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【掌編小説】 夢見る少年

夢見る少年はいいました。

「自分の力で、世界中の人間を幸せにしたいんだ」

けれども社会で生きる大人はいいました。

「世界中の人間を、一人残らず幸せにするなんて、できっこない」

少年は驚いて、悲しそうに聞きました。

「どうして? どうして、幸せにできないの?」

「考えてもみなさい。周りの人間すら幸せにできないのに、地球の裏側にいる人間も幸せにできると思うなんて、妄想も甚だしいよ」

「きっとできるよ! やってみないとわからないじゃないか!」

「冷静になりなさい。君はもっと現実をしっかり見た方がいい」

大人はわざとらしく溜息をつくと、少年の前を去って行きました。

少年は悔しくて、悔しくて、その日は泣いて1日を終えました。



夢見る少年は自分の夢を二度とバカにされたくなくて

現実を見るための勉強をはじめました。

本を読んでみたり

周りに聞いてみたり

自分の立場を確認したり

できる事とできない事を整理したり

アルバイトをして働いてみたりしました。

けれども少年は

どれだけ現実について勉強しても

なぜ、世界中の人を幸せにしたい夢を諦めなければいけないのか

どうしても分かりませんでした。

少年を見ていた大人は溜息をついて言いました。

「無駄な努力だ。そんなんだから君は現実を見れていなんだ」

大人は指をさして呆れるように笑いました。

少年は悔しくて、悔しくて、自分が情けなくなりました。



夢見る少年は考えて、ひとつの事に気が付きました。

「僕は現実を見ようとしたけれど、知ろうとしたことはなかった。自分の周りや、歴史を勉強しても、現実がどんな形なのかを知らないと、僕は先に進めないじゃないか」

けれども現実とは何なのか

少年は答えを見つけることができませんでした。

どこを探しても見つかりませんでした。

そこで物知りの爺なら知っているのではと思い

爺の家を尋ねた少年は、事情を全て話しました。

話を聞いた爺は困った顔で少年を見ました。

「おじちゃんは答えを知っているのでしょ? 僕に教えてよ」

「坊やはそれを知ってどうしたいのかな」

「僕はもう、僕の夢をバカにされたくないんだ。だから現実が何なのかを知りたいんだ」

「私は、君が今悩んでいることそのものが、現実だと思うけどね」

「それじゃダメだったんだ。おじちゃんの言う通りに、これが現実だとしたら変えないと。僕の夢を信じたいんだ。だからどうしても、現実を見ないといけないんだ」

必死に訴える少年を見て、爺は少し考えてから言いました。

「現実は饅頭や犬みたいに、目に見えるものじゃないよ。かといって、文字を読んで得たことが全てでもない。知ろうと意識して、簡単に解れるものじゃないよ」

「それならどうすればいいの? おじちゃんはどうやって、現実を見ているの?」

「坊や。答えはひとつじゃないよ」

「だけど、僕の見ているものは間違っているって大人は言うんだ」

「そうだね。現実で起きることはひとつしかない。だからこそ、真実はひとつしかないから視野を広く持たないといけない。見方ひとつで世界は全くの別物に変わってしまうんだよ」

爺は少年の胸に、優しく拳を当てました。

「胸に当てて考えてごらん。坊やにしか見えない現実があるのだから。まずはそれを大切にしなさい」

「僕だけの現実?」

「そこに君の求めた答えがあるだろうから」

物知りの爺はそれ以上、何も言いませんでした。

夢見る少年は最後まで大人の見る現実が何なのか分かりませんでした。

けれども少年は自分の夢を最後まで諦めることはできませんでした。




おわり

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