「おもんない人の語彙」を集めた結果。あるいは、この募集に怒る人の共通点について。
軽い気持ちでツイートしたら、ちょっと炎上した。
炎上とまでは言わないかもしれない。多分900件ぐらい反応が来たうちの850件ぐらいが普通に応募してくれた人で、残りの50件ぐらいが「こういうこと言うヤツが一番おもんない」とお怒りのものであった。おもんない人の感情を逆なでしてしまった感じがあり、良くなかったなと反省している。もうちょっとオブラートに包んだ言い方をすればよかった。
ともあれ、お陰さまで応募多数となり、「おもんない人になれる辞典」は草稿ぐらいは書けそうな雰囲気になった。ので、試しに書いてみようと思う。
あと、副産物として「この募集に怒る人」や「趣旨を間違って変なリプライを送ってしまう人」の特徴も見えてきたので、それも合わせて書いてみたい。皆それぞれにキャラ濃いので、楽しみにしてほしい。
それでは早速見てみよう。まずは「おもんない人になれる辞典」の草稿、スタートだ。
おもんない人になれる辞典
え↑ぐい
めっっっちゃ分かる。すごい。「エグい」はかなり一般語彙なので誰でも使っているが「え」にアクセントを置いた瞬間に「おもんない率」が跳ね上がる。「お前それ、え↑ぐいって~!」と言っている人がおもしろかったことは一度もない。おもんない率100%の脅威の語彙。
「おもんない人になれる辞典」にはアクセントも込みで掲載しないといけないな、という気づきがある。
まじカオス
「まじカオス」。これもよく分かる。「カオスww」単体でもいい。
飲み会などで適切な発言が分からないときに汎用的に使える。しかし汎用性が高すぎて何も頭を使わずに言えてしまうため、おもんない語彙として認定されている。たしかに「ちょっと~ww今日まじカオスすぎるって~ww」って言ってる人は基本おもんない人だ。もうちょい気の利いたことを言ってほしい。
なお、ラランドのサーヤさんはこれがよほど嫌いらしく、ことあるごとに「カオスww」をつまらない飲み会の決まり文句として使用している。
吉田沙保里
こちらもすごく分かる。というか、これに関しては「時代を捉えている」という感じがある。
かつて、「吉田沙保里」というミームがおもしろくて仕方ない時期があった。もう10年以上前だろうか。誰が始めたのかは分からないが、とにかく「強いもの=吉田沙保里」の時期があったし、その枠の中での大喜利はめちゃくちゃおもしろかった。
大喜利の中で、吉田沙保里の強さは正しくインフレし、最初は「ゴリラに勝つ」みたいな文脈で使われていたのに、徐々に「パンチで地球を破壊する」みたいな使われ方になり、最終的には「あらゆる問題を解決する神」みたいな使われ方になった。吉田沙保里と書いてデウス・エクス・マキナと読む。そういう時代が訪れた。
ほんの1年ぐらいですっかり大喜利がやり尽くされてインフレしきったので、これがおもしろかった時代は終わった。もはやマトモな感性を持つ人は「吉田沙保里大喜利」から距離を置くことになった。にもかかわらず、一部の人はその潮流が理解できず、未だに吉田沙保里を使い続けている。
思うに、おもんない人の条件のひとつは、「捨てるタイミングが分からない」じゃないだろうか。もう使い古されて腐臭を放っているのに、その語彙を捨てられずに、いつまでも使い続けてしまう。
スタバなう
これもまったく同じ類型だ。流行ったのは10年以上前だと思う。最初は「ラーメンはフラペチーノとカロリーが同じだから、これは実質スタバ」みたいな屁理屈を言って、スタバだと言い張るノリが楽しかったはずだ。こういう内輪ノリは、ある種のジャーゴンとして機能していた。
さて、これも流行から10年以上が経ち、もはや誰も言わなくなってしまった……と思いきや、インターネットに疎い人が逆に今言い始めてしまっている。特に50歳ぐらいのオジサンが言っているケースが多い。しかも彼らはみな「こういうのがおもしろいんでしょ?」と意気込んでツイートしてスベり続けている。しかしオジサンはネットのノリが分かる友だちもいないので、「それスベってますよ」と教えてもらうこともなく、ひたすら同じことを繰り返す。無間地獄である。
あと、さっき検索してみたら、普通にスタバにいる人が言ってる用法も目立った。一周回ってめちゃくちゃ普通に使われていて微笑ましい。頼むからオジサンたちもみんなこれを見習ってほしい。
時代性があるものが多い
……と、ここまでいくつか挙げてみての所見だが、おもんない語彙の黄金パターンは「かつてはおもしろかったが、使われすぎて腐ってしまった」というものだ。ほとんどがこれに相当するんじゃないか。「吉田沙保里」「スタバなう」は言うまでもないし、「え↑ぐい」や「カオス」もこれに相当するだろう。飲み会の様子を見て「カオス」と言った最初の人は、きっとたいへんおもしろい人だったに違いない。ギリシア神話における原初の神カオスを引き合いに出し、飲み会を「大地創生以前の空隙」にたとえたのだから。これはかなり大げさかつ大胆な比喩であると言えよう。
だから結局、この人の言っていることが的を射ている。
「絶対的におもんない語彙」は多分あまりない。おもんない語彙は先天的におもんないのではなく、文化的な学習の上でおもんなくなるのだ。カントも「わたしたちのすべての認識は経験とともに始まる(光文社古典新訳文庫『純粋理性批判1』 p.1)」と書いているが、「すべてのおもんない語彙は経験とともに始まる」のである。
つまり、「おもんない人の語彙」を集める営みはほぼ「陳腐化してしまったユーモア」を集めるのと同じである。そう考えると、この営みにあまり興味はなくなってしまった。僕は永久不変のリストを作りたかったのであって、時代を切り取りたかったのではないから。
時代を切り取った辞典はそれはそれでおもしろい。『俗語発掘記 消えたことば辞典』が手元にあるが、パラパラめくっていると超楽しい。
「乳押さえ(ブラジャーのこと)」とか、「テクシー(タクシーを使わずに徒歩でテクテク歩くこと)」とか、「蒲鉾ブス(ブスが板についている人)」とか、しょうもない語彙がいっぱい載っていておもしろい。
こういう辞典ももちろんおもしろいのだが、僕は「おもんない語彙とは使い古されたユーモアに過ぎないのだ」という一般法則を見つけただけで概ね満足したので、あとは他の人に譲りたいと思う。
だから、ここからは方向を変えよう。今回の募集に対してリプライを送ってきた「困った人たち」や「怒る人たち」に焦点を合わせてみたい。なお、ここからはネガティブな形でバリバリに実名が出るので、有料とさせていただきます。怒る人のTwitterプロフィールや特徴を眺めてニヤニヤしたい人は課金してくださいませ。
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