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顧客体験から事業機会を探索する “顧客活動バリューチェーン”

大企業の新規事業開発を支援するNEWhのサービスデザインチームのマネージャーをしている今村です。
ここでは新規事業をクライアントと共に“共創プロセス”で伴走支援する中で得られた知見やノウハウをお伝えしていきたいと思います。

今回取り上げるテーマは“事業機会探索”についてです。
事業機会探索のアプローチはいくつかありますが、その中でも「顧客体験」を起点とした事業機会探索のアプローチについてお話をしていきます。

“顧客起点での価値づくり”に関するテーマですので、新規事業開発に興味のある方だけでなく、デザインやマーケティング領域の方にも読んでいただけると嬉しいです。


自社起点での事業機会探索

まず「そもそも新規事業はなぜ必要か?」という大前提からです。

「なぜ新規事業が必要か?」この問いに対する答えはシンプルです。
自社が提供する顧客への価値を高めるためです。いわゆる「付加価値を高める」ということですね。

では「付加価値を高めるためにはどうすべきか?」という問いです。
古典的な競争戦略論では、自社が営む事業活動のバリューチェーン(VC)を分析し、VC上での付加価値を増大させるための戦略を考えましょう、というアプローチが真っ先に思い浮かびます。

以下のような自社の事業活動ステップ「調達〜設計〜製造〜販促〜サービス」において、どのステップで付加価値を増大し競争優位性をつくれるか、が論点になります。(事業活動ステップの中身は業界・会社ごとに異なるので必ずしもこのバリューチェーンになるとは限りませんが)

自社の事業活動のバリューチェーンから付加価値を生み出す考え方

ただ自社の現在の事業活動の中での付加価値創造活動には限界があります。
そこで、自社の事業活動領域を拡大し、バリューチェーンを広げることで付加価値を高める、ということになります。

たとえば、コーヒー豆を生産している会社が店舗を持って販売したり、さらにはカフェを経営する。エンジンを製造しているメーカーが、自社で自動車や飛行機などの製品をつくるといったことが該当します。

「新規事業」と「既存事業」、この2つの言葉を並べてみると、新規と既存ということで、対比関係に捉えがちです。
しかし、既存事業を軸にバリューチェーンを広げていくという意味では、対比関係ではなく、新規事業は既存事業の拡張関係です。
そういう意味で、このタイプの新規事業開発は、事業活動バリューチェーン拡張型といえます。

このような自社の事業活動を軸に新しい事業活動をバリューチェーン上で拡張し繋げていくアプローチが、“自社起点での事業機会探索”の代表的なアプローチのひとつです。

顧客起点での事業機会探索

ここまで自社起点での事業機会探索アプローチのひとつである「バリューチェーン拡張型」についてお話してきました。

しかしこのタイプの新規事業には限界があります。

自社の事業活動に目が向いてしまっているので、新しい技術によって生まれる新たな市場に対して事業機会を発想することができないのです。
例えば、ブロックチェーンや生成AIなどが生み出す新たな市場の事業機会は、すでにある既存市場に対する自社の生産活動を見ていても発想することはできません。

そこで重要な視点が、市場の顧客体験にフォーカスして事業機会を探索するアプローチです。

自社の事業活動のバリューチェーンではなく、顧客活動のバリューチェーンにフォーカスします。

では“顧客活動のバリューチェーン”とは一体どんな概念でしょうか?

その概念はとてもシンプルです。

自社の製品・サービス利用が含まれる、顧客の一連の体験を行動ベースで時間軸に並べたものです。
時間軸が進むに従って、サービスに対する関わり度合い(エンゲージメント)が高まっていく構造です。

顧客活動バリューチェーンのフレームワーク

各顧客活動のステップは必ずしも上記のようになるわけではありませんが、流れとして、サービスを知って利用し共有するまでの一連の顧客体験がカバーされているのが理想です。
一連の体験の過程でエンゲージメントが高まり、サービスのファン化へとつながり、それが他社との競争優位性を生み出すからです。

購買行動やサービス利用行動における顧客活動バリューチェーンを描き分析してみると、顧客活動すべてがシームレスにつながってストレスなく体験がカタチづくられているわけではないことがほとんどです。
そこに新たな事業機会が潜んでいる可能性が高く、顧客の“ペインやニーズ”が見つかるかもしれません。
見つかったペインやニーズに対して「新たな価値を提供するサービスや製品とは何か?」を考える。
顧客活動バリューチェーンを描き分析することによって、そのような営みが可能になります。

Amazonの顧客活動バリューチェーン

ここまで、自社起点のバリューチェーン分析による事業機会探索との対比として、顧客起点のバリューチェーン分析による事業機会探索の考え方についてお話をしてきました。

少し抽象的な話が続いたので、具体的な事例を紹介したいと思います。

顧客活動バリューチェーン起点に事業を拡大している企業の代名詞はAmazonです。
Amazonの顧客活動バリューチェーンは、サイトに訪問し、商品を探して比較し購入する、さらに利用するまでの顧客活動をシームレスに繋いで優れた体験を提供していることで他社には実現できないレベルでサービスの付加価値を高めています。

Amazonの顧客活動バリューチェーン

「顧客がサイトで商品を購入し利用するまでの体験をどうしたら素晴らしいものにできるか?」という問いから付加価値を生み出す戦略がつくられています。

これがAmazonの根幹を成す顧客体験戦略です。

重要なポイントは、自社の事業に捉われていては、それぞれの顧客活動を広げて繋げることができないということです。

言い換えると「事業を越境していくことが求められる」ということです。

以下の図を見てください。顧客バリューチェーンの顧客活動ごとに競合他社をマッピングしたものです。

顧客活動ごとに競合がいる世界

【商品を探す】顧客活動ステップは「検索事業」であり、競合はGoogleやInstagramとみることができます。
次の【商品を比較する】顧客活動ステップは、「比較サイト事業」と捉えることができ、競合は例えば価格.comだったりします。また商品レビュー動画がたくさんあるYoutubeも競合と捉えることもできます。

自社の業界活動に捉われて自社の活動のみに目を向けていると、顧客体験視点でシームレスな活動を生み出す戦略は生まれないということです。
シームレスな優れた顧客体験を生み出すためには、自社の事業領域を越境する必要があるのです。

もちろん、既存事業領域を越境し新たな事業を立ち上げるのは時間がかかるので、M&Aなども打ち手として考えていく必要があります。

これから加速していく世界

これからもっと製品やサービスがつながっていき、さらに生成AIが進化していくとシームレスな顧客体験の進化が加速していきます。

優れた顧客体験の提供を志向する企業は、どんどん業界を越境して顧客体験を軸にサービスと製品をつなげてきます。
そのときに、業界に閉じて体験がシームレスにつながってない製品やサービスは顧客活動起点での付加価値づくりができず市場価値を失ってしまう、そんなリスクが潜んでいるのが、まさにこれからも続く市場環境です。

そうならないためにも、顧客体験バリューチェーンによる付加価値づくりのアプローチを戦略の中にしっかりと入れていく。そんな姿勢がこれから求められるのではないかと考えています。

今回はこれでおしまいです。顧客起点の新規事業開発アプローチのひとつのフレームワーク、“顧客活動バリューチェーン”を紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。

新規事業開発アプローチのその他のタイプについて興味がある方はこちらをご覧ください↓

最後まで読んでいただきありがとうございました。「♡スキ」をいただけると今後の励みになります。ではまた!

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