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内定辞退ゼロを実現する地方工務店の「応援する」採用ブランディング

「良い人材が見つからない」「内定を出しても辞退されてしまう」と悩む地方中小企業の経営者は少なくない。新卒採用において、求める人材とどのように出会えばいいのだろうか? さらには、求める人材の「第一志望」になるにはどうしたらいいのだろう?

僕が経営する株式会社あいホームは、宮城県に拠点を置く社員数76名の工務店だ。「良い人材」ではなく「自社に合う人材」と出会うことを念頭に採用活動をスタートして以来、内定辞退ゼロが続いている。今回はコロナ禍真っ只中の2021年卒採用を例に、そのエッセンスを紹介したい。


「自社に合う人材」を見つける採用のポイント

まず、僕が「自社に合う人材」を見つけるために意識しているポイントとして以下が挙げられる。

志望動機より志望度

あいホームでは「なぜ入社したいか?」以上に「どれほど入社したいか?」を重要視している。志望度が高い就活生をしっかり見極め、相互理解を深めたうえで内定を出せば、内定を辞退される可能性は低くなる。

それを測る指標は時間だ。あいホームのことをどれほど調べたか。どれほど知ろうとしてくれたか

また、募集を開始してからすぐにエントリーシートを提出したか。志望度が高ければ、開始とともに提出してくれるはずだ。

話し方より聞き方

仕事においてコミュニケーション能力は重要だが、企業によってその定義は異なるだろう。きちんと言語化し、社内で共有しておくことは欠かせない。

当社においては、コミュニケーション能力とは傾聴力だ。従って、就活生が何をどう話すか以上に、どのように話を聞くかに注目している。流暢に話せなくても、口数が少なくても、相手の目を見て真摯に話を聞く姿勢があれば、コミュニケーション能力があるといえる。

これは、入社後のミスマッチを防ぐ意味合いも大きい。あいホームの住宅営業では「押し売りをしない」ことを大前提に、お客様に寄り添った提案を大切にしているからだ。人の話に耳を傾ける能力が高い就活生は、あいホームの営業スタイルにもマッチするだろう。

自社に合うコミュニケーションスタイルかは、1次選考の社長面接および2次選考の現場社員との座談会で確認する。入社後の彼らと多くの時間を共にするのは、僕ではなく現場で指導を担うメンバーだ。だから、2次選考の重要性を社内で共有し、目線を合わせることも強く意識している。

就活生から「自分に合う」と思われる企業になるには

企業は選ぶ側であると同時に、選ばれる側でもある。就活生から選ばれるために、企業が意識すべきことは何だろうか。

それは、強引に選ばれようとしないことだ。

学生の就活成功を心から応援する

「良い企業ではなく、自分に合う企業を選ぼう」。

あいホームの採用活動では、就活生に対してそう発信し続けている。

だから、選考の途中で辞退しても構わない。むしろ大歓迎だ。

合わない企業に入社しても、どの道すぐに辞めてしまうだろう。より自分に合う企業と出会えたのなら、それを心から祝福したい。

後述で詳しく触れるが、僕はコロナ禍の採用活動において、Instagram(インスタグラム、以下インスタ)で就活のお役立ち情報を毎日ライブ配信していた。

ある時、仙台駅前の居酒屋で食事をしていたら、それを視聴していた学生さんが声をかけてくれた。

おかげさまで自分に合う企業に内定をもらうことができました。ありがとうございます」と。

「おめでとう、良かったね」と自然と言葉が出た。

この姿勢は採用活動に限らず、住宅営業でも同様だ。お客様は必ずしも当社で家を建てなくていい。お客様に合う会社で、理想の家を建ててほしい。

「人に尽くす」という僕たちが大切にしている企業姿勢が、採用活動を通して地域の学生にも届いたのだと実感した出来事だった。

自社の情報を嘘偽りなく開示する

では、就活生にとって「自分に合う企業」になるには、つまり志望度を上げるにはどうすればいいのだろう。

僕は、正直に自社の情報を開示することに尽きると考える。接待をして無理やり呼び込み、取り繕った内容を伝えても、入社後のギャップが大きくなるだけだ。

「自社の情報」には、当然ながら良い面だけではなく厳しい面も含まれる。特に、住宅営業の世界は厳しい。家は、多くのお客様にとって一生に一度の大きな買い物だ。住宅営業は、下手したら一棟も売れない時期が長期間続く場合もある。他ならない僕自身がそれを経験したからこそ、その現実を隠したまま選考を進めることはできない。

僕は、企業側の情報提供が不十分にもかかわらず、採用面接で志望動機を問うことに常々疑問を感じている。ホームページや取り繕った企業説明会から得られる情報だけで、自分に合う企業かどのように判断すればいいのだろう?

