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冬の日

行くあてもなく中央線で西に向かっているとき、車窓から、ボールを思い切り投げたら届きそうなほど近くに富士山が見えた。

どこまでも空の蒼い冬、空気の澄んだ日の東京ではよくある光景だ。

末娘がまだ5歳くらいのころ、同じような日に近所の高台の公園で、手を繋ぎながら同じような富士山を見た。

彼女は、なぜ急に富士山が近くまで来たのかと僕に尋ねたのだった。

あのとき僕は、娘のそのような感性がいつまでも続きますように、と祈った。

きっとあの子は、通学中の中央線の中で、僕と同じように今朝の富士山を見たのだろう。

帰ったら尋ねてみよう。
17になり、恋人ができてもなお、澄んだ気持ちを失っていない彼女に。

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Whispers of Life
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