労働契約を超えた人事移動は、これまで以上の丁寧な対応が必要
もう1週間前の日経記事ですが、4月27日の日経新聞朝刊1面「同意ない配置転換、職種限定では違法 最高裁が初判断」の記事は、正直、休日朝の眠気を覚ますのに十分な記事でした。
本事案は、原告の男性は滋賀県の社会福祉協議会が運営する福祉施設で、福祉用具などを改造する技師として約18年間勤務されていました。施設側は2019年、事前の打診なく総務課に配転する人事移動を内示したところ、男性は配置転換は違法として訴訟を起こしたものでした。
一審と二審は、職種限定の合意があったとしたうえで、配転命令には解雇を回避する目的もあり、異動には合理的な理由があるとして請求を退けていたのです。これを最高裁は下級審の判断について、「明らかな法令違反がある」と断じて差し戻したのです。通常、下級審よりも保守的な判断をくだす最高裁の方が踏み込んだ判断をしたとも感じました。
判決のなかでは、労働契約で職種限定の合意があった場合、使用者には労働者の同意なしで配置転換する権限がないと明確に示されたのです。司法筋では、「職種だけでなく勤務地などを限定した場合にも同じ考え方が当てはまる」とみる見方もあります。
現在の労働契約法(2008年施行)では、労働者と使用者は対等な立場と強調し、労働契約の締結や変更には合意が必要としています。本判決はその法趣旨を徹底したものでしょう。
これは想像の限りですが、本事案の技師から総務課への人事移動のなかでは、原告男性と施設側とのコミュニケーションがあまりに無さすぎたのではないかと思うのです。施設の状況や配転に向けた会話や相談も全くなかったのではないでしょうか。それも、そこに至るまでの原告男性と施設側の相互信頼が崩れていたことも、もしかしたらあったかもしれません。
私の実務感覚に過ぎませんが、現状の人事移動は、少なくとも過去と比べれば、労働契約上の限定職種や、社員側の意思は相応に尊重され、それを超えた人事移動については丁寧なコミュニケーションが実施されていると思います。そのため、限定職種外の移動など、元々の労働契約を超えた人事移動が、本事案のケースに当てはまるものばかりではないと思います。
ではあるのですが、それでも今後は「お互いにコミュニケーションしているから問題ない」と会社側も安易に考えない方がよいと、特に本判決がでてから感じています。
基本は労働契約に基づいた人事が鉄則で、もしその変更が必要なときは、会社と社員は丁寧なコミュニケーションを行うのはもちろんのこと、弁護士などの専門家の支援のもとで労働契約を見直すなど、丁寧な対応が従来以上に求められてきそうです。