あなたの疲れは“内向性”のせい? それとも“協調性”のせい? 日本人特有のエネルギー補給を見直す方法
先日、「内向型」や「HSP」という言葉がSNSで話題になっているのを見かけました。私自身、大学院時代から「人と会うとなんだか疲れる」「一人で考える時間がないとしんどい」と感じることが多く、「自分は内向型かな?」と考えていた時期があります。
しかし、最近になってビッグファイブ理論(Five-Factor Model)の文献を読み込んでいたところ、内向性(Introversion)と協調性(Agreeableness)はまったく別の性格特性であることを再確認しました。もしかしたら、「内向性で疲れる」と思っていたのは実は「協調性で疲れていた」のかもしれない――そう思ったのです。
内向性と協調性、何が違うの?
• 内向性とは
簡単に言えば、「エネルギーを補給できる場が自分の内側にある」特性のこと。一人の時間に集中して考えたり、静かな場所で読書をしているときに元気が回復する人が内向性が高い傾向にあります(Eysenck, 1967)。
• 協調性とは
他者に優しく、衝突を避けようとする傾向を示します。日本では「気を遣うのが当たり前」とされやすく、職場でもプライベートでも「みんなの顔色をうかがう」ことが美徳だったりします。しかし、これが行き過ぎると、他人への共感や配慮にエネルギーを奪われて疲弊するのです(Costa & McCrae, 1992)。
つまり、「会議が多いとくたびれる」のが、必ずしも内向性だけが原因とは限らないのです。協調性が高い人が「なるべくみんなが気持ちよく意見できるようにしなきゃ」「反論したいけど、空気を悪くしたくない…」と自分を抑え込むうちに、ぐったりしてしまうケースも多々あります。
日本人は「協調疲れ」しやすい?
私が大学院で研究をしていた頃、ある国際学会で参加者同士の議論スタイルの違いに驚いたことがありました。海外からの研究者たちは、自分の意見があればバシッと主張し、相手の意見に積極的にツッコミを入れていました。もちろん丁寧なやり方ですが、「空気を読む」よりも論理や根拠の確認を重視している印象でした。
一方、日本の研究室では、「そうですよね」「たしかに…」と相手の考えに合わせる姿勢が強く、「いや、それは違うのでは?」という否定的な意見はあまり表に出ません。確かに衝突を回避できて雰囲気は穏やかですが、協調性が高い分、ストレスを内側に溜めがちです。
こうした文化的背景もあって、日本人の多くは内向性ではなく「協調性をフル稼働させた結果の疲れ」を抱えている可能性が高いのではないか、と私は感じるようになりました。
エネルギー補給を見直す「ワクワクする」ステップ
ここで大事なのが、内向性(エネルギーをどこで補給するか)と協調性(どれくらい相手に合わせるか)を区別して考えることです。私の経験とリサーチを踏まえ、以下のステップを提案します。
1. まずは自分の疲れの正体を知る
• 人と会ってヘトヘトになるのは、話をすること自体が苦手なのか? それとも相手の感情や雰囲気を察しすぎて疲れているのか?
• 具体的なシーンを思い出し、どんな思考が頭を占めているかを紙に書き出してみます。筆者は大学院時代の実験後、研究室の飲み会で「みんなの話を聞いてばかりで、本当は自分の仮説を話したかった…」とどっと疲れた経験がありました。
2. 内向性が高いかをチェック
• 「そもそも大人数の集まりが多すぎる」「スケジュールがぎっしりで、一人になる時間がない」などの場合は、自分に合ったペースを取り戻す必要があります。私自身、博士課程時代は昼夜を問わず研究室に詰めていましたが、1人で黙々と考えている方が、頭が冴え、アイデアがわきやすくなりました。
3. 協調性をゆるめる訓練
• 「みんなに合わせすぎる」「笑顔で相槌を打ってばかり」など、相手にエネルギーを注ぎすぎている場合は、少しだけ“NO”と言う練習をしてみましょう。日本人だからこそ難しいかもしれませんが、最初は小さなことからで構いません。
• 例えば、飲み会の二次会を断る、土日のグループ連絡は少し遅らせて返信するなど、ほんの少しの調整だけでも「自分が主導権を持っている」という感覚が芽生えます。
4. “エネルギー補給”を自分で設計する
• 内向性が高い人は、家で本を読む・じっくり考える時間を充実させるとワクワクできるでしょう。私も読書を習慣化し、月10冊ペースに落ち着いたら、無理なく知的好奇心が満たされるようになりました。
• 一方、刺激を求める外向的なタイプならば、人と会う、セミナーに参加する、カフェで作業するなど、外的な環境変化でエネルギーを得るのが効果的です。
結論:協調性を緩めつつ、自分に合った“エネルギー補給”を
私自身、東京大学の研究室で分子生物学の博士号を取得し、今はITベンチャーから独立してコンサルティングをする道へとシフトしました。研究でAIや脳科学を学んだこともあり、「人の行動はかなり強い社会的・文化的要因に左右される」と改めて感じています。
振り返ってみると、日本の同調圧力は「みんなで力を合わせる」という良い側面を持つ一方で、協調性が高すぎることで自分の内面を無視し、結果的に疲労を蓄積させてしまうリスクがあるのです。
• 「自分は内向的だから疲れやすい」と決めつける前に、そもそも協調性で疲れているのでは?と視点を変えてみてください。
• そして、そのうえで「自分はどこでエネルギーを得るタイプか?」を見極めましょう。家でじっくり休むのか、外へ出て人との会話でリフレッシュするのか。
• 日本人特有の“相手を気遣いすぎる”習慣を少しだけ緩めて、自分に本当にフィットするスタイルを選ぶことで、心身のバランスが驚くほど整ってきます。
以前の私がそうだったように、「内向性だから疲れるんだ…」と自己診断していた方にとって、この切り口はまったく新しい気づきかもしれません。ぜひ「協調性の使い方」をゆるめつつ、自分のエネルギー補給の最適解を探してみてください。ワクワクする方法で、自分の力を最大限に引き出しながら、無理せず成長していきましょう。
まとめ
• 内向性と協調性は別の次元の特性
• 日本人は協調性が高い文化的要因から「周りに合わせすぎる疲れ」が起きやすい
• 自分に合ったエネルギー補給方法(家で過ごすか、外で刺激を得るか)を知るのが大切
• 協調性を少し緩め、主体的に行動するだけでも疲れ方は大きく変わる
「あなたの疲れは、“内向性”が原因かと思いきや、実は“協調性”のせいだった?」
そう気づいた時、きっと人生の選択肢はもっと広がるはずです。今までの常識にとらわれず、希望を持って、自分だけの最適なエネルギー充填方法をぜひ探求してみてください。
参考文献
1. Hans J. Eysenck, Sybil B.G. Eysenck (1967). The Biological Basis of Personality. Springfield, IL: Charles C. Thomas.
2. Costa, P. T., & McCrae, R. R. (1992). Normal personality assessment in clinical practice: The NEO Personality Inventory. Psychological Assessment.