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ワインに深入りしないワインの話(9)~ ロゼを奨められて怒りだす人たち

日本のワイン市場にとって、ロゼは鬼門です。

ロゼワインは、フルーティーな香り、優しい口当たり、合わせる料理の幅が広い・・・など、多くの長所を備えています。

なので、ワインのプロとしてはお奨めしたくなります。

ところが、お客様には受けが良くありません。

男性のお客様からは、「女性やお子様のような扱い」をされたことに怒られます。

かといって、女性のお客様からは、「初心者扱い」されたことに、明らかな不機嫌オーラが噴出します。

それもこれも、「ロゼ=甘口」「ロゼ=入門者向け」という先入観があるからです。

先入観とは、特定の方々が抱く偏見なのですが、ことロゼワインに限っては、「特定の方々」ではなくて、「多くの方々」に共有されています。

もはや「偏見」ではなくて、「常識」に近い考え方になってしまっています。

店番は、こうした偏見の除去に長年にわたって微力ながら注力しているのですが、こればかりは令和の世の中になっても、かなり頑強で動いてくれません。

なんでも「欧米では・・・」と言いたがる人を、「出羽守」といって揶揄することに、実は密かに賛同するのですが、ことロゼについては、「日本だけが世界の孤島」状態です。

いまや、ロゼは甘くないもの、ビシッと辛口なものも多数あります。

今年の初夏に欧州各国のワイン市場を見てきましたが、ワイン売り場ではロゼの棚のスペースが、白ワインの3倍くらいありました。

そんなことも含めて、店番がお奨めするロゼは、もちろん辛口で、飲みごたえもあって、産地ではワイン通に高く評価されているものですよと、お伝えします。

それでも、お客様の食指は鈍いのが一般的です。

もちろん、お買い上げ頂くことも少なからずあるのですが、大感激してくださることは稀です。(白と赤では、大感激メッセージをよく頂戴するのですが)

そんなロゼ忌避大国・日本でも、例外があります。

それは、スパークリングワインの場合です。

泡ものになると、急にロゼの人気が上昇します。

ドンペリのロゼを、ピンドンといってこよなく崇拝する方々の影響でしょうか?

さてこちらは、ニュージーランドの南島の最南部に位置する銘醸地セントラル・オタゴのワインです。

テラサンクタ ピノ・ノワール ロゼ 2022

この地域は、特にピノ・ノワールが優秀なことで知られています。

瓶を見ますと、凹凸のある縁取りのついたゴージャス系のラベルが目を引きます。

こうした伝統的な意匠のラベルは、いまどきの新大陸のワインとしては逆に目立ちます。

ところが、目を凝らしてよく見ると、旧大陸に昔からあるような絵柄とは少々違います。

雄大な自然環境や、畑に出入りしている動物たちが描かれています。
ワイナリーの当主は、このラベルに自分の理念が凝縮していると言っています。

ワインの色はごく薄いローズ色で、サーモンピンクまではいかないかすかな色調です。

香りは控えめで、トマトスープやトマトペーストの香りです。
1口含むとやさしさが出迎えてくれます。

開栓したばかりでもフレンドリーで飲み手を受け容れてくれる感じが全開です。とにかくバランスの良さが特徴です。

いろいろなニュアンスが見え隠れしますが、まろやかでやさしいワインです。

といって、ふにゃふにゃしているのではなく、僅かに苦味もあって見た目によらず結構複雑な構成です。

滑らかで、何も邪魔するものがなくスイスイとグラスが進みます。

料理は和洋中全般なんでも守備範囲が広く、しかも自分は目立たずに料理のほうを引き立てる役割に徹します。

開栓した翌日は、さらに向上します。

とにかくエレガントであることに衒い(てらい)がありません。
こういうワインを選ぶ飲み手って、すごくカッコいいなと思います。

酒言葉=耽美


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