドイツで開催される大規模な林業機械展。前回が2016年開催で、本来2020年開催だったのがCOVID-19の影響で中止となったので、実に8年ぶり。 屋外開催で、森の中で開催されています。まともに全部みようと思うと一日がかり。 地図はこちら。山の中なので起伏はあるし、今回は天気があまりよくなくて足元が悪く、移動するにも一苦労。 林業機械と一言で言っても、この展示会では広く林業に関わる機械を見ることができます。それだけに日本を含む世界各国から

    • 戦争

      直近の記事では、リガの街の美しさを紹介しました。 でも、一番印象に残ったのは「戦争」がごく身近にある姿でした。 正面のかわいい建物はLatvia Museum of Architecture。その左横の建物には2種類の旗が見えます。向かって右がラトビアの旗。 左の旗ですが、のんきな私は、しばらくの間、直前まで滞在していたスウェーデンの旗かなあ、と思ってました。でもこれは、ウクライナの旗。 1990年に独立宣言を採択するまで長年に渡りソビエト連邦の一部であったラトビア。独

      • ラトビア・リガ街歩き

        ラトビアの首都リガ(Riga)に行ってきました。バルト三国の真ん中の国。 ラトビアは平たい国で、最高峰でも312m。山でなく丘のレベル。それだけに多くの土地が一次産業で用いられている。 森林率は53%。EU諸国ではFinland, Sweden, Slovenia, Estoniaに次ぐ値。ドイツよりも率でいえばずっと大きい。 この事実は、ラトビアで林業や木材産業が重要な産業分野を構成していることを意味していて、今回は、ある木材関連企業に聞き取り調査に出向いた次第。その内

        • 単に植えれば良いのか?

          今回のIUFRO(国際森林研究世界連合)世界大会では、森林研究に対する世の中からの期待を分かりやすく解説するKeynote speechが多く、とても面白かった。口頭発表については(自分のそれを脇に置くと)、面白いもの、ちょっとつまらないものの度合いにだいぶ幅があった。研究動向のレビュー報告が多かったのはちょっと問題かとも思ったり。こういう会合では、新しい知見を示してもらう方がありがたい。 Keynoteの一つで、パラグアイで大規模な植林を行っている事業会社のプレゼンがあっ

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        • 徒然日記
          24本
        • ヨーロッパで森林を学ぶ:森林学修士課程SUFONAMA留学記
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        • i-Tree:市民ができるスマホを使った地域環境調査ツール
          3本

        記事

          欧州森林学修士課程SUFONAMAその後

          8年ぶりにヨーロッパに来ています。 一番のタスクはIUFRO(国際森林研究機関連合)の世界大会に参加すること。口頭報告もしました。また、その前後で、欧州の木材製品サプライチェーンの調査、今後の共同研究の可能性を打診するために知り合いの研究室を訪問することにしました。 このマガジンはSUFOAMAでの修士論文の話で終りましたが、その後、SUFONAMA1年目にお世話になったゲッティンゲン大学の森林政策学研究室の博士課程に入学し、学位を取得しました。博士課程では科学的知見の政

          欧州森林学修士課程SUFONAMAその後

          修士論文:スウェーデンのマツタケと林業経営

          日本の秋の味覚として「マツタケ」を思い浮かべる方は多いだろう。でも、今では(注:2013年時点)その9割以上が輸入品となっている。さらに面白いのは、輸入品の「マツタケ」は実は3つの異なるキノコがあること。 日本の国産のマツタケは学名 T.matsutake 。マツタケの言葉がそのまま入っている。これが日本人が思い浮かべるマツタケ。 北米から入ってくるものは学名 T.magnivelare。そして、トルコ産やモロッコ産は T.caligatum が多い。単価が比較的安いもの

          修士論文:スウェーデンのマツタケと林業経営

          修士論文:キックオフミーティング

          いよいよ修士課程最後の学期がスタート。 先週末はウプサラのSLU本部キャンパスへ。これまで毎週通っていたスウェーデン南部・アルナープのこじんまりとした、でも、公園の中にあって勉強する環境としてはとてもよいキャンパスとは違って、広大な敷地に農学や畜産関連の専攻棟が立ち並ぶ。 そこまで出向いたのは、修士論文のスーパーバイザーの先生方がこっちのキャンパス所属で、僕の修士論文のためのキックオフミーティングを主担当の先生が音頭をとって段取りしてくださったから。ありがたいことです。

          修士論文:キックオフミーティング

          森林学修士課程で取得した単位:スウェーデン農科大学アルナープ校

          前回記事の続き。 修士2年目は昨年9月から。 スウェーデン農科大学アルナープ校(SLU Alnarp)の南スウェーデン森林研究センターで取得した単位は以下の通り。 ◎Sustainable Forestry in Southern Sweden Silviculture(造林学)が7割、Ecology(生態学)が3割の構成。 スウェーデンの林業はスプルースとスコッツパイン、というのが定番だけど、キャンパスのあるスウェーデン南部は他のスウェーデンと気候条件が異なるせいで、オ

