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パーカーとロリンズ
その昔、天才アルトサックス奏者、チャーリー・パーカーが充実した日々を送っていたころ、あるライブハウスの楽屋で、歳下の若き天才テナーサックス奏者、ソニー・ロリンズがドラッグに溺れながら、夢見心地で虚空を見つめていた。
パーカーはロリンズを殴って「バカなことやってんじゃねえ」と激しく諭し、ロリンズは時間をかけてなんとかドラッグをやめた。
数年後、ロリンズが生き生きとしたプレイで幅をきかせているころ、パーカーはドラッグにまみれて自らを害していった。
2025年現在、入手しうる情報が確かならば、ロリンズは94歳。
輝かしい名演を残してきた。今なおロリンズがこの世にいるのが神々しく思える。
パーカーは1955年に34歳で惜しまれつつこの世を去った。
アルトとテナーの違いはあれど、この二人の天才には共通点がある。
一瞬のひらめきをその場で表現しなければならないジャズの世界で、この二人ほどその表現が卓越している人はいない、という点だ。
なにしろフレーズが淀みない。言葉に詰まることがない人がいるように。
伝えたいことが無数にある人のように。語りたい言葉がたくさんある人のように。
もちろん、言葉に詰まることがなければいい、というものではない。
パーカーとロリンズが表現する言葉は、饒舌ではあるけれど緩急に満ちていて、ひけらかしというものがない。人が自身の半生の打ち明け話をしているみたいだ。ときに友人を励まし、ときに友人に愚痴を聞いてもらっているかのようでもある。
要するに、人間らしい強さと弱さが混在しているように思えるのだ。
聞こえるのは、ひたすら彼らの人生と自己表現みたいなものだ。
吹かずにはいられない、奏でずにはいられない偉大なミュージシャン。
程度の差は絶望的なほどあるが、自分もまた、伝えたいことが無数にあるから、これからも何かを書かずにはいられない。弾かずにはいられない。
【注記:冒頭のエピソードは、詳細は別として、大筋では広く語り継がれているものです。一方、二人の様子や会話については自分の想像で書いたものです。】
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