見出し画像

「7つの習慣」の心理学的秘密(1)──宗教由来なのになぜ?

はじめに──「実は宗教的なメッセージだった!?」という驚き

「7つの習慣」という本を読んだことがある方は多いのではないでしょうか。ベストセラーとして知られ、自己啓発のバイブルのように扱われるこの書籍ですが、実は著者のスティーブン・R・コヴィー氏には宗教的なバックグラウンド(モルモン教)があるのです。

かくいう私自身、東京大学で分子生物学を研究していた“いわゆる科学畑”の人間で、宗教やスピリチュアルな世界観にはあまり興味がありませんでした。しかしこの「7つの習慣」に限っては、「読めば読むほど腹落ちする」「実践すると、本当に人生が変わったような気がする」と心から思えたのです。正直、“自己啓発”に懐疑的だった頃の私にとっては、大きな驚きでした。

では、なぜ科学的なエビデンスに直接は基づいていない(むしろ経営理論や宗教倫理観が根底にある)とされる「7つの習慣」が、こんなにも心理面に強い影響を与えるのでしょうか?

本記事シリーズでは、第1の習慣から第7の習慣まで、それぞれが「どのような心理学的な理論や概念とマッチしているのか」を私なりに検証しながらご紹介していきます。
最初のテーマは「主体的である (Be Proactive)」。ここが「7つの習慣」の最初の一歩であり、自己決定理論やコントロール感という概念と深く結びついているのです。

「主体的である」の真髄──実は自己決定理論の核心と重なる?

自己決定理論 (Self-Determination Theory) とは

自己決定理論は、エドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した心理学の理論で、人間のモチベーションウェルビーイングを左右する3つの基本的欲求に注目します。
1. 自律性 (Autonomy)
自分の行動を“自分が選択している”と感じられること。
2. 有能感 (Competence)
「自分はできそうだ」「成長している」と思えること。
3. 関係性 (Relatedness)
他者とのつながりを感じられること。

「主体的である」とは、まさにこの「自律性」を最大限に尊重する生き方です。7つの習慣で言われる「影響の輪」を意識して、自分でコントロールできる領域を明確化することは、“人から言われた通りに動く”のではなく、“自分の判断で動く”感覚を育ててくれます。すると、自然と「やればできるかもしれない」(有能感)も引き上げられますし、“自分が自分の人生をハンドルしている”という充実感を得やすくなるのです。

「コントロール感」と影響の輪──手放し上手がもたらす自由

もう一つ注目したい概念がコントロール感 (Sense of Control) です。心理学の古典的研究では、ローカス・オブ・コントロールという用語がしばしば登場します。これは、「自分の行動が結果に影響を及ぼしている」と感じられるか否かに関する指標で、たとえば自分の人生を「自分の力で切り開ける」と考える人は“内的統制感”が強いと言われます。

「7つの習慣」第一の習慣が強調する「影響の輪」は、まさにこの“内的統制感”をプラスに働かせる方法論です。
自分がコントロールできること:自分の言動や選択、行動プランなど。
コントロールできないこと:天気、他人の思考や行動、社会の大きな流れなど。

たとえば、私はかつて(研究室時代)“面倒くさがり屋”かつ“極端な夜型”で、朝11時に起きて研究室へ向かい、1年に1〜2冊ほどの本しか読まない生活をしていました。しかし、あるタイミングで「影響の輪」を意識するようになり、「とりあえず“自分が決められる部分だけ”を工夫してみよう」と思ったのです。すると、
• 夜更かしをやめて毎朝7時に起きる
• 月に10冊の本を読むルーティンを導入する
• 朝起きてからの15のステップ(軽い運動や瞑想など)を実行してみる

…といった習慣づくりが少しずつ身につきました。結果として「自分にはできない」「周囲の状況に押し流されているだけ」と感じていた時期よりも、圧倒的に心が軽く、充実感が増したのです。

ここで大事なのは、「コントロールできないものを手放す勇気を持てた」こと。手放すといっても放置ではなく、「変えられないなら、そのことを嘆いても仕方ない。変えられる領域にエネルギーを注ごう」という前向きな考え方を実践したのです。これが「主体的である」という第一の習慣を身につける最大のキモだと感じます。

宗教由来でも構わない? “効果があれば取り入れる”という姿勢

科学的か、宗教的か──本質は「人生をどう変えるか」

私は東京大学で分子生物学の博士課程を修了し、日本学術振興会の特別研究員として研究を続けていました。キャリアとしては「データや再現性こそがすべて」という世界にどっぷり浸かっていたため、宗教やスピリチュアルには正直懐疑的な方でした。

しかし、コヴィー博士(著者)のモチベーションが宗教的であろうとも、そのエッセンスが“自分の人生を豊かにする”とわかったなら、積極的に取り入れるのはむしろ理にかなっていると今では思います。たとえば医学の歴史だって、昔は「祈り」や「民間療法」から始まった部分があり、それらが後の科学に繋がったケースも少なくありません。

