人面魚のはなし #5
第5話 ノイズ
あれからしばらく。
人面魚の姿は見えない。
声も鈴の音も聞こえない。
学校の廊下で目を凝らした時に、霧の中にごくごく淡い影が目の前を過ぎった気がしたが、強く見ようと意識するとフッと見えなくなった。
休憩時間のざわついた教室の中で一瞬鈴の音が聞こえた気がしたが、これも耳をそばだてると音の記憶すら定かでない。
しかし感じる。
彼女は消えていない。
ここ最近の僕の頭はどうにもこうにもおかしくて、まとまりがつかなくて、まるでチューニングの合わないラジオだったから。
彼女は、霧の中のズレた断層に隠れてしまった。
僕の視界は深く薄鈍色に包まれ、霞んでいた。