note始めました
まもなく新聞記者としての半生が終わろうとしています。
1997年に朝日新聞に入社して以来、昼夜問わず寝食を惜しんで取材をしてきました。幕が下りる間際になって気付きました。これまで過去を振り返ってことがなかったことを。倉庫でほこりをかぶっていた取材ノートを取り出し、自分でも判別が難しい象形文字のようなメモを読み返しました。
広島の原爆問題、大手食肉会社による補助金不正受給事件、中国政府による人権弾圧・・・。
今でも記憶に残っている事件や事故、国際会議などを取材する機会に恵まれていたのだと、改めて実感しました。これまで取材してきた事象はバラバラに見えます。しかし、再度振り返ってみると、問題の底流に流れている共通項が浮かび上がりました。
いかなる不正も許さない――。
青臭いかもしれません。でも、世の中の不条理や理不尽に対する怒りが、取材の原動力になっていたことに気付きました。当局に拘束されたり、取材先から脅迫されたりすることもしばしばありましたが、正義感が揺らいだことは一度もありませんでした。
そんな孤独で危険とも言える闘いを支えてくれたのは、これまでの出会った人たちです。それは何も、直接の取材対象となった当局者だけに限りません。初任地の料理屋のおばちゃん、北京のタクシー運転手さん、ホワイトハウスの警備員さん。匿名のツイッターのフォロワーのみなさん。一人ひとりと真剣に向き合って時には議論をして、鍛えてもらい、助けてもらいました。
これまで手がけた事件や国際ニュースのスクープや調査報道を、「もう一度やってみろ」と言われても絶対にできません。「人の輪」や奇跡的なチャンスというパズルのピースが偶然に組み合わさって、なし得たものだからです。
まもなく記者の身分はなくなります。しかし、ジャーナリズムを支え、発展させていく思いは変わりません。同僚や後輩のみなさんに少しでもお役に立てるヒントや自分の経験を時々、記していこうと思います。