【2023年3月】カルチャージャンキー月報
実は、2月の中旬からメンタルと体調が不調になり、家からあまり出ることができず、映画も展示も以前より観に行けないという3月。
本も集中できずあまり読めない状況でした。
そんな状況ではありますが、2023年3月の報告です。ご査収ください。
映画
BLUE GIANT
人気ジャズ漫画「BLUE GIANT」をアニメ映画。俳優の山田裕貴、間宮祥太朗、岡山天音が主要人物を演じた。また、音楽は上原ひろみが手がけ、劇中のピアノも上原ひろみが演奏している。
漫画自体は知っていて、気になっていて読めていなかった作品。原作未読で観に行ったのだが、本当に良かった。
友人が絶対音のいい環境で観たほうがいいとすすめていたので、Dolby Atmosのシアターでの鑑賞。トラブルで冒頭の5分くらいが通常の音響で上映され、そのあとに再度Dolby Atmosで最初から上映されたのだが、サックスの音がまったく違っていた。
ストーリー自体は、王道の展開で進んでいく。登場人物各々の葛藤や努力に心が打たれ、そして本格的なサックス、ピアノ、ドラムのセッションに気持ちが高ぶっていく。
音がなかったはずの漫画の映像化。相当な音楽のハードルがあったのに、それを飛び越えていく上原ひろみの演奏と作曲。
たまたま、ラジオを聞いていたら映画『BLUE GIANT』の脚本家・南波永人さんが作曲について語っていたのだが、漫画の段階で上原さんが関わっていて、漫画の中に出ててくる楽譜にはすでに音符が書かれて、曲がイメージできていたらしい。上原ひろみ恐ろしい…
アニメとしては、スラムダンクを観た後なので、演奏シーンのCGは違和感がありクオリティにちょっと粗があるというか、気になる点があったのだが、音楽がそれをカバーしていた。音が映画の絵として現れる作品だと思った。
3月末時点では上映館がほとんどなくなっていると思うが、ぜひ良い音響で、映画館のスピーカーで観て欲しい。
フェイブルマンズ
スティーブン・スピルバーグ監督作品。映画監督になるという夢をかなえた自身の原体験を映画にした自伝的作品。
誰もが映画、映像、写真を撮影できる時代にスピールバーグが突きつけるクリエイションの身勝手さや暴力性。カメラは、ときに真実を映し出し、編集はときに無意識の意識を描く。
映画の素晴らしさや、創作の純粋さを描いているのだが、純粋なクリエイティブは、誰かを救い、そして傷つけていく。
そして、そのことを自覚し乗り越えた映画に取り憑かれた人間が、多くの人の心を動かす作品を生み出すのだと思う。
先月観た「バビロン」同様に、映画に取り憑かれた人間が映画に捧げた、映画のための映画でした。
スピルバーグ作品が好きな人はぜひ。彼がどんなバックグラウンドを持ち、いままで映画を作り出してきたのかが知ることができる。
EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONCE
エックスやムーンライト、ミッドサマーなどの人気作品を制作、配給しているスタジオ「A24」が贈る最新作。アカデミー賞の作品賞、監督賞など、計7部門を受賞している。
アジア人俳優をメインキャストに、マルチユニバースの世界(複数の泡によるもの)を描いた作品。
荒唐無稽で無茶苦茶な演出とストーリー展開。下ネタやメタ的な表現が多用されており、この荒唐無稽な世界観やストーリーが苦手で、つまらないと思う人も多いものだと思う。
でも、そんな無茶苦茶な物語でも、家族という形や、アジア人の人種問題、また家族愛、同性愛などのアメリカという国が抱えている問題をうまくこの物語の中にはめ込んで、押し付けがましくなく鑑賞者に提示している。
また、マルチバースの世界では、この時にこの選択をしない(結婚をしない、親元から離れないなど)自分というものが存在するのだが、このマルチバースの表現部分が自分にはめちゃくちゃ刺さった。
誰しもが想像するであろう別の人生を歩んでいる自分、だがその自分があくまでも理想の幸せを掴む自分の想像でしなく、現在の自分の幸せや理想は自分自身で見つけていくんだということも示していた。
この人生の選択の表現は、ドラマ「ブラッシュアップライフ」も描いていたようにコロナ以降のひとつのトピックなのかなとも思ったり。
「EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONCE(以下、エブエブ)」は、アメリカにおけるアジア人の状況や、日本にもあるような家父長制度、長老や敬老の文化(年長者の言うことを聞く、忖度するなど)、LGBTQにおける現状を理解していくと面白く観れると思う。自分自身も竹田ダニエルさんの「世界と私のAtоZ」やツイートを観てアメリカにおける文化、環境への理解を深め、面白いと感じた。
また、マルチバースの世界を描いた実写映画ではないが、同じようなアメリカにおけるアジア人(アジア系アメリカ人)の状況をうまく描いているのは、ピクサーのアニメ映画の「私ときどきレッサーパンダ」だと思う。
エブエブに関しては、無茶苦茶なのに本当に色々な見方ができる映画。衣装や映像表現に関しても、優れていると思う。
ただ、好き嫌いが本当に分かれるので、映画慎重派は配信を待って観ることおすすめします。
本・雑誌
冬野梅子「まじめな会社員」
友人にすすめられて読んだのだが、めちゃくちゃ食らった。
嫌な気持ち、暗い気分になるのに、読みすすめてしまうマゾな自分がいる。そして、読み終わったあとにダウナーになっていく。メンタル不調のときに読むものではなかった…笑
タワマン文学やTwitter文学というものが持て囃されているが、「まじめな会社員」はサブカル文学というかサブカルにすら完全浸かりきれず、何も生み出さずひたすら消費をする、一般的に幸せというものから少し離れたところにいる、または一般的な幸せを掴んだ、この日本、特に東京、首都圏、大都市圏に存在するであろう多くの20代後半から30代の男女に現実と理想の乖離を突きつけるのではなく、徐々に自覚させるめちゃくちゃ悪い漫画(褒めてる)だなと思った。
ネット上に溢れている成功者たちのキラキラした生活と成功体験、インスタや雑誌に取り上げられる丁寧な生活、POPEYEやGINZAに溢れかえるシティボーイ / シティボーイの世界。そんな人たちの暮らしをただ眺め、何者かにもなれなかった私たちの漫画。
読んだあとに実家に数日帰ったのだが、色々考えてしまったな。
一話目は無料で読めるのでぜひ。
◆お問い合わせ 各種SNSはこちら
Instagram:@ken76a3
Twitter:@ken76a3
感想のコメントや、何かございましたらSNSのDM、Instagram記載のメールアドレスに連絡してもらえると嬉しいです。