ワインに深入りしないワインの話(15)~ ドイツワインにJTC(日本伝統企業)の煩悶をみる
昔の日本では、輸入ワインといえばドイツワインでした。
そして、伝統的にドイツワインは甘口が主流でした。
これは日本人の好みに合わせたというよりも、ドイツ本国における格付けや醸造方法に由来しています。
元来酸味の強いドイツのワインには、糖分を人工的に加えて出荷する補糖が公的に認められていたこともあって、ドイツワインは甘いワインという認識が成立していました。
店番は、「甘口ワインの良さをわかるようになれば、ワイン愛好家として上級者の仲間入りの第一歩」という考えを持っていますので、甘口ワインを否定する意図は全く持ち合わせていません。
しかしです。(←楠木建 語法)
それにしても、ひところのドイツワインの、とくに安価なものは、ハッキリ言って美味しくありませんでした。
黒猫や聖母の絵がラベルに描かれ、値段もフルボトルで千円未満のものです。
ワインの悪口は基本言わない主義なんですが、こればかりは嘆息の対象です。
バランスとエレガンスに欠けていて、いわんやフィネスの片鱗もありませんので、こうしたワインを常飲すると、良好な味覚の形成には障害となります。
普段は仲の良くない世界中のワイン評論家が、口をそろえて酷評しているのも珍しい現象ですが、それほど避けるべきワインとして定評ある存在です。
そういう「褒められない甘口ワイン」の多かったドイツでは、大量の辛口ワインを国外から輸入して飲んでいました。
前世紀の終りごろから、ドイツ国内の醸造所もやっと重い腰を上げて、辛口ワインの増産、甘口からの転換を急ピッチで進めました。
その結果、いまではドイツワインといえば自動的に甘口白ワインという図式は完全に過去のものとなり、赤ワインが生産量の4割に迫り、赤白ともに辛口のほうが主流となりました。
それでも、気候と土壌が急に変わるわけではありませんから、筋が良くて味も美味しく、価格と品質のバランスに優れている辛口ドイツワインにたどり着くのは、簡単とはいえません。
甘口時代に長らく業界で評価を確立してきた名門醸造所であっても、辛口の製品群が自動的に推奨に値するかという点では、かなり厳しいと思います。
ドイツのリースリングで美味しい辛口ワインを造るのは、言うほど簡単ではないようで、ラインやモーゼルには著名なワイナリーがあまたあるのですが、彼らはいづれも甘口ワインで覇を競ってきた長い歴史が筋肉や神経の随所に組み込まれており、辛口への転換と言われても手足や指先がそのように動いてくれないのだと勝手に解釈しています。
ドイツの名門らしい真面目一徹さが、転換期だからといって体よく立ち回ることができないのでしょう。
DXだ、イノベーションだとうるさく言われても何1つ気の利いたことができない本邦の重厚長大型の名門企業を見ているようで、妙な親近感が湧いてきます。
そんななかで、出会ったのがこちらのワイン。
ドイツのリースリングの良さを最大限に残しながら、中甘口に逃げることなくキチンとした辛口に仕上げて、元の酸と果実味の均衡を高めています。
酒言葉=守破