あの子のお便り
自分のハガキ投稿が採用されるのが、小さい頃のちょっとした夢だった。
特に、NHKの教育テレビのイラスト投稿にあこがれていて、おじゃる丸とか、忍たま乱太郎とか、天才てれびくんとかのお便りコーナーをみてはついつい「いいなあ」と羨望の眼差しを向けていた。
しかし、そんな憧れいっぱいのちびっ子は現実を知らな過ぎた。小学校に上がるまで、お便りがポストを通じてテレビ局に届き、選別された上でオンエアされるという一連の流れを知らず、ブラウン管テレビに紙ごとブチ込めば放映されると思っていた。
それゆえ、色鉛筆で紙いっぱいにニャンちゅうとお姉さんの似顔絵を描いて、親に隠れてこっそりブラウン管テレビの横面の溝に紙をねじ込むトライアルをしたことがある。我ながらワイルドな幼少期。
小学生になってからは「おたより=ワンランク上の世界」という方程式は健在のまま、投稿は試みずに一視聴者として楽しむ立場を謳歌していた。
そんなある日、友人から「お便りが採用された!」とメールがきた。
よくよく聞いてみると、進研ゼミ付録の娯楽冊子にあるおたよりコーナーに彼女の投稿が掲載されたらしい。
進研ゼミ生だったこともあって、「おめでとう!すごい!みる!!」
すぐに返信して、冊子を開いた。
その後彼女から、投稿内容を示唆する返信がきた。
「『おばあちゃんがパンチパーマで帰ってきた』ってやつだよ!」
・・・おばあちゃん。そういや、あの子のおばあちゃんそんなヘアスタイルだったな。またパンチパーマ更新したんかな。そんなことを思いながら、賞味10ページ弱のおたよりコーナーをくまなく探した。
しかし、30分くらい探し続けても投稿が見つからない。一文字一文字読んでも、イラストを隅から隅まで見ても、帰宅済みのパンチパーマを効かせた祖母はどこにもいない。
諦めかけたその時、ある投稿が目に入った。
『愛知県/10歳/女/おばあちゃんがパンチパーマで帰ってきた』
30分にも及ぶファイトの末、パンチパーマ祖母を発見。
彼女は偽名に祖母を召喚するという高等テクニックを使い、ベネッセに選抜されていた。きっとコラショもしまじろうも腰抜かしただろうよ。
そもそも、進研ゼミのワンコーナーにペンネームで当てに行く発想はなかなか湧かない。全国の健全な小学生諸君らが集うおたよりコーナーには、それはそれは王道でコンパクトな名前が並ぶ。
「○○っち」「うさぎちゃん」「ポケモン仙人」「Yuka」「刀剣」
おそらくこんな感じ。お手軽に実名詐称出来る収まりのいい名前を選ぶ、それがベネッセに集いし少年少女たち。たぶんそう。
パンチの利いたパンチパーマ仕様のダブルパンチペンネームのせいだろうか。
彼女の肝心の投稿内容はどうあがいても思い出せないが、ペンネームだけは今でも鮮明に思い出せてしまう。
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