判断材料を提供することこそが、志望度を上げるために取り得る最善の手段だと僕は信じている。

就活生の志望度を高める、インスタライブ毎日配信

あいホームの採用インスタアカウント

企業の自己開示の手段はさまざまだが、特にコロナ禍で対面での活動が制限された2021年卒の採用では、インスタライブの効果は絶大だった。

社長自ら毎日15分の配信を30日間続けたところ、だんだんと視聴者が増えていき、最終的に40〜50人がリアルタイムで視聴してくれるようになった。結果、応募した約100名のうち6〜7割がインスタ経由。内定が決まった6人は全員インスタライブを毎日視聴してくれていた就活生だ。内定辞退者は0人で、全員そろって入社を迎えることができた。

なぜこのような結果が得られたのか、その理由を集客配信の工程に分けて振り返る。

集客:就活生をフォローして興味のきっかけをつくる

当然ながら、採用アカウントを作ってライブ配信をするだけでは、就活生に届くことはない。自ら就活生のアカウントをフォローし、興味を持つきっかけをつくる必要がある。

「#就活2020」といったハッシュタグや、東北地域の大学名+部活・サークルなどの名前で検索をすると、就活生を含む学生のアカウントが表示される。

フォローする際に意識していたポイントは2つある。

1つは、実体のあるアカウントであること。実名またはそれに近い名前で、顔写真が設定されているアカウントを中心にフォローした。

もう1つは、質の良い就活情報アカウントをフォローしていること。就活のノウハウに興味があるということは、僕の発信にも興味を持ってくれる可能性が高い。

就活生の動きとしては、フォローされたことをきっかけにあいホームの採用アカウントを覗き、興味が湧いたらインスタライブのアーカイブ動画を視聴、面白いと感じたら翌日からリアルタイムで視聴する流れだ。

この動きを想定し、事前に自社の雰囲気が伝わるコンテンツを掲載しておくと良いだろう。おすすめなのは、自社で働く「人」の写真を載せることだ。

「人」はアカウントに対する一定の信頼感安心感を醸成し、生き生きとした表情は見る人を惹きつける。他社で運用に成功しているアカウントには、共通して社員の顔が載っていた。

これを踏まえ2022年卒の採用時には「スタッフ紹介の写真を撮り直そうプロジェクト」を実施。より当社メンバーの魅力が伝わる写真を撮影・掲載した。

配信:就活のお役立ち情報を通じて考えを伝える

インスタライブでは、東北地域での就活に役立つ情報を発信した。情報収集の時期には「業界や企業の選び方」、募集が始まる頃には「エントリーシートの書き方」、終盤では「面接の受け方」など、就活のフェーズに合わせて就活生が知りたい情報を提供するのがポイントだ。

就活を応援したいという気持ちで、就活生の立場に立った発信を心がけた。配信の冒頭では「当社に応募しなくてもいいから自分に合う企業を探してください」と必ず伝えていた。

一方で、自社の情報を開示し、志望度を高めるという目的も忘れてはならない。そのために実践した内容として、汎用的な就活ノウハウの中に僕なりの考えを織り交ぜたことが挙げられる。言い換えると、あいホームが採用で重視しているポイントを反映した。

例えば、エントリーシートの書き方を紹介する際に重要なポイントは「募集開始後すぐにエントリーすること」と「顔写真」だと説明した。何十枚、何百枚とエントリーシートを見る企業の採用担当者の立場からすると、やはり写真から魅力が伝わる就活生は印象に残りやすい。

これは、他社へ応募する際にも役立つノウハウであると同時に、あいホームの攻略法でもある。僕たちが採用で何に重きを置いているのか先に「答え」を伝えることで、就活生は当社が「自分に合う会社」なのかを判断しやすくなるだろう。

「応援する」採用から成る、あいホームの企業姿勢

就活を応援するスタイルの採用活動は、結果的に企業ブランドの醸成にもつながっている。

2022年、社内メンバーで話し合いを重ね、「最高のホームをつくろう。」というブランドスローガンを生み出した。その際、自分たちの価値とは何か向き合った結果、僕たちには「人に尽くす」という共通項があることがわかった。

採用活動を通して、僕たちの企業姿勢を就活生に伝える。そのプロセスを経て入社したメンバーも、同じように他者へ接するようになる。それが積み重なり、あいホームのブランドとなっていくのだ。

だからこそ、特に地方中小企業においては、社長が採用の最前線に立つことがカギだ。社長自身が採用力を持たない限りは、中小企業は生き残れないといっても過言ではない。

この記事を通して「自社に合う人材を、社長自ら見つけにいく」というマインドを共有できたら嬉しい。

我が社の恒例行事「カレーの会」で料理を楽しむ新メンバーたち。

編集/三代知香


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伊藤 謙|あいホーム
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