『カード師』中村文則
人間が怖い
人間の思考が怖い
人間の行動が怖い
人間の精神が怖い
なぜだか分からないが
怖ければ怖くなるほど人間に興味が増していく
人間の怖さを少しでも軽減させる為に
人間の心を知って安心したいという気持ちになる
矛盾しているようだが
人間への恐怖心を取り除こうとすると
人間との距離を縮めたいと思ってしまう
そして、その人間の恐怖心と対峙した時には
不思議と安堵感が得られる
あんなに怖かったモノに近づくと安堵してしまう
恐怖と安堵は表裏一体なのかもしれない
それだけ人間は多面的で不条理な生き物なのかもしれない
絶対的な安心を獲る為に
徹底的に人間の心の中に潜り込みたくなる
人間の表面の虚栄の壁を討ち破って
心の中に飛び込むという行為は
とても勇気のいる行為でもある
その勇気の向こう側に存在する
人間の作られた壁の奥の底には
ヘドロのような液体でできた
底なし沼のようなものが存在している
その底なしの沼へと飛び込んでしまった瞬間
視・聴・嗅・味・触の感覚が麻痺して
もう抜け出すことができない
抗えば抗うほど感覚は沼に呑み込まれていく
そして、すべての抗いを諦めた瞬間
恐怖心が解放され
心地良い安堵が訪れる
運命に抗うという行為は
運命というものを受け入れる行為でもある
ゆえに無条件に運命に従う行為でもある
たとえ脳がその行為を拒否したとしても
心の渇望がその拒否を許さず
運命の箱を開けてしまう
自らの意思と自らの行為で…
人類は限られた広さと限られた資源でできた
地球という狭い星で
共に生きていくしかない運命にある
『君達は、やはり絶望なんてできないんだよ』
とても希望を感じる一文でした
この小説は自分の心の底にへばりつく
大切な一冊となりました
ありがとうございました。