          森林学修士課程で取得した単位:スウェーデン農科大学アルナープ校

          森林学修士課程で取得した単位:ゲッティンゲン大学

          先週までで長かったコースワークがすべて終了。2011年9月から3学期間、90単位分の授業や演習を受講しました。 学部の専攻が森林学でなかった学生も多いので(僕もそう)、基礎から教えてもらえるものが多かった。当然、修士課程のレベルまで教えるわけなので、どの講義も中身は充実していたように思う。また、カバーしている分野もかなり幅広い。これでも森林科学の全体をカバーしているとは言えないが、Sustainable Nature and Forest Management というプログ

          森林学修士課程で取得した単位:ゲッティンゲン大学

          間伐は投資である

          現在履修している授業は Planning in sustainable forest management と題されている。11月中旬からクリスマス休暇をはさんで正味10週間にわたるコースなのだけれど、今週はその最終週。 昨日はこの授業の大きな山の一つであるTactical planの内容の報告会。10年間の計画なので、中期計画とでもいうのだろうか。12月に滞在したÖstad Säteri財団が所有する森林の一部(約200ヘクタール)の実際のデータを使って、向こう10年間の

          間伐は投資である

          エスタードÖstadの森

          月曜日からヨーテボリの北東、エスタードÖstadの街の郊外にある森林へ来てます。スウェーデンでの修士課程2年目は実習が多いのですが、今度は10日間の実習。今回の実習は、Östad säteri財団が所有する森林を対象に、その長期と短期の森林経営計画を立案せよ、という現在与えられている課題のためのもの。数値目標までを含めて1月までに提出することを求められています。 12月に入って急に寒くなってきたスウェーデン。さらに森の中では、普段暮らしているマルメよりも気温はグッと下がりま

          エスタードÖstadの森

          森林が身近にあるということ

          D. Rydberg, J. Falckの論文 Urban forestry in Sweden from a silvicultural perspective, a review より。 一般的なスウェーデン人はおよそ2週間に1度、レクリエーションのために森林を訪れているそうだ。年間のべ約2億人がスウェーデンの森林を訪れていることになる。また、8~9割のスウェーデン人が少なくとも年に1度は森林を訪れていることになる。 スウェーデンの人口はおおよそ1000万人。日本

          森林が身近にあるということ

          人の暮らしと森づくり

          今週は月曜日から金曜日まで合宿形式での演習。 ほとんどの時間は、林業生産を主な目的とした森林内で、さまざまな計測や造林過程において影響を与える可能性のある病虫害、風雪害、間伐の方法、自然保護の手法について集中的に学ぶのだけど、昨日は少し趣向が違った。 スウェーデンで一番最初に国立公園に指定されたNorra Kvill国立公園を歩きながら、現代的な木材生産を目的としない森の様相は、どのような要因で変化するのか、現場を見ながら話しを聞いた。 講師の方はこの公園内で長年にわた

          人の暮らしと森づくり

          スウェーデンの国有林経営

          何度か紹介した(IKEAの回、スウェーデン南部森林組合の回)のように、外部講師による講義が複数回組まれているのが現在受講しているモデュールの特徴の一つ。先日は、スウェーデン国有林運営会社Sveaskogから講師が来て、事業内容等を解説してくれた。 ◆Sveaskog社の概要 本来であれば複数の団体にアポ取りしてインタビュー調査する必要がある情報が、向こうから次々に講義室で、しかも丁寧に説明してくれるというのはとても恵まれている環境なのだと思う。 日本でいえば、林野庁や森

          スウェーデンの国有林経営

          スウェーデン南部森林組合の経営戦略

          少し前に、IKEAと林業について、IKEAで働くフォレスターが講師となった特別講義の記事を書いた。このようにEuroforesterのプログラムではスウェーデンの林業関係者による特別講義が多く組まれていて、現場の様子を詳しく学ぶことができる。 昨日は、Södraと称されるスウェーデン南部森林組合(Södra Skogsägarna)の事業内容について、当大学院の博士課程を出て、現在その組合で働く講師の講義を受講した。 Södraはスウェーデン南部の約5万人の小規模森林所有

          スウェーデン南部森林組合の経営戦略

          「ヨーロッパ林業」はなさそうだ

          日本に住んでいた頃は、日本・アメリカ・ヨーロッパというカテゴリーわけで海外のことを考えることが多かったが、ヨーロッパの2つの国で合計1年以上暮らし、しかも途中でウェールズとスイスで各10日ほどを過ごしてみた経験から考えると、こと林業について「ヨーロッパ」と一つでくくることなどできないことにつくづく気づかされる。 例えば、林業の収益性を考える上で重要な伐採周期(Rotation period)が、同じ樹種でもドイツとスウェーデンではまったく異なることを知った。両国ともに代表的

          「ヨーロッパ林業」はなさそうだ