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【2023年3月】カルチャージャンキー月報

実は、2月の中旬からメンタルと体調が不調になり、家からあまり出ることができず、映画も展示も以前より観に行けないという3月。
本も集中できずあまり読めない状況でした。
そんな状況ではありますが、2023年3月の報告です。ご査収ください。

映画

BLUE GIANT

人気ジャズ漫画「BLUE GIANT」をアニメ映画。俳優の山田裕貴、間宮祥太朗、岡山天音が主要人物を演じた。また、音楽は上原ひろみが手がけ、劇中のピアノも上原ひろみが演奏している。

あらすじ
仙台に暮らす高校生・宮本大はジャズに魅了され、毎日ひとり河原でテナーサックスを吹き続けてきた。卒業と同時に上京した彼は、高校の同級生・玉田俊二のアパートに転がり込む。ある日、ライブハウスで同世代の凄腕ピアニスト・沢辺雪祈と出会った大は彼をバンドに誘い、大に感化されてドラムを始めた玉田も加わり3人組バンド「JASS」を結成。楽譜も読めずただひたすらに全力で吹いてきた大と、幼い頃からジャズに全てを捧げてきた雪祈、そして初心者の玉田は、日本最高のジャズクラブに出演して日本のジャズシーンを変えることを目標に、必死に活動を続けていく。
https://eiga.com/movie/95954/

漫画自体は知っていて、気になっていて読めていなかった作品。原作未読で観に行ったのだが、本当に良かった。
友人が絶対音のいい環境で観たほうがいいとすすめていたので、Dolby Atmosのシアターでの鑑賞。トラブルで冒頭の5分くらいが通常の音響で上映され、そのあとに再度Dolby Atmosで最初から上映されたのだが、サックスの音がまったく違っていた。

ストーリー自体は、王道の展開で進んでいく。登場人物各々の葛藤や努力に心が打たれ、そして本格的なサックス、ピアノ、ドラムのセッションに気持ちが高ぶっていく。

音がなかったはずの漫画の映像化。相当な音楽のハードルがあったのに、それを飛び越えていく上原ひろみの演奏と作曲。
たまたま、ラジオを聞いていたら映画『BLUE GIANT』の脚本家・南波永人さんが作曲について語っていたのだが、漫画の段階で上原さんが関わっていて、漫画の中に出ててくる楽譜にはすでに音符が書かれて、曲がイメージできていたらしい。上原ひろみ恐ろしい…

映像化が決まる前から漫画の中には譜面が描かれていた
向井:漫画の中で雪祈が作曲した曲があるじゃないですか。でもそれって漫画だからどんな曲か作ってなかったわけですよね?
南波:それがですね、元々上原ひろみさんが作っていて、漫画の中に小さく譜面が出てくるんですけど…もうその時点から。
向井:漫画の段階できてるんですか?
南波:そうなんです。映像化になるとは思ってなかったんですけど、一応このときのこのイメージっていうのをなんでしょう…遊びでじゃないですけど漫画の中の譜面にはちゃんとした曲が載ってるんですよ。
向井:その時点で完成してたんですか!?
https://www.tbsradio.jp/articles/67547/

アニメとしては、スラムダンクを観た後なので、演奏シーンのCGは違和感がありクオリティにちょっと粗があるというか、気になる点があったのだが、音楽がそれをカバーしていた。音が映画の絵として現れる作品だと思った。

3月末時点では上映館がほとんどなくなっていると思うが、ぜひ良い音響で、映画館のスピーカーで観て欲しい。


フェイブルマンズ

スティーブン・スピルバーグ監督作品。映画監督になるという夢をかなえた自身の原体験を映画にした自伝的作品。

あらすじ
初めて映画館を訪れて以来、映画に夢中になった少年サミー・フェイブルマンは、母親から8ミリカメラをプレゼントされる。家族や仲間たちと過ごす日々のなか、人生の一瞬一瞬を探求し、夢を追い求めていくサミー。母親はそんな彼の夢を支えてくれるが、父親はその夢を単なる趣味としか見なさない。サミーはそんな両親の間で葛藤しながら、さまざまな人々との出会いを通じて成長していく。
https://eiga.com/movie/97982/

誰もが映画、映像、写真を撮影できる時代にスピールバーグが突きつけるクリエイションの身勝手さや暴力性。カメラは、ときに真実を映し出し、編集はときに無意識の意識を描く。

映画の素晴らしさや、創作の純粋さを描いているのだが、純粋なクリエイティブは、誰かを救い、そして傷つけていく。
そして、そのことを自覚し乗り越えた映画に取り憑かれた人間が、多くの人の心を動かす作品を生み出すのだと思う。

先月観た「バビロン」同様に、映画に取り憑かれた人間が映画に捧げた、映画のための映画でした。
スピルバーグ作品が好きな人はぜひ。彼がどんなバックグラウンドを持ち、いままで映画を作り出してきたのかが知ることができる。


EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONCE

エックスやムーンライト、ミッドサマーなどの人気作品を制作、配給しているスタジオ「A24」が贈る最新作。アカデミー賞の作品賞、監督賞など、計7部門を受賞している。

あらすじ
経営するコインランドリーは破産寸前で、ボケているのに頑固な父親と、いつまでも反抗期が終わらない娘、優しいだけで頼りにならない夫に囲まれ、頭の痛い問題だらけのエヴリン。いっぱいっぱいの日々を送る彼女の前に、突如として「別の宇宙(ユニバース)から来た」という夫のウェイモンドが現れる。混乱するエヴリンに、「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と驚きの使命を背負わせるウェイモンド。そんな“別の宇宙の夫”に言われるがまま、ワケも分からずマルチバース(並行世界)に飛び込んだ彼女は、カンフーマスターばりの身体能力を手に入れ、全人類の命運をかけた戦いに身を投じることになる。
https://eiga.com/movie/96942/

アジア人俳優をメインキャストに、マルチユニバースの世界(複数の泡によるもの)を描いた作品。
荒唐無稽で無茶苦茶な演出とストーリー展開。下ネタやメタ的な表現が多用されており、この荒唐無稽な世界観やストーリーが苦手で、つまらないと思う人も多いものだと思う。
でも、そんな無茶苦茶な物語でも、家族という形や、アジア人の人種問題、また家族愛、同性愛などのアメリカという国が抱えている問題をうまくこの物語の中にはめ込んで、押し付けがましくなく鑑賞者に提示している。

また、マルチバースの世界では、この時にこの選択をしない(結婚をしない、親元から離れないなど)自分というものが存在するのだが、このマルチバースの表現部分が自分にはめちゃくちゃ刺さった。
誰しもが想像するであろう別の人生を歩んでいる自分、だがその自分があくまでも理想の幸せを掴む自分の想像でしなく、現在の自分の幸せや理想は自分自身で見つけていくんだということも示していた。
この人生の選択の表現は、ドラマ「ブラッシュアップライフ」も描いていたようにコロナ以降のひとつのトピックなのかなとも思ったり。

「EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONCE(以下、エブエブ)」は、アメリカにおけるアジア人の状況や、日本にもあるような家父長制度、長老や敬老の文化(年長者の言うことを聞く、忖度するなど)、LGBTQにおける現状を理解していくと面白く観れると思う。自分自身も竹田ダニエルさんの「世界と私のAtоZ」やツイートを観てアメリカにおける文化、環境への理解を深め、面白いと感じた。
また、マルチバースの世界を描いた実写映画ではないが、同じようなアメリカにおけるアジア人(アジア系アメリカ人)の状況をうまく描いているのは、ピクサーのアニメ映画の「私ときどきレッサーパンダ」だと思う。

エブエブに関しては、無茶苦茶なのに本当に色々な見方ができる映画。衣装や映像表現に関しても、優れていると思う。
ただ、好き嫌いが本当に分かれるので、映画慎重派は配信を待って観ることおすすめします。

本・雑誌

冬野梅子「まじめな会社員」

あらすじ
コロナ禍における、新種の孤独と人生のたのしみを、「普通の人でいいのに!」で大論争を巻き起こした新人・冬野梅子が描き切る! 菊池あみ子、30歳。契約社員。彼氏は5年いない。いろんな生き方が提示される時代とはいえ、結婚せずにいる自分へ向けられる世間の厳しい目を、勝手に意識せずにはいられない。それでもコツコツと自分なりに築いてきた人間関係が、コロナで急に失われたら…!?
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784065259283

友人にすすめられて読んだのだが、めちゃくちゃ食らった。
嫌な気持ち、暗い気分になるのに、読みすすめてしまうマゾな自分がいる。そして、読み終わったあとにダウナーになっていく。メンタル不調のときに読むものではなかった…笑

タワマン文学やTwitter文学というものが持て囃されているが、「まじめな会社員」はサブカル文学というかサブカルにすら完全浸かりきれず、何も生み出さずひたすら消費をする、一般的に幸せというものから少し離れたところにいる、または一般的な幸せを掴んだ、この日本、特に東京、首都圏、大都市圏に存在するであろう多くの20代後半から30代の男女に現実と理想の乖離を突きつけるのではなく、徐々に自覚させるめちゃくちゃ悪い漫画(褒めてる)だなと思った。

ネット上に溢れている成功者たちのキラキラした生活と成功体験、インスタや雑誌に取り上げられる丁寧な生活、POPEYEやGINZAに溢れかえるシティボーイ / シティボーイの世界。そんな人たちの暮らしをただ眺め、何者かにもなれなかった私たちの漫画。
読んだあとに実家に数日帰ったのだが、色々考えてしまったな。

一話目は無料で読めるのでぜひ。


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