カセット・テープに十曲、コンピレーション・アルバムを作る(日本の名曲③)
A面
ぼくたちの失敗
世情
さよならの向こう側
恋人よ
聖母たちのララバイ
B面
悲しみよこんにちは
LONELY BUTTERFLY
カウントダウン
本能
『いちご白書』をもう一度
■コンピレーション・アルバム 日本の名曲③
前回は男性シンガーソングライターの浜田省吾、佐野元春、長渕剛、尾崎豊の四人を中心に十曲を選曲したので今回は女性シンガーソングライターの四人を中心に選曲しました。選んだ四人は五輪真弓、松任谷由実、中島みゆき、森田童子、これらは同世代、前回の男性四人はそれにばらつきがあったので今回はそれを統一、更に統一感を加えたかったので喜怒哀楽の哀を中心に十曲を選びました。先の四人の好きな曲を選ぶと哀しい曲ばかりになったのでそれに誘導されました。今回は初の試みでアンサーソングとして一曲、その曲がB面の一曲目、レコードの時代ではアルバムのB面の一曲目は全体のイメージから少し外れているような印象を持つこともあったので参考にしました。そのようになるように意識したわけではないですが今回も古い曲から順に並べているのが幸いして結果的に良かったです。A面の一曲目、二曲目が学生運動に関わる曲なので最後もそのようにしました。言わば、サブ・テーマが学生運動、前回のコンピレーション・アルバムが権力に立ち向かう情熱を意識したので今回は権力に立ち向かった結果の報われない虚しさを表わしたかったです。全曲、女性の歌なので宮本浩次のカバー・アルバム「ROMANCE 」をイメージ、結局は中島みゆきの「愛していると云ってくれ」みたいになりました。
「ぼくたちの失敗」
「ぼくたちの失敗」は1976年に発表された森田童子のセカンド・シングル、同じくセカンド・アルバムに収録されている曲でドラマの「高校教師」の主題歌としても有名です。ロックや音楽のガイド・ブック等を読んで気になっていたのが森田童子、時代はレコードからCDへと変化、森田童子のアルバムをCDで見かけることもなくようやく中古レコード専門店で見つけて購入したのが1990年、二十歳くらいの時でした。買ったのは「A・BOYボーイ」というサード・アルバムでこれには「ぼくたちの失敗」は収録されていませんでした。数年後にテレビから聴こえてきたのがこの曲を歌う森田童子の歌声、ただならぬ気配を感じてドラマを鑑賞、やはり、刺激的で毎週の放送を夢中になって観ていました。ドラマがきっかけで森田童子の僅かな情報を入手、現在でも知らないことばかりで謎を知りたい好奇心は消えないままです。「ぼくたちの失敗」が寂しいのはだめになったぼくという歌詞、かつては輝いていた姿が浮かび青春の終わりを印象付けています。この曲に限らず森田童子の曲は寂しいです。でも、優しくて癒されます。寂しさと優しさの関係について考えたくなる森田童子の歌や存在、寂しいから優しいのか、優しいから寂しいのか、あるいは優しくしても報われず、結果、寂しくなるのか、そのようなことを考えさせられます。印象に残りやすいので忘れないというよりも忘れたくない森田童子の存在です。
「世情」
「世情」は中島みゆきの曲で1978年に発表された「愛していると云ってくれ」の収録曲、金八先生でも有名な曲です。ロックが好きな立場からすると原点は忌野清志郎と坂本龍一の「い・け・な・いルージュマジック」、でも、さかのぼると一番、最初に衝撃を受けた曲が中島みゆきの「世情」でした。ドラマのシーンにフル・タイム、六分を超える曲の使用は大胆でスローモーションとゆっくりとした曲調は抜群の相性、中島みゆきの歌声も鳥肌が立つような不気味さで怨みを持つ幽霊みたいです。歌詞にシュプレヒコール、つまり、学生運動と関わりの深い曲と解釈していますが、ドラマもまた、権力に立ち向かう姿が描かれていました。勝利を収めた達成感、それは束の間で不良たちは警察に捕まります。動揺する金八先生たち、追いかける母親、うなだれる加藤優ら不良たち、それらの背景に「世情」が流れるわけですが、いつまで経っても忘れることがありません。学生運動に惹かれるのは「世情」や金八先生がきっかけだったことは間違いないと思います。後に頭脳警察、森田童子を聴くようになったのは必然的、言わばそれらの原点が中島みゆきの「世情」だったと言えるでしょう。
「さよならの向こう側」
