『ハムのサンドイッチ屋さん』デザイナーズノート
こんばんは。
ボードゲームデザイナーの大塚健吾です。
先日、ゲームデザインを担当しましたボードゲーム
『ハムのサンドイッチ屋さん』のクラウドファンディングが終了しました。
https://www.kickstarter.com/projects/graphic335/hams-sandwich-shop/description
最終支援者数 513人、支援総額 2,896,249円。
ありがとうございました!!
Graphic335さんから依頼を受けてゲームデザインした立場として責任もあり、大分ホッとしました。
非常に多くの方からの支援をいただき喜びと驚きがありました。
で、今回、Graphic335さんご厚意でご提案いただきました。
Kickstarterのページに寄稿したデザイナーズノートをこちら僕のnoteでも公開させていただける事となりました。
ぶっちゃけ、あれです。
海外の方から
“This was a wonderful, insightful read.”
“Amazing insight!!”
とかなんか、まるで、名探偵が言われるくらいにめっちゃ称賛されて。
結構嬉しかったんですよ。
6,000文字以上あって、全部読むのしんどいと思うので、
なんというか、ボードゲームデザインに興味のある方限定という感じです。
それでは。
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こんにちは!
『ハムのサンドイッチ屋さん』ゲームデザイン担当しました大塚健吾と申します。
ボードゲームデザイナーをしています。
自分の好み100%のゲームを作ったり、制作依頼をいただきゲームシステムの提案をするという仕事をしています。
前者としては『シノミリア』
https://youtu.be/oXcS1nV0s4c
後者としては『ギリギリカレー』https://boardgamegeek.com/boardgame/251136/girigiri-curry
というタイトルを比較的遊んでいただいています。
自分で考える自作の特徴として、“勝ったら嬉しくて、負けたら悔しい”というのを意識してゲームを作っていると思います。
結構当たり前のこと言っていますが、“負けたら~”を強く意識していることが特徴になるなと考えています。
今回、『ハムのサンドイッチ屋さん』はGraphic335さんにご依頼いただいくという経緯で制作が始まりました。
そこから、どのような流れでゲームデザインをしたのかを書きます。
こちらを読まれているあなたは特にボードゲームがお好きな方だと思います。
せっかくなので、自分なら依頼主のGraphic335さんにどんなゲームを提案するか考えながら読んでください。
一緒に『ハムのサンドイッチ屋さん』を考えて作りましょう!
最初にやるべきは要件定義ってヤツですね。
Graphic335さんはどんなゲームを作りたいんでしょうか?
まず、聞いたのは“依頼いただいた理由について”です。
“大塚健吾が飼っているハムスターの“茶白”を溺愛しているボードゲームデザイナーだから”
……では、ないのだそうです。
Graphic335さんは依頼をする前日に僕がハムスターを飼っていることを知ったそうです。
Graphic335さんは大阪府にあり、僕は神奈川県の横浜市に住んでいます。
Kickstarterで世界の方に見ていただいているので、なんか大した距離ではない気もしますが、それでも、約500kmも離れた場所からの依頼です。
なかなかすごい話です。よく僕を見つけてくださいました。
「大塚さんのゲームはドキドキするんです!」
とGraphic335さんはおっしゃってくださいました。
その言葉は僕が心がけている“勝ったら嬉しくて、負けたら悔しい”という部分を評価していただいように思います。
なので、そうした期待には応えなければいけません。僕らしいゲームでなくてはいけません。
最初にわかった要件はこちらです。
ゲームに必要な要素① 勝ったら嬉しくて、負けたら悔しい
そして、今回の企画書をお見せいただきました。
Kickstarterのページのコンポーネントのものすごい可愛らしさから、伝わっていると思います。
そこには、めっちゃ可愛いハムスターがサンドイッチのパンに乗っているイラストがありました。
とにかくそこを見せたい!という企画書でした。
Graphic335さんはかなりアーティスティックで。
今回、何よりも“表現したいワンシーン”があるという印象を受けました。
前後のストーリーがどうなのか、とか、そういうのは置いといて、
「ハムスターがパンの上飛び乗って、パンに挟まっちゃう姿、とにかく最高にかわいいでしょ!!」
という強い思いがありました。
なかなかにカッコイイですよね。
ボードゲームデザイナーとして語ると、
「デッキ構築型ゲーム作りたい!」「トリックテイキング作りたい!」みたいなものより、ずっと信頼できる“ないから作りたい”という動機です。
というわけで、ゲーム内での重要なシーンが決まりました。
ゲームに必要な要素② ハムスターがパンの上飛び乗って、パンに挟まっちゃう姿がプレイヤーにとってゲーム中重要なシーンである
と、言うまでもないけど、もう一個ありましたね。
ゲームに必要な要素③ ハムスターの可愛らしさが一目見て伝わる
ハムスターが主役である以上、今回の企画の重要な要素ですよね。
なので、例えば、ハムスターに固有のステータスやパラメーターやテキストがたくさんあって~
というゲームデザインは“見た目でハムスターの可愛らしさ”を伝えるという条件と矛盾してしまいます。
(個人的な自分の作るゲームの好みからも外れます。
遊ぶ側としてはテキスト多いゲーム。『Magic: The Gathering』とか大好きです)
細かいとこで言うと、コレも要件と言えば要件なのかな?
