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そばにはいない予定

優しさとは
人を強くするものだ

あなたなんか嫌い、と
言える人がいるという状況こそ
僕にしてみたら
素晴らしすぎる旅だよ
それこそが
最高に幸せな心の旅だよ


例のワクチンの二回目を終えて

白衣のスナッ

キンは語り始める


僕の旅好きは知ってるよね!


興味があちらこちらにありすぎてさ
予定を細かく聞かれるのは好きじゃないな

心配してくれてありがとう
けれど
まったく心配ない
言い切れる

後悔などしないで
手を振ってくれた君のことは 
決して忘れないんだから

もちろん僕は
嫌い、などとは言わないし




旅に出る前に少しだけ君と
話そうかと思ってたんだ
全部は話せないかもしれないけど
一方的かもしれないけど


彼の話だ


彼は
楽しんでいたんだよ

どの道もふさがってしまって
帰る場所さえ
蟻地獄のように息苦しく
もがいてもがいて
逃げ出したあの日

梅雨明けの照り付ける太陽の下
一昼夜歩き続け
そこにたどり着いたとき
靴は破れ
顔もひどい日焼けで
皮がめくれた

誰かにとっては獲物になり得たかもしれない
その疲れ果てた体を
汚れた道端に横たえた

もう どうなったって
かまうもんか
誰が僕のことを
目に止めるだろう

それは
助けか
ひどい仕打ちか


幸せなことに
誰に助けられもせず
踏みにじられもせず
その晩の
ベッドを確保した
なんとか
シャワーを浴び
りんごをかじろうとしたそのときに
黒いおばけが現れた


彼女の話だ

息もできない
なぜあのとき
なぜあんなことを

すべてが逆だったと
認める時間が来た


朝の静けさの中
目覚めたと思ったが
ずっと起きていたのかもしれなかった

人の手が恋しかった
背中を
さすったり
手を握ってもらうことが
たまらなく恋しかった

そのことを認められなかった
自分を許せなかった

後悔などあるはずのない時間の
すべてが
決して取り返しのつかない
罪の時間と重なっていく


おばけが朝に
押し寄せ
夕刻にはそれをも追いかけたくなるほど
寂しさに襲われた



彼の話の続きだ

彼は彼らしくあろうとした
だから
何もしないことを
選んだ

そして
言ったのだ
あなたなどいらない、と

生きようとして
言ったのだ


彼女の話に戻ろう

死ぬことは許されないと
その声は届いていたのか

彼の背中が雨の中へ去っていった


無力という力が
彼女の
すべてだった


わたしを取り戻そう
それが先だ

信じる心を忘れている

何をおいてでも
それが最優先だ


なぜ
なぜ辛いのか
苦しいのか
二度と逃げないで
すくい上げよう

元気な小さな子供の声に
すっかり成長した若者たちに
ニュースの罪の数々に
心のサイレンは
恐ろしく大きく
鳴り響いた

こんなことでは生きていられない
でも
生きている

生きているぞ


生きたいと
心臓が鼓動している

そして次の呼吸がくる

それなら
そうしていいんだよ



聞こうとしてこなかった心の声
すこしずつ聞こえるようになった
その声は

好き

という
ただただ素直な響きだった



いやぁ
おばけというのは
なんにでも化けられるのだ
君の横にもいるのかもしれないよ
望めば
敵にも
味方にもなる



旅の途中の足湯は
どんなにか心をほぐすだろう
知っておくといいな

ほっこり、というやつだ


そう
何年かたって
家猫が外へ出ていってしまったことがあった
そのとき
彼が彼女に言ったんだ


ほうっておいてあげようよ
帰ってくるからさ
楽しんでるんだよ


ときおり深刻ぶって慌ただしく
なにかを探し回る
そんな彼女を

またか、という顔で優しくたしなめる
あどけない顔で
大人びた眼差しで

彼は
ほんの一歩だけ前に立って
必ず
彼女を見ている

いつでも飛べる大きな羽を
綺麗に整えて

そうだね
だって
どうしょうもないんだもの
好きなんだもん

彼女は気づいている
言わないけれどね
言わないという術を
覚えたんだ




じんわり気だるくない? 
抗体をつくるため
工場が燃料を燃やし始めたのさ

なんのためかってなんのためでもないさ

楽しむためさ
実験を

まして五輪のためでもない

何者にも
命令されてもいないのに
やれる僕は
意外と素直だろう






彼と彼女は
誰でもない
誰かと誰か
もともとひろい宇宙の
軌道を持つ星さ


君は信じなくちゃいけない


さっきも言ったけど
旅の途中の足湯ほど気待ちのいいものはないよ
足にだけわかるのかって
そうじゃないよね

どうなのかな
僕は
心を
伝えたいよ

君もそうだといいな

あー
気持ちいいな、
そんな笑顔で空を見ればさ
この空の下のどこかで
同じように見上げる君に会える


そばにはいない予定
だからさ



楽しんで
生きることを
すべての人に望もう


彼女の話の結びだ

本当の意味で救われなきゃならない人っていうのは
人助けだと思って
余計なおせっかいで手を焼きすぎる人だわ

いいの
好きなら
おせっかい好きならそれでさ

けれどやってあげるなら
迷惑な顔かどうか
見るコツがある

ありがた迷惑な表情というのは
本当にしてほしいことを隠しているから
険しくなってしまう
もしくは変に笑顔だ


やられるよりはやってあげるほうが気分がいい
みんな
たいがいそう

おせっかい、させてあげてもいいよ
なんて
神様すぎる

ただ
嫌になったら出発するんでしょ
神様らしくもない

猫だよ
それ

モフもふの





君の笑顔や君の言葉が好きだよ

好きでいさせてくれる君が好きだよ

とにかく
きみが好きだよ

だから

グッバイ



↢↢↢この物語はフィクションです↫↫↫
白衣のスナッキンによるノンハックションです

リクエストくださったさちさんと
好きしてくださった方々と
以前インスピレーションBOXに入れてくださった綺螺さんと
ショートステイに入れてくださったロボモフさんと
そして家族に捧げます

どなたかのお名前が入っているかも(笑)
また
足湯でお会いしましょう💕
空でも見上げて!









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