「さよならの向こう側」は1980年に発表された山口百恵のシングル曲です。解散して終わったキャンディーズの「微笑みがえし」も印象的ですが結婚して終わる山口百恵の「さよならの向こう側」も感動的です。キャンディーズとは対照的にダイレクトに哀しみが示されている「さよならの向こう側」、動画で観ると歌番組では山口百恵がこの歌を歌い傍では同時代に活躍した歌手たちが寂しそうな表情を浮かべていて涙を誘導させられます。同じ年の1980年、新しい時代の一年目に松田聖子がデビュー、終わり方も見事ですが交代も測ったみたいに見事なタイミングです。これも動画で確認しましたが山口百恵と松田聖子が歌番組で和やかに会話していて貴重でありました。年齢的にはそれほど馴染みのない山口百恵、少し上の人たちのアイドルでそれを示しているのがアニメーションの「ちびまる子ちゃん」で確認できます。山口百恵にこだわるのは夫の三浦友和、忌野清志郎と関わりが深くその関連、検めて考えると奥さんが山口百恵で同級生がキヨシローの三浦友和は交友関係が強運です。山口百恵とキヨシローが並ぶ場面を間近で観ているはず、プライベートで二人の共演もあったのかもしれませんがこれもまた貴重であります。因みに三浦友和をテレビ等で見かけると山口百恵ではなくてキヨシローの話が出ないか期待が膨らみます。
「恋人よ」
「恋人よ」は1980年に発表された五輪真弓の代表曲、失恋の辛さがダイレクトに示された曲です。枯れ葉散る夕暮れ、雨に壊れたベンチ、それらの歌詞が効果的で率先して哀しい気分を誘導しています。むしろ、絶望的でこの先の恋愛、結婚は望めないような残酷が溢れた「恋人よ」です。年齢を重ね結婚もしていると鈍くなりがちな失恋の辛さ、でも、当事者だった時の心境を呼び寄せるとこの世の終わりのような気持ちだったことが確認できます。現代では独身を楽しんでいる風潮さえ感じられます。中には相手の両親の介護の煩わしさを回避する為に望まない人もいるみたいです。娯楽も溢れ困らないだけの経済的な余裕さえあれば恋愛も結婚も必要ないのかもしれません。「恋人よ」は二人で過ごした楽しかった記憶が寂しさに直結しています。何か違和感があったのはたかが失恋くらいでと思ったことでした。先のように結婚して鈍くなった失恋の辛さなのかと思いましたが、念の為、調べると五輪真弓が葬儀に参列、残された側の心境から「恋人よ」が作られたみたいです。知る前の想像はビル街の公園にトレンチコートを着た長い髪の女性でしたがそれを知って葬儀場に喪服を着た女性に一変しました。
「聖母たちのララバイ」
「聖母たちのララバイ」は1982年に発表された岩崎宏美のシングル曲です。意味深な歌詞に気付いたのは大人になってからのこと、性風俗の存在を知ったのがきっかけだったのかもしれませんが誰かに教わってわけでもないのにいつの間にか刷り込まれていました。仕事のプレッシャーやノルマの厳しさから性風俗に頼る人も多いのかもしれません。そのような勝手な解釈をしていますが歌詞に戦場が出てくるので制御の効かない過酷さを想像させられます。岩崎宏美を調べるとレコードのセールスも順調、アイドルのイメージが強かったですが実力や歌唱力は確かみたいです。意外なことに山口百恵と同学年、山口百恵のほうが年上と思っていたのはデビューの早さと大人らしい振る舞いやビジュアルから誘導されていたからなのかもしれません。つまり、先入観が働きましたが、もしかしたら「聖母たちのララバイ」と性風俗を結びつけるのは勝手な思い込みなのかもしれません。とは言え、癒されるのは確かな「聖母たちのララバイ」です。エレファントカシマシの宮本浩次が「ロマンス」をカバーしたことで親近感を寄せている岩崎宏美ですがタモリのお昼のバラエティ番組「笑っていいとも!」のテレフォン・ショッキングではキヨシローが初出演した際、友達として紹介されていたのが岩崎宏美でした。
「悲しみよこんにちは」
「悲しみよこんにちは」は1986年に発表された斉藤由貴の五枚目のシングル曲、アニメーションの「めぞん一刻」の主題歌です。五輪真弓の「恋人よ」がただの失恋ソングではないことを知ってしまった以上、取り上げないわけにはいかない「悲しみよこんにちは」です。個人的には言わば「恋人よ」のアンサーソング、「めぞん一刻」はラブコメに位置付けられていますが主人公の音無響子は未亡人という立場で「悲しみよこんにちは」はそれを示した歌詞、でも、明るい曲で悲しみを前向きに受け止めていて励みになる曲です。「めぞん一刻」はリアル・タイムで観ていました。1980年代後半の放送、今となっては昭和の雰囲気が溢れていて懐かしいです。昭和と言えば現在も活躍する斉藤由貴ですが、当時も人気で目立つ存在、ドラマや映画で観ることも多かったですがコマーシャルのイメージ、特にカセット・テープのイメージ・キャラクターの印象が強いです。これもまた、カセット・テープに因んだテーマなので外せませんでした。デビュー曲は「卒業」、タイトルが示すように卒業ソング、その定番、柏原芳恵の「春なのに」とセットで聴きたい昭和の名曲ですが「悲しみよこんにちは」も含めて終わりではなく始まりを意識したいそれらの曲です。
「LONELY BUTTERFLY 」
