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【映画レビュー】『AT THE BENCH』Ep.1,5
川沿いに佇むひとつのベンチで繰り広げられる、人々の日常を切り取ったオムニバス映画。再会を機に言葉を交わす幼なじみ、別れ話をするカップルと割りこむ男性など、5つの物語で描く。監督は奥山由之。脚本は奥山由之、生方美久、蓮見翔、根本宗子が手がける。
Ep.1『残り物たち』
Ep.5『さびしいは続く』
脚本:生方美久
出演:広瀬すず、仲野太賀
Ep.1では、広瀬すず演じるりこが、買い物帰りに目にしたもの。それは、幼少期に幼馴染の"のりくん"と遊んだ公園にベンチが1つだけ取り残された殺風景。
ベンチに腰を掛け、電話でのりくんを呼び出すシーンからはじまる。
まず、何より映像が美し過ぎる!
奥山由之さんが得意とするノスタルジックな写真がそのまま映像になったようなエモさ。
2人の会話で、もみじマートという地元スーパーを、何故かもやしだけ安いスーパーなことを揶揄して『もやしマート』と呼ぶところ、お互いがお互いを幸せでいてほしいと伝わる2人の温かい会話が続く。
一通り近況報告をして、自分たちを『残り物』と笑い合った。
加えて、義理母×義理チョコで発生した「義理」ワードで起きるアンジャッシュ的すれ違いイチャコラがむず痒く可愛い。
お互いに、ボヤ〜と焦点をずらした、『ピンぼけな好意』をチラつかせながら、りこのお家へ夕飯を食べに残り物のベンチをあとにする2人。
Ep.5は、そんな2人の関係性が進んだようで、結婚(婚約中?)したあと残り物ベンチで座っているシーンで気づく。あれ、Ep.1のときよりも座る距離が近いぞ。と。ベンチが、わかり易く関係性を表している。
作品内で特に心に沁みた台詞がある。
さみしさについて語る2人。
好きなお菓子があと何個か数えるときとかね、と
のりくんが言ったあとのりこの返し
『さみしさには少し目を逸らすくらいが丁度いい。』
飼ってたうさぎが長寿を全うして死んだことや、結婚で両親が寂しがっていることに
『さみしいは、幸せが残していったものなんだって』
りこちゃんの台詞、なんて沁みる言い回しなんだろう。さみしい気持ちは幸せだった証拠、と過去を優しく抱きしめてくれるような一言に、去年別れた彼氏が脳裏によぎるアラサー独身OL。
きっとここにいる50人弱の鑑賞者が、みんなそれぞれ失ったものをそっと思い出しているに違いない。そう思うだけで、不思議と1人じゃないと思えた。
幸せな気持ちも、切ない気持ちも、残らず掬い上げてくれるような映画だった。