「主体的である」という考え方も、自己決定理論との整合性を考えると、現代の心理学と見事に噛み合うわけです。たとえ宗教色が多少あるとしても、実践してみて効果があるなら取り入れる、この柔軟なスタンスが結果的に「人生の選択肢を増やす」ことに繋がるのではないでしょうか。

「なぜこんなに納得感があるの?」──ストーリーと体験談が後押しする

もう一つ忘れてはいけないのが、「7つの習慣」の書籍自体が多くの実践例やストーリーを盛り込み、読者の感情に訴える構成になっていることです。学術的な理論書ってどうしても論文っぽくなりがちで、読んでもピンとこない部分が多いですよね。

一方、「7つの習慣」は事例が豊富で、「そういうときどう考えればいいのか」という疑似体験がしやすい。本を読んだあとに「なるほど」「これは実践してみよう」と思わせる魅力があります。そこにさらに、宗教由来の“倫理観”や“正しさ”が合わさっているからこそ、多くの人が「人生の指針」としてすんなり取り入れられるのだと思います。

もちろん、科学の立場から厳密に検証できている部分ばかりではありません。しかし、人間の行動変容に大切なのは、“納得して具体的に動いてみる”ことです。きっかけが宗教であろうと心理学であろうと、「やってみたい」と思うパワーこそが大事。そこにこそ、「7つの習慣」の真の価値があるのではないでしょうか。

実践のヒント──「主体的である」ための3ステップ

ここからは、私が「主体的である」を身につけるうえで意識している3ステップをご紹介します。ちょっとしたコツですが、日常的に取り入れるだけで「自分で決めている」感覚がぐっと高まると思います。
1. 「影響の輪」を可視化する
• 紙やノートアプリに「自分でコントロールできる領域」「コントロールできない領域」を分けて書き出しましょう。
• 「天気」「他人の性格」など、どうにもならないものが目についたら、「これは考えてもしょうがないや」と手放す習慣をつけるだけで、脳が余計なストレスから解放されます。
2. 朝や夜のルーティンを“自分仕様”にする
• 私は「朝7時に起きて15のステップをする」「夜の一定時間はゲームや娯楽に没頭OK」など、自分なりのルールを設計しました。
• 例え細かい習慣でも、「それをやる/やらない」を自分で決めているという事実は、主体性を育む強力な土台になります。
• 逆に、「周りがそう言うからなんとなくやっている」という習慣を洗い出してみて、「本当に必要か?」と問い直すのもおすすめです。
3. “できた”感覚を記録し、自己効力感を強化する
• 「今日は10ページだけでも本を読めた」「朝の散歩を5分でも実践できた」など、小さな成功体験をスマホのメモでもいいので書きとめましょう。
• 自己決定理論で言うところの“有能感”を満たすためには、客観的な成功データを積み上げることが効果的です。脳は「自分にはできない」「自分なんて…」というネガティブ思考を勝手に作り出しますが、“証拠”があればあるほど「ほら、実際ちょっとずつできているじゃん?」と返すことができます。

参考文献・関連資料
• E. Deci & R. Ryan (1985) Intrinsic Motivation and Self-Determination in Human Behavior.
• Rotter, J.B. (1966) Generalized expectancies for internal versus external control of reinforcement. Psychological Monographs, 80(1).

まとめ──第1の習慣から始まる「自分を舵取りする人生」

• 「7つの習慣」は、一見“自己啓発本”の代表格。しかし本来は経営学や宗教教育の要素が強い。
• それでも「主体的である」は、自己決定理論コントロール感と見事に一致し、現代心理学的にも効果を発揮しやすい要素が詰まっている。
• 「影響の輪」を意識し、「自分のコントロール領域に集中」することで、無力感に陥りづらくなる。これが結果的に「やればできる」という感覚を高め、行動変容を後押しする。
• 宗教由来であっても、本当に役立つ知見なら柔軟に取り入れる姿勢が、「主体的な人生」を築くための鍵となる。
• 具体的には「自分が決められる小さな行動から始める」「少しでもできたら記録して有能感を得る」など、ステップを細かく設定するのがコツ。

私は研究者としての道を歩んできましたが、「朝11時起き+年間数冊の読書生活」から「朝7時起き+月10冊読書の習慣」へとシフトできたのは、まさに第一の習慣を意識し始めたからでした。決して一夜にして劇的に変わったわけではありませんが、主体性を育む意識が「明日はもう少しうまくやれるかも」と思える勇気をくれるのです。

今後の連載でも、第2〜第7の習慣がいかに心理学の主要概念と不思議なほど噛み合っているのかを解説していきます。あなたの好奇心をくすぐりつつ、ワクワクしながら読み進められる内容をお届けできればと思います。もし「今まさに自分に必要かも」と感じたなら、ぜひ「主体的である」を今日から少しだけ意識してみてください。意外な気づきや、ちょっとした行動の変化が、人生全体の舵を取り戻すきっかけになるかもしれません。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。「これは意外だった!」「実践してみたい!」と感じたら、ぜひ“いいね”やコメントでフィードバックをいただけると嬉しいです。好評でしたら続きも書いていきます。次回の第2習慣もお楽しみに。

いいなと思ったら応援しよう!