[無料]遭難したらじっとしてるのが正解?
よく、山で遭難して助かった人について「動かなかったから生還できた」と言われる事があります。果たしてそれは本当なのか?
そもそも、動いて助かった人は統計に出て来ないので…
家族などが通報する前に自分で動いて助かった人は、遭難として報告されないので統計には出てきませんし、ニュースにもなりません。
自分が関わった山の事故も、骨折や捻挫などありましたが搬送が可能だった場合や自力で歩けた場合などは、セルフレスキューで片付けてしまっているので遭難になっていません。
私は過去に10分程度道に迷ってウロウロしたことがありますが、すぐ解決したので遭難にはなっていません。
このような、自力で解決した遭難者もそこそこいるでしょう。調べようがないですが、そういう人は「自分で動いて」助かっています。
怪我をしたら、もう選択の余地なく動けません…
怪我をして動けない状態で運良く見つかって助かった人も「動かずに助かった人」になります。果たしてそれを「動かなかったのが功を奏した」と評価すべきなのか?
有名な、両神山で遭難して14日間生き延びた方は沢沿いで動けず、最後は増水した沢で流されそうになりながら救助されています。14日間生き延びた体力と精神力は素晴らしいと思いますが、敢えてその場にいたわけでもないでしょう。
もうちょっと発見が遅かったら流されていたでしょうし…。
動かなかったために亡くなった方もいるでしょうが、実態は分かりません
なぜ分からないかというと、亡くなってしまっているから…。
「遭難したら動いてはいけない」というのを真に受けて、どこに行ったのかも伝えてない人が、一般登山道から離れた沢に一人で座っていたって、だれも見つけてはくれません。
見つけてもらえるかは運次第です。
ボランティア含めた捜索隊の努力や、たまたま見つけやすい場所にいた場合を除いて助からないでしょう。誰にも見つけてもらえず徐々に死んで骨になります。助かるにしても何日も孤独に待つことになります。耐えられますか?
そのまま死んでしまえば数年後、たまたま登ってきた釣り師や沢登りの人が見つけて通報され、歯の治療痕で確認されればまだ運が良い。最後まで誰にも見つからないかも知れません。
動けるのに運任せで待ち続けるのは、個人的にはどうかと思います。私なら、怪我をしていなければ動きます。少なくとも救助要請出来る場所までは頑張ります。
根拠があるなら積極的に自力下山が基本
上に書いたように、勝手に救助を待っても助けに来てくれるかは運次第です。金曜日なら土曜日に誰か登ってくるかも知れないけど、月曜日なら何日も人が来ないかもしれません。登山道からどれくらい離れているかにもよります。100m離れていたら見えません。藪が濃ければ10m離れただけで見えません。
どこにいるのかも分からない、ココヘリも持っていないし携帯圏外で連絡も取れない人間を、広大な山中から探し出すのは至難です。多くの人手が必要だし、捜索者に大きなリスクを背負わせます。
大きな怪我もなく、探してくれる可能性が低いのなら、無意味に待つよりは体力があるうちに動くほうがよいでしょう。時間が経てば食料もなくなりジリ貧です。
動けるのならまずは自力下山を目指すべきです。(体力や精神力、読図能力などの不足で)どうしても無理なら仕方ないですが、それは身の丈に合っていない登山の結果です。反省はした方がいいと思います。
動くなら現在地と進むべき方向を把握しなければいけません。闇雲に動いたって泥沼にハマるだけです。
今どこにいるのか?どこに行けば助かりそうか?そこに行くためのルートは安全そうか?可能ならGPSアプリで現在地を調べ、地形図と地形をよく見て現在地や行き先を考えましょう。太陽やコンパスで方角を調べてください。
根拠を持って行動すれば、ただ待つよりは生存確率が上がるかも知れません。
程度の差はあれ、遭難して助かった人の多くは自分で解決しているはずです。10分迷っただけか、半日迷って下山遅れになったか、足を痛めて遅くなったけど自力下山したか。自分で動いて短時間でリカバリした人は意外と多くいます。
マスコミは何日も遭難して助かった人を優先して報道しがち
短時間で自力下山した人はなかなかニュースにならないし、SNSでも拡散されないので目立ちません。
ニュースはどうしたって、長い間行方不明になって助かった人を大きく扱います。14日間も経って生きていたらセンセーショナルですからね。そういう人は、最終的には動けずその場でとどまっているケースが多いので「動かなかったのがよかった」とされます。
確かに体力を温存出来たのはいいことなのですが、その前にリカバリするチャンスは無かったのか?とも考えてしまいます。
闇雲に動くよりはマシ、ではあります
「闇雲に動いたって泥沼にハマるだけです」と書きましたが、大事なことなのでもう1回書きます。
根拠なく当てずっぽうに歩き回るのはとても危険です。ますます山奥に入ってしまうかもしれないし、沢の底に降りてしまえば携帯の電波は絶望的です。尾根や山頂に上がれば電波が通じるかも知れませんが、沢で携帯が繋がることは稀です。
