ワインに深入りしないワインの話(13)~ 評判でワインを選ぶから世界で40億本も生産過剰(ミスマッチ型浪費文明に別れを)

カリフォルニアのワインというと、すぐにナパバレーの名が出て、そうでないと今度はソノマがいいんだという人が出てきます。

すでにそういう人たちには、自分のお気に入りのワイナリーがあったりするので、現地訪問の土産話などを始めると、止まらなくなるパターンにはまります。

一方、特定のお気に入りに執着するよりも、カルトワインをあれこれ追いかけるのに忙しい人も見かけます。

ナパはカルトワインの聖地で、あれを飲んだ、次はこれが欲しいというように、いろんな教祖様をとっかえひっかえ追いかける信心浅い信者も増えています。

高価で入手困難というところが、この手のコレクターたちの誘因になっているようです。

ナパのカルトワイナリーは、いまや多くが「資本系」です。
金融や不動産など、異業種で築いた巨大資本が惜しみなく投下されています。

もともと手残りの少ないワイン業界の中の人たちでは、金満の新参者には到底太刀打ちできません。

評判を頼りにワインを選ぶと、どうしても評判の良いと言われるワインを入手したくなり、そのような人が増えると、必然的に特定銘柄への超過需要となり、その分だけそのほかの銘柄の供給過多を招きます。

その数たるや、年間40億本にもなっています(フルボトル換算、国際ブドウワイン機構の27年分の統計データから店番の推計値)。

それは、毎年です。27年間の合計値ではありません。毎年毎年発生している余剰分です。

そんなに貯蔵する場所はないし、前年までの蓄積もあるので、余剰分の多くは廃棄されます。

もちろん、需給のミスマッチはどのような産業でも必然的に発生することです。

だから、需要動向を的確に見抜いて対応することがマーケティングなのだと教えられてきました。

しかし、その理屈こそが、過剰生産→大量廃棄の「ミスマッチ型浪費文明」の理論的根拠、つまり精神的な拠り所だったのではないかと反省するところから始まります。

植物を収穫して造るワインは、廃棄すれば生命を無にすることになります。

評判に頼らず、自分の舌で良い物がわかるようになれば、込み合う人気銘柄を血眼になって追い求める必要もありません。

自分の舌が正しく形成されるように選ばれたワインを定期的に賞味することで、美味しいワインを楽しみながら人知れず上級者に向けて進み行く我が身を愛でることができます。

そんな店番が出会ったのが、このフィールドレコーディングスのワインです。


フィールドレコーディングス フラン



産地のパッソ・ロブルスは、サンフランシスコとロサンゼルスの中間あたりに位置するワイン銘醸地です。

ナパやソノマがシスコの北に位置するのに対して、南東方向になります。

創業者の方針は、地域や畑の知名度にとらわれず、品質にこだわって葡萄を選ぶことです。

なんでも自分で栽培したほうが偉いみたいな、浅薄な自己完結型のストーリーを敢えて採らないところがさばけています。

このワインで用いている品種はカベルネ・フランです。

このワインは、ピノ・ノワールのようにキレイに澄んだビロード色です。

グラスに注ぐと、この品種に特有の青みがかった木の枝の香りとともに、ベリー系の果実やイチゴジャムのような濃いめの香りが立ち上がりますが、それも透明感のあるかぐわしさという印象です。

一口含むと、まずフレッシュな酸味が感じられ、すぐ次にはなんとも甘~いトロミに襲われます。
甘いわけではなく、あくまで甘みのニュアンスです。

これは複雑な始まり方です。
そして、バランス良く融合していきます。
やさしく飲みやすい中に、存在感のあるワインです。

口当たりがやさしいので薄く感じられるかもしれませんが、タンニンは意外に充分含まれていて、飲みごたえも感じられます。

杯は進み、素直に美味しいとうなることができるワインです。
賢者のワインが信奉するバランス、エレガンス、フィネスの3本の軸がすべてそろっています。
酒言葉=柔術

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