メガネ初恋【#毎週ショートショートnote:企画参加作品】
「メガネ初恋の症状で間違いありません。」
医師は私の方にくるりと向き直り、レントゲン写真を指し示した。
「心臓のこの辺りに、ちょうどメガネに似た形の影が見えますよね。」
胸が苦しく、動悸も激しくなってきたため、私は専門医を訪ねた。斜めにズレた黒い影は、ちょうど大村 崑さんのそれと似ていた。
「私の年齢からすると、やはり遅すぎるのでしょうか?」
「いやいや、人生ね、何かを始めるのに遅すぎるなんてことはありませんよ。」
医師はおだやかな表情で私に告げる。
「ただね、無理だけはいけませんよ。冬の海は水温も低く、心臓により負担がかかる。深く潜ればなおさらだ。」
「わかってます。けど・・鮑の獲れ高を考えると、気持ち抑えきれなくて」
「わかります。今日のところはお薬出しておきますので、あとは身体を冷やさないよう。」
「ありがとうございます。」
んん、やっぱ少し寒い。
その日職場から直行した私は、衣服から海水をしたたらせながら、診察室を後にした。
== 了【410文字(改行含まず)】==
こちらの企画に参加させていただいております。
文字数カウントはこちらから。
いいなと思ったら応援しよう!
チップで応援すると、デールがよろこびます。