大抵の沢は滝があるので途中で下るのも登るのも難しくなります。無理に滝壺に飛び込めば死にます。登山道が無い沢に降りてはいけません。最後まで登山道と交わらない尾根も、下れば沢に飲まれます。沢も尾根も、先がよく分からないなら下ってはいけません。
かと言って、登るにしても急斜面や崖を無理に登ってはいけません。登ったはいいけどその先で行き詰まったら降りられなくなります。
当てずっぽうに歩き回って訳分からない場所に行ってしまうくらいなら、一箇所に留まっていたほうがマシです。ただ、助かるかどうかは運次第です。自分の命を運に任せなくてはいけない状況にならないよう、普段から登山について勉強してください。
対応する知識も無い、地図も無い、地図を持っていても読めない、GPSも使えず現在地が分からないならその場に留まるしかない。そんな低レベルで登山をしてしまった自分を恨むしかありません。
遭難すると、あなたはおかしくなります
普段は冷静な人でも、遭難などの極限状態になるとおかしくなります。人は意外と簡単に幻聴が聞こえて、幻覚を見てしまいます。紅葉した木が建物の屋根に見えたり、切り株が動物に見えたり、木が人に見えたり、川の音が話し声に聞こえたり…。精神のバランスは意外と簡単に崩れます。
遭難したと思ったら、自分の精神が変になってしまう可能性を考慮しましょう。とりあえずお茶でも飲んで落ち着いてから、よく考えて行動してください。よく考えずに行動すると泥沼にハマってしまうかも知れません。
せめてホイッスルや鏡を使おう
座っていたら近くを人が通っても見えません。藪の中にいたら5mでも見えません。しかし、もしホイッスルを吹いていたら、100mくらいなら気づいてくれるかも知れませんし、静かな日ならもっと遠くまで音が通るかも知れません。
ザックの胸ベルトのパーツが笛になっていることもありますし、ホイッスルなんて100円ショップで売ってますし小さく軽いです。胸ベルトの留め具がホイッスルになっているザックもあります。ホイッスルは熊除けにも使えますよ(カーブや山頂の手前で吹いておく)。
捜索のヘリが飛んでいるのなら、ヘリに向けて鏡やスマホの画面で太陽光を反射させるのも有効です。狙い方は↓のツイートで。
動けないのなら、せめて見つけてもらえる努力をしましょう。最後まで生き残る努力をしてください。山で死にたくなんてないでしょう?
通報して、位置が伝わってるのなら動かないのが正解
位置共有アプリで位置を送っている、または警察などに通報して位置が伝わって、現場を目指して救助隊がいるのなら勝手に移動してはいけません。現場に着いたのにいなかった!という事になってしまいます。
実際、通報後に勝手に動いて亡くなった遭難者もいます。通報したのに自力下山出来たからって、勝手に帰っちゃう人もいるようです。かなりイカれてますね。もし通報後に自力下山出来たのなら、警察署に行って無事を報告してください。
警察や消防に位置が伝わって、待っていれば助けが来るなら動かないのが正解です。
ただ、吹きさらしの稜線で動くなと言われたって寒くて無理ですし、沢で待つように言われて増水してきたら逃げなければいけません。救助されるまでは自分で身を守らなければいけません。
そのためのファーストエイドキットやツエルトは、当然装備に入ってますよね?ツエルトを張ったことはありますか?張り綱は付けてますか?持っていても使えなければ意味がありません。
行き先は伝えましたか?登山計画は出しましたか?
行方不明になる登山者の多くが、家族にも詳細な行き先を伝えていません。どこの山のどのコースを歩くのか文字で伝えてください。登山計画もちゃんと作って出してください。めんどくさい?そう思うのなら登山は向いてません。他の遊びをしてください。もしくは、お金を払ってガイドさんと登ってください。
家族に伝えたコース、計画に書いたコースを安易に変更しないでください。変更したら、それを必ず伝えてください。前もって変更の可能性があるなら、それも計画に書いておいてください。
どこに行ったのか分からずに遭難すると、捻挫で動けないだけで死にます。行き先も分からない登山者を探すのがどれほど大変か。3日や4日で救助されると思わないでください。
他人の迷惑も考えてください。必ず計画を作って提出しましょう。本当に、絶対に。どんなに行き慣れた低山でも、どこの山のどのコースに行くのか家族に知らせてください。
もし現地の思いつきでいつもと違うコースに行くのなら、それもLINEなどで送ってください。圏外で送れないならいつものコースを歩いてください。伝えてない場所には行かないでください。
冬山はまた状況が違います
冬山で猛吹雪で動けないのなら雪洞を掘って潜り込んだ方がいいでしょう。吹雪の中を無理に動いたって死ぬだけです。それなら停滞した方がいい(そもそもそんな天気で雪山に入るなという話ではありますが)。
雪洞を掘る道具や技術も無いしツエルトも持ってないなら、動いて安全地帯を目指すのがいいかも知れません。無雪期の山みたいに、沢沿いで救助を待ってれば雪崩で埋まってすぐ死にます。どうしたら助かるかを全力で考えてください。悠長に待ってられる状況ではありませんし、と言って闇雲に動いたらすぐ死にます。対応する知識はありますか?