「LONELY BUTTERFLY 」は1986年に発表されたレベッカの六枚目のシングルです。レッド・ウォーリアーズの木暮武彦が在籍していたバンドで気にはなっていましたが熱心に聴くまでには至らず、音楽番組で自然に耳に入ってきたレベッカでした。ボーカルはNOKKOで他は男性のミュージシャン、キーボードの土橋安騎夫の活躍も目立っていた印象があります。元々は木暮武彦が中心のバンドで方向性の違いから皮肉にも脱退します。NOKKOと木暮武彦は恋人同士でこの件がきっかけで解消します。レッド・ウォーリアーズの解散後、木暮武彦はアメリカに渡る際に久しぶりにNOKKOに連絡して結婚、それを週刊誌で読みましたがその際に使われた写真がウエディング・ドレスとタキシードを着た二人、実に幸せそうに写っていました。「LONELY BUTTERFLY 」はNOKKOの歌詞、別れの歌でNOKKOと木暮武彦を連想させられます。結局、二人は離婚、それぞれ自身の夢を優先したと思っています。レッド・ウォーリアーズの「ルシアン・ヒルの丘で」は木暮武彦が作詞作曲、こちらも二人のことを指しているのでしょう。前向きな事柄であるはずの愛と夢が噛み合わない皮肉が切ない両曲ですが乾電池のプラスとプラスを合わせても時計の針は進まないことを再確認しました。
「カウントダウン」
「カウントダウン」は1997年に発表されたCocco のデビュー・シングルです。CHARA、UA等、1990年代の後半は新しいタイプのアーティストの活躍が目立つようになってきました。それらには名前も特徴があって傾向も示され流行っていたような印象があります。名前が示すように曲や歌声、個性も特徴があって中でもCocco は独特でした。「カウントダウン」に関しては悲しみや怒りが混在、暴力を呼び寄せる闇や病みが示されています。中島みゆきは涙で訴えかけますがCocco は同じ液体でも血が飛び出るくらいの罰を与えます。歌番組では快楽が混じる不敵な笑み、まるでホラー映画でした。音楽的にはハード・ロックというよりもグランジを連想、だから病みを感じるのか不安定、プロモーション・ビデオや歌番組で歌う姿も気がふれたような動きをしています。意識してそうしているよりも憑依、付随して歌に対してちゃんと向き合っていることの表れとして誠実に感じられました。一時、引退するCocco でしたがそれもまた、好意的に受け止めることができました。一旦はラスト・シングルになった「焼け野が原」、これをミュージック・ステーションで観ましたがハプニング 映像のようなインパクトでした。そう言えば同時期にSILVAというアーティストも登場、これもまた液体繋がり、漢字で「汁婆」と書いていたのも独特のセンスで面白かったです。
「本能」
「本能」は1999年に発表された椎名林檎のシングル曲です。自暴自棄、投げやりなムードがあの頃の自身の心境、生活にマッチしていた曲です。付随して解決策が見当たらず途方に暮れいたあの頃でしたがインパクトのあるプロモーション・ビデオやビジュアルを強調した椎名林檎は自身にとっては気分転換になっていたような気がします。やがて、自身の悩みは沈静化、椎名林檎は好セールスを維持しながら充実したキャリアを重ね現在に至っています。「本能」も含めて「ギブス」、「罪と罰」も印象的、これらが収められている「勝訴ストリップ」は発売を楽しみにしていて、でも、どこの店も売り切れで後日、聴くことになりました。このようなことも初めてで今後もそれほどないと思うので貴重な体験をしたと思います。椎名林檎を熱心に聴いていたのはこの頃の短い間ですが嬉しい知らせがエレファントカシマシの宮本浩次との共演でした。デュエット曲の「獣ゆく細道」を椎名林檎が作詞作曲、とは言え、宮本浩次らしい歌詞、本人が伝えたいようなメッセージが的確に示されていて励みになりました。たぶん、根底には女性という立場が大前提の椎名林檎の創作、宮本浩次も男という前提がわたし自身の好きな理由の一つなので細道ではなく筋道の通った共演でもありました。
「『いちご白書』をもう一度」
「『いちご白書』をもう一度」は2003年に松任谷由実が発表したアルバム「Yuming Composition FACES」に収録されている曲で元々はバンバンへの提供曲です。学生運動をモチーフにした曲で森田童子の「ぼくたちの失敗」、中島みゆきの「世情」と並べ甲斐のある松任谷由実の「『いちご白書』をもう一度」です。森田童子を除けば中島みゆきと松任谷由実は更に並べ甲斐があります。同性同世代、長いキャリア、数々の名盤及び名曲、提供曲の多さ等いくつかの共通項、異なることと言えば出身が北海道と東京、楽器のイメージとしてギターとピアノ、これもまた他にもいくつかありそうです。わたしたちの世代はどっち派?というのが定番で自身は中島みゆき派です。学生運動、それ以外では肉親との別れ、知人との別れ、つまり、旅立ちが共通している曲があります。どちらもデビュー・アルバムに収録されている曲で中島みゆきが「時代」でユーミンが「ひこうき雲」、不幸とは言えスタート、再出発に相応しい両曲です。因みにローリング・ストーンズとビートルズだったらローリング・ストーンズ派です。