ゲームに必要な要素④ 舞台はサンドイッチ屋さん
ハムスターが店長のサンドイッチ屋さんが舞台だってことは最初から決まっていました。
そのハムスターをプレイヤーにとってどういう立場にするのかがゲームデザイナーとしての悩みどころです。
ハムスターを飼っている経験として、飼い主(プレイヤー)の思い通りに動かせるというのはハムスターらしくありません。
アイツは結構自分勝手に自由気ままに生きています。
ただ、どきどき思いが通じた気になれるのがハムスターとの関係性です。
そういうのをゲームで表現したいです。
ゲームに必要な要素⑤ 人間とハムスターの関係性を表現する
また、ハムスターが主役の可愛らしいゲームということは……
ゲームに必要な要素⑥ シンプルなルールで、多く人が遊びやすい
遊びやすさの追求ということで、究極、
理想は非言語のゲームにしたいところです。
さて、要件は出揃ったようなので、そろそろ考えますか。
……と、思いましたが、Graphic335さんの方から、もう一つ提案がありました。
(というか、僕が事前に聞き出せていませんでした)
ゲームに必要な要素⑦ コンポーネントは全てタイルでいく
コレはなかなかの要素です。
確かに、全部タイルにした方がずっと可愛らしさが伝わります!
ただ、ちょっとボードゲームデザイナー的なことを言うと、
タイルとカードは大きく異なります。
特に次の2つ。
1.カードは概念、タイルは実物
例えば、“トマト”を表すカードがあったとして、そのカードにはトマトについての諸々を書くことができます。
なんか、「トマトは+3点」とか「トマトとレタスが合わさると強いぞ!」とか。
カードは概念的で、情報を表します。
けど、タイルのトマトは、それはもうトマトなんですよ。
本物のトマトがそこにあることを表している。
「トマトは+3点」とか「トマトとレタスが合わさると強いぞ!」とかタイルに書いたら台無しです。
2.基本的に裏面は使えない
Graphic335さんにはトマトならトマトの、レタスならレタスの形をしたタイルの作りたいという思いがあります。
カードなら“裏面が共通で、めくって、表面を見てみたら○○というカードだった”というゲーム要素を使えますが、
野菜は野菜の形をしているし、トマトタイルの裏面がレタスタイルになっているとか不自然です。
ざっくり、ゲームとしてはカードの方がやりやすいが、体験としてはタイルの方が強いと言ったところでしょうか。
ゲームデザインとして、プレイヤーに「コレ、タイルじゃなくて、カードの方がいい」と言われてしまっては失敗です。
言い換えると……
ゲームに必要な要素⑦ コンポーネントがタイル“だからこそ良い”というゲームデザインあること
というところです。
以上で、ゲーム作りに必要な要件は全て出揃いました。
まぁまぁ、たった7つですよ。
ちょっと、改めて、並べてみましょうか。
ゲームに必要な要素① 勝ったら嬉しくて、負けたら悔しい
ゲームに必要な要素② ハムスターがパンの上飛び乗って、パンに挟まっちゃう姿がプレイヤーにとってゲーム中重要なシーンである
ゲームに必要な要素③ ハムスターの可愛らしさが一目見て伝わる
ゲームに必要な要素④ 舞台はサンドイッチ屋さん
ゲームに必要な要素⑤ 人間とハムスターの関係性を表現する
ゲームに必要な要素⑥ シンプルなルールで、多く人が遊びやすい
ゲームに必要な要素⑦ コンポーネントは全てタイルでいく
(コンポーネントがタイル“だからこそ良い”というゲームデザインあること)
ふむふむ。
なるほどなるほど。
できるかぁ!!!
いやいや、むりむり!
そんなん思いつかないよ!
最初に一緒に考えながら読んでくださいって書きましたが、いかがでしょう?
あなたにはアイデアが浮かんだのでしょうか?
かなり悩ましいお題ですが、ボードゲームデザイナーはそこに解答を出さなければいけません。
難しい課題に答えを出してこそ、ボードゲームデザイナーですよ。
というわけで、そこから、どのように考えたのかは別の記事で書こうと思います。
ヒントをくれたのは我が家の優秀なハムスター“茶白”さんでした。
ここから後編
さて、前回でどんなゲームを作ればいいかの条件が見えました。
今回は、それを受けてどこからどんなことを考えたのを書いていきます。
■ハムスターとピカチュウは違う
最初に考えたのは“ハムスターのポジション”についてでした。
前回も書きましたが、ペットのハムスター“茶白”さんはかなり自由に気ままに生きています。
ケージの近くまで行くと、嬉しそうに寄って来てはくれますが、基本あんま言うこと聞いてくれません。
餌の置き場所とか寝る場所とかちゃんと自分で決めたものがあるようで、ちょっと変えると、朝にはもう彼の場所に戻しています。
餌の好みもちょいちょい変わり、ちょっと食べたら飽きたりもします。
“茶白”さんは賢くて優秀なハムスターで、僕はとても良き友人だと思っています。
思っていますが、いまいち意思疎通できているのかどうかは謎です。
残念ながら、『ポケモン』の主人公サトシとピカチュウのように、
「いけ!ピカチュウ!10まんボルトだ!」「ぴ~かぁちゅ~う!」
って風にはやってくれません。
こういう距離感の再現はやっぱり大事で。
ゲーム中、ハムスターを完全にコントロールできるものにはしたくないっていうのが最初に決まりました。
プレイヤーにとって大事な相棒ではあるけれど、コントロールはできない。
例えば、手札にハムスターの行動“ジャンプ”とか“食べる”みたいなカードが複数枚あって、その中から選択するっていう内容だと、それはピカチュウのように明確なコミュニケーションを取れる相手になってしまうんですよね。
ハムスターのやること、うっすらわかるけど、完全には操作できない。
そんな存在にするってのが決まりました。
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