人面魚のはなし #6
第6話 受容
僕は1人で土手の草はらに座り、じっと川を見ていた。
ふと目を閉じて、ゆっくりと呼吸する。
そのまま1分、2分……吸って、吐いて……
いつの間にか僕は時間を忘れ、風だけを感じていた。耳の奥で、小さな鈴の音を思い出した。
風が止んだ。僕は目を開けた。
その足元に、水底の色があった。
「おかえり」
「それは私の台詞よ」
人面魚は以前と同じようにフワリと笑った。
「ちょっと待ってて」
僕は土手のシロツメクサを集めて、小さな花冠をひとつ作った。両手で目の前にかざす。
彼女は僕の足元から目の前へ、そうっと泳いで、それを頭上に収めた。僕と彼女は目が合った。
「あっ」
僕の手が滑り、花冠はストンと彼女の身体をすり抜けて足元へ落ちた。
彼女は一瞬目を丸くして、それからくすくす笑った。
僕も笑った。それで良かった。