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スケールの悲しみ。700人規模の単独イベントをやること。規模の不経済に堪えながら、文化を作ること。

「事業をスケールさせる」なんて、実にアホくさいことだと思っていた。

自営業者が自分の事業をスケールさせて、良いことはひとつもない。売上が1000万円を超えた途端に消費税が取られ始めるし、税務調査もジャンジャン入るし、所得税も社会保険もアホみたいに高くなる。

「売上500万円・利益150万円」が自営業者の完璧な決算だ。2年前までは僕もそうしていた。税金をほとんど取られず、それなりに豊かに暮らし、仕事に縛られない。そんな生活をデザインするのが最も合理的で、スケールしたがる人間はアホだとさえ思っていた。というか、今でもそう思っている。


今年、僕は会社を作った。従業員は僕ひとりだけど、業務委託で関わってくれているスタッフは60人ぐらいいる。フルタイムに近い働き方をしてくれている人も数人いて、これはもうスケールしたとしか言いようがない。今期の外注費の合計は1000万円をくだらないだろう。2000万円くらいになってもおかしくない。

スケールした結果、悩み事の量は10倍になり、自由な時間は10分の1になった。四六時中、何かの問題がスタッフや取引先から送られてきて、それを解決する手段を考えている。謝罪の回数は数え切れない。誰かがやったミスを「すべて私の責任です」と頭を下げるのにすっかり慣れてしまった。責任者の一番大事な仕事は謝罪である。「社長」というと聞こえが良いが、「謝罪屋」と呼んだ方がいいかもしれない。

我ながら不合理だと思う。なぜこんなことをしているのか。今年は、ひたすらにそう自問する年だった。

自問しながら、本当に色々なことをやった。ビジネス書をバカにする本を書いてみたり、Podcastの賞レースを2部門同時受賞してみたり、新しいラジオを生み出すオーディション企画をやった挙げ句6番組一気に誕生させてみたり。「人気があるうちが華だ」と思って、声がかかったイベントやメディア出演はなるべくOKを出した。あまりにも目まぐるしかったので、ゆっくり自省するヒマはなかった。

そして一昨日、年内最後の大きなイベントが終わった。ようやく少しだけ一息つける時間が訪れた。


700人規模の単独イベント

我々ゆる言語学ラジオは今年、初めての巨大な単独イベントをやった。

会場はベルサール飯田橋ファースト。700人が入れる会場だ。

リハーサルの様子

700枚のチケットは、発売1日で売り切れた。売り切れを示す画面を見て、ほっと胸をなでおろしたのをよく憶えている。会場のレンタル代だけで100万以上かかっているので、「売れませんでした」でおいそれと引き下がれるものではない。


チケットが売れたらそれで終わりではない。むしろ始まりだ。コンテンツを練り上げて、スポンサーを集めて、飲食物の手配をして、保健所の許可を取る。途方もなくめんどうな仕事の数々が湧き上がる。優秀なスタッフに支えられて、僕はずいぶん楽ではあったけれど。

イベントの内容について、多くは語らない。現地に来てくれた人も、配信を見てくれた人も多いだろうから。反省点も多いけれど、概ね上手くいって良いイベントになったと思っている。ヘトヘトになったけど、楽しかった。


書きたいのは、二次会の話である。ここには、スケールの悲しみが全部詰まっていたような気がするから。今日はスケールの悲しみについて書く。


ひとりひとりの顔が見えなくなる予測不可能性

イベントのコンテンツが終了した後に、同じ会場でそのまま二次会をやった。前々から決まっていたものではなく、イベント開催の1週間前に急遽決定したものだ。「二次会をやった方が顧客満足度が高そう&儲かりそう」という2点の理由による。

これは宴のあと。


この二次会は反省点がめちゃくちゃ多い。「巨大すぎて全然思ったとおりにならなかった」という印象だ。

まず、そもそも間違っていたのが参加者数の想定である。700人の参加者のうち、少なくとも300人は参加すると思っていた。というのも、過去に小規模なイベントや公開収録をやった経験から、「ゆる言語学ラジオリスナーは極めて高い確率で二次会に行きたがる」と知っていたからだ。客を6名入れて公開収録をやった後、二次会をやると6名参加することが多い。参加率100%である。

したがって、見積りは極めて楽観的になる。「700人いるなら300人は来るだろう。500人ぐらい来るかもしれない」と。「最低300人」を前提に、フードのケータリングとお酒を発注し、会場のレンタル時刻を延長した。

だが、実際にはそうではなかった。参加者はだいたい220人ぐらいで、飲食物はめちゃくちゃ余ってしまった。バカでかい会場の延長料金を考えると完全な赤字である。


後から振り返ってみれば、参加者が思ったより少なかったのは当然の帰結にも思われる(後知恵バイアスだ)。これは恐らく、主に2点の理由による。

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