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ヴラジスラフ・ヴァンチュラ『マルケータ・ラザロヴァー』 第1章(2)

 ラザルの砦はオボジシチェと呼ばれていた。嗚呼、何と恐ろしい隠れ家か! ミコラーシュの姿を見るや否やラザルと部下たちは鍵を池に落としたかのように駆け出した。煙のような髭を貯えた老ラザルは門の前まで出ていった。来訪者が初めに言葉を発するのが慣わしだった。

 何かを切り出すよりも挨拶する方がミコラーシュには好ましかった。暫く沈黙が続いた後、ラザルは自分の手下に出会わなかったかとミコラーシュに尋ねた。「若い奴をコズリークの許に送った」言葉を続けた。「助けを求めた。ロハーチェクは堅牢な所だ!」

 「俺たちが手助けしよう」へそ曲がりの男はやや陽気に返答した。「ボレスラフの外に陣取るがいい、そうすれば手を差し出す。騎士よ、ロハーチェクは氷で覆われている。俺たちは街道の曲り角にいる、森の近くだ。急げ、ラザル、無駄にする時間はない、国王の軍隊は接近している。兵隊に捕まったら、追い剥ぎのお前は無傷じゃ済まないぞ」

 「国王か」ラザルは答えた。「国王には正義がある。だが、その軍隊の側につく者は街道で首を吊るす」

 へそ曲がりの男は馬から降りると、直ちに諍いとなり、血が流れた。少し威嚇しただけで、処刑台に少し触れただけで逆上したミコラーシュは自分の言葉を強調すべく手を伸ばして言った。

 「国王が後ろ盾になっている傭兵隊は三日もすればここに到着する。国王はお前の言う事など聞かん、だが俺は聞いてやる。馬鹿者、柵の外にいる国王ではなく、内側にいる俺たちに、敬意、名誉、愛を注げ。さあ、準備しろ、ろくでなし!」慇懃な使者はそう言うと、近くの少年から乗馬用の鞭を奪い取り、ラザルの頬、肩、脇腹をぴしりと叩いた。

 オボジシュチェの人々は主の御名によって客人を戒め、老人を敬う話をするとでも、皆さんはお思いになるだろうか?

 否、次の瞬間、客人は四方から襲撃を受けた。突き刺され、顔には傷ができ、背中はみみず腫れになった。地面に倒れると仰向けにされ、侮蔑や呪いの言葉が次々と耳に流し込まれた。殴打で命を落としかねない状況だったが、ある一撃が加えられると、血管が開き、牛のように吐血した。

 頭の下の血溜まりは見る間に広がり、兜の陰を縁取った。幼い少女が首から外した十字架かドゥカーテン金貨すら奪えないこそ泥でも足を止める壮大な見せ物となった。壮大な見せ物であるが故に男達も口をぽかんと開けて見詰めていた。固唾を呑んで半歩ほど後ろに下がった。心臓は舌の真下で鼓動していたが、それは、喉を掻っ切る輩ではなく、罪を悔いた泥棒の心臓だった。

 「嗚呼、神よ」殴られたラザルは声を発した。「奴が死んでも、わしは裕福にもなりやせん。立たせて行かせるがよい、神の意志によって犬死するがいい。お前らは実に大きな過ちを犯した。激しく刺す奴があるか。路上か泥濘で命を落とせば自分の行為を後悔する時間もあっただろうが。ならず者たち、コズリークには羊の群れよりも息子が大勢いるのを知らんのか? 公平な国王に懇願することもできた。軍隊さえ消えれば、街道で大人しく商いもできた。だがこうなったら、どうする? 追撃に備えろ。馬に乗っていくぞ、足が山羊のようになるまで馬を駆れ。森に入れば、相手を引き摺り下ろして戦える」

 誓って申し上げるが、ラザルが言ったことは好機を得たものだった。

 その間に、ミコラーシュは神の助けによって頭を持ち上げつつあった。美しい鼻、唇は膨れ、目から血が流れ、あご髭は引き抜かれていた。地面に掌を起き、体を半身だけ持ち上げようとした。だが力が弱く、十字架のように体を斜めにした。

 臆病者、ラザルのならず者! この世には、神の摂理が及ばないものがあるとでも思っているのか? ミコラーシュがこれだけの骨、十分な量の血に恵まれているのは、単なる偶然とでも思っているのか、手を差し出した神の気まぐれとでも思っているのか? 事の背後には意図があり、裏側を見ることのない我々は、偉大なる神の叡智の断片しか理解しない。

 ミコラーシュは死ぬことはない、そうだとも。朦朧とした状態から頭を起こして立ち上がり、体を震わせながら、無意識という雪、弱さという雪を服から払い落とす。

(C)Kenichi Abe, 2022.


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