人面魚のはなし #7
第7話 離別
「ねえ、私、月の妖精みたいじゃない?」
夜の帰り道、人面魚は月明かりを浴びて踊りながら言った。右の胸ビレで月を透かしていた。
「ああ、そうだな」
僕も右手を月にかざした。
「ねえ、君のこと、名前で呼びたい」
「いいわよ。どんな名前?」
僕は少し躊躇ってから、一言、告げる。
「イヴ」
「なあに、じゃあ貴方、アダムなのね」
満月はゆっくりと雲に閉ざされていく。
僕はそれに軽く手を振った。
街灯が照らすアスファルトを黒く切り取ったイヴの影の横に、僕の影を並べて、再び歩き出した。