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鳥獣害対策という仕事 〜 その持続可能性と展望

本稿は『けもの道 2018春号』(2018年刊)に掲載された記事を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。


文|鈴木克哉
NPO法人里地里山問題研究所(さともん)代表理事・篠山市獣害に強い集落づくり支援員・北海道大学大学院文学研究科共同研究員・農林水産省農作物野生鳥獣被害対策アドバイザー・(元兵庫県立大学講師/兵庫県森林動物研究センター研究員)

獣害対策で期待される民間企業の参入

鳥獣害問題の深刻化に伴い、この分野に新たに参入する民間企業や起業が増えている。

最近では求人数も増え、私が加入しているMLへは一昔前には考えられなかったくらいの頻度で求人投稿がある。

ただ、仕事内容の多くは「捕獲」にかかわるものが多い。これは当然のことではあるが、「需要」が増加したからだ。

国は、ニホンジカとイノシシの生息数を10年後(平成35年度)までに半減することを当面の捕獲目標とし、平成26年の鳥獣法改正により、都道府県等による指定管理鳥獣捕獲等事業を創設した。

また、この法改正では認定鳥獣捕獲等事業者制度が導入され、新たな捕獲の担い手として民間事業者に期待が寄せられている。

国は捕獲した個体の利活用にも積極的だ。平成30年度には、ジビエ利用量を31年度に倍増するためのモデル事業に着手する予定となっている。

このような後押しもあって、「捕獲」や「利活用」への注目が高まっており、新たに参入する民間事業者は今後も増えていくだろう。

捕獲だけでは被害は防止できない

野生動物管理の柱の1つである個体数管理という観点から「捕獲」は重要な施策であり、捕獲した個体を有効に活用することは、捕獲へのインセンティブを上げるだけでなく、害獣を地域資源として活用するうえでも大切な取り組みである。

一方で、鳥獣害対策という観点から見た場合、「捕獲」は数ある被害対策メニューの一つにすぎず、捕獲偏重の対策はそれほど被害軽減の効果をもたらさないことが予想される。

防護柵の設置や集落環境整備など他の対策と併せて、それでも集落内に進入してくる「現行犯」を捕獲することができれば被害は軽減されるが、業務上の捕獲効率を求めて「捕獲しやすい場所」や「集落から離れた場所」での捕獲を行ったところで、効果はそれほど期待できないだろう。

大切なのは「捕獲」を目標にするのではなく、「被害防止」のために様々な技術や情報を組み合わせて、効果的な施策を計画していくことである。

本来なら行政(とくに市町村)がその役割を担うべきであるが、多くの自治体には野生鳥獣対策の専門的な人材や組織が存在しない。したがって、地域の実情に応じた効果的な被害防止計画を策定し、実行していくための体制整備も含めたコンサルティング業務を行う民間事業者の需要が今後高まっていくと予想される。

幸いにも長年の実践的な研究蓄積により被害防止のための技術や方法論は整理されている。これらの知見・ノウハウを身につけ、対象地域の被害軽減を効果的に推進するための専門性が求められる。

獣害対策と仕事の持続可能性

鳥獣害対策の仕事に従事するうえで忘れてはいけない大事なことは、捕獲にしろ被害防止にしろ、努力して目標を達成すれば業務がなくなるという現実である。

もちろん、現在の全国的な鳥獣害の深刻な状況においては、当面の間は杞憂であるかもしれない。しかし、問題が残っていればいるほど、仕事が受注できる可能性が高くなるという状況が想定される一方で、いつまでも成果があがらない事業に多額な税金が投入され続ける保証はない。

今、鳥獣害対策の仕事に対して、どのような持続可能なモデルを創出できるかが問われているのではないだろうか。

「さともん」が目指す地域活性化モデル

今後ますます担い手不足が懸念される農村の獣害対策の持続性を考えた場合、これから求められることは、獣害という負の課題解消だけを目的とするのではなく、持続可能な地域づくり(地域活性化)への道筋をデザインしながら、その一途として獣害対策を位置づけるという視点である。

筆者はこのような考えで、兵庫県篠山市近辺で深刻化する獣害に立ち向かう地域住民やそれを支える活動者らとともに、2015年の5月に特定非営利活動法人里地里山問題研究所(さともん)を篠山市に設立した。

さともんが目指すのは、市町村(篠山市)や関係団体と連携して、身近な立場で地域の獣害対策を支援し、さらに獣害対策をきっかけに地域を元気にしていくモデルだ。

具体的には里山での暮らしや四季折々の豊かな農林産物の魅力を発掘して製品化を図り、地域のコミュニティ・ビジネスを支援するなど、地域活性化を目指した様々な事業を展開する。

地域住民とともに獣害から守り継承していきたい里地里山の豊かさを伝え、共感してくれる様々な人で共に守り、わかちあい、継承するネットワークづくりを行い、持続的に運営していくためのソーシャル・ビジネスのモデルを作ることを目指している(図)。

持続的に運営していくためのソーシャル・ビジネスのモデル

このモデルでは地域内外の努力によりたとえ鳥獣害が解消したとしても、魅力ある地域を次世代に継承する目的は残り、それを目指して様々な地域資源を活用したコミュニティ・ビジネスを継続していくことは可能だろう。また、鳥獣害のみならず、地域が抱える様々な問題解決へ応用することも期待できる。

もちろん、未来永劫安定的に持続するビジネスモデルなど存在しないし、この問題の解決に向けて求められる役割は地域/時代によって異なるかもしれない。

大切なのは社会課題の解決を志向する事業者・組織として、その理念や目指すべき組織像を明確にしておくことであり、状況の変化に適応しながら、組織も柔軟に変化していくことなのだろう。

獣害ビジネスの黎明期である今、志の高い多くの若者が選択を誤らないためにも、そのことを強く思う。

鈴木克哉氏。NPO法人里地里山問題研究所(さともん)代表理事

(了)


狩猟専門誌『けもの道 2018春号』では本稿を含む、狩猟関連情報をお読みいただけます。note版には未掲載の記事もありますので、ご興味のある方はぜひチェックしていただければと思います。

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