ココヘリなどがあれば助かる確率アップ
小さな発信機からIDを発信して、10km以上離れたヘリから遭難者の位置が分かる、それがココヘリです。計画書を家族などに渡していて、入った山域が分かるのなら探すことが出来ます。
発信機の電池が切れていない、ちゃんと持っている、計画を残していて山域がわかっている、ヘリが飛べる程度の天候である、という条件を満たせば短時間で見つけてもらえます。
あなたが単独で山に行く人なら、当然ココヘリに入ってますよね?もし入ってないのなら今すぐに入ってください。後でなんて思っているといつまでも入りません。上のリンクから、絶対に、今すぐ、申し込んでください。
IBUKI GPSなどのGPS発信機も、電波の状況次第では捜索に役立ちます。
こういった機器で、遭難者の位置がある程度分かるのであれば、その場で待っていても助かる可能性が高くなります。ココヘリは年会費も安いし、登山者は全員入ればいいのにと思います。入ってないなら、今すぐ入ってください。マジで。
結局どうしたらいいのか?
山で遭難したらどうしたらいいのか?動いたらいいのか?沢に降りるのは絶対にダメなのか?尾根や山頂を目指したら絶対に助かるのか?
普通の人は簡単な「こうすれば助かる」を求めがちですが、そんなに都合のいい攻略法なんかありません。場所、天気、装備、メンバー、怪我、体調、体力など様々なパラメーターがあり、最適な行動も変わります。
取れる選択は様々で、全てにメリットやデメリット、条件があります。現在地が分かっていて地図も読めて、歩ける程度の斜面なら歩いて登山道を目指して帰ればいい。
どうしても水が無くなり飲まなければ死んでしまう状況で、近くに上り下り出来る程度の沢があるなら降りて水を汲めばいい。沢沿いだって、登山道があるならそこを降りて帰ってもいい。
尾根や山頂を目指すにしても、闇雲に動いたら尾根上の崖から落ちて死ぬ可能性があります。
遭難したらどうすべきか?なんてのは、状況次第なんです。絶対の正解はありません。
運命を自分で拓くためには知識や技術が必要です
トラブルが起きた時にセルフレスキューするには知識と適切な道具が必要です。根拠がある行動を選ぶには、それなりの知識が必要です。
よく知らない山域で道に迷い、地図もコンパスもGPSアプリも無ければ現在地も分かりません。進むべき方向も分からないでしょう。
怪我をした時に応急処置をするためにはファーストエイドキットが必要です。包帯の巻き方、テーピングの巻き方、添え木の当て方などを知らないといけません。知識と道具がセットで必要です。
普段、平和に山を歩いているときも「ここで迷ったらどうしよう?」「ここで仲間が谷に落ちたらどうしよう?」「こういう病気や怪我に自分は対処できるのか?そのための装備はあるのか?」と、考える癖を付けるとよいです。足らないなら勉強が必要です。
知識の多くは本に載ってますし、各種講習も行われています。登山について勉強しましょう。
何も知らないと、自分や仲間の命、家族の人生を運に任せることになります。遭難した時に対処できないのなら、運を天に任せて動かずに救助を待つしかありません。ただし、助けてもらえるまでの数日間は自分で耐えなければいけません。耐えられる装備や技術はありますか?無いなら1日2日で死ぬかも知れません。
…そうです。結局、無知な登山者が遭難したら死ぬ可能性が高いのです。登山を勉強してください。そして、背伸びせず身の丈に合った山でステップアップしてください。
ベテランも要注意
よく、登山経験年数が長い「ベテラン」が道迷い遭難を起こして行方不明になったりします。特に単独の男性による遭難が目立ちます。いわゆる、「ベテラン単独中高年男性」による遭難です。
ヒマラヤ経験があるベテランが低山で迷ったりします(そして亡くなることもあります)。低山と高山は違いますし、道迷い遭難の多くは低山で起きています。高山を歩くのと、低山を歩くのでは求められる知識や道具が違います。
「高山のベテラン」と「低山のベテラン」は違うものなので、慣れていないのなら謙虚に慎重に登りましょう。ベテランだろうがエキスパートだろうが、単独で5m落ちて足を折れば行動不能、何日も誰も来ない山奥なら死ぬかも知れません。打ちどころが悪ければ2mの落下でも致命傷になります。慎重に行動しましょう。
まとめ
自力で動いて助かった人は遭難統計に出てきません。
動かず待って亡くなった人は見つかりませんし、「待ってたけど誰も来てくれなかった!」とは言ってくれません(死んでるから)。
マスコミが好んで扱うのは長期間遭難して助かった人のニュースなので、結果的に動かず待って助かった人が目立ちます。
根拠なく動き回るよりは動かないほうがマシですが、助けに来てくれるかは運の要素が強めです。根拠を持って自力下山出来る登山者になりましょう。自分がそのレベルでないなら、尾根や山頂などで助けを待ってください。沢には降りないでください。
「動かないほうがマシな登山者」はそのうち運次第で死にます。それでいいんですか?
自力で助かるためには、知識や道具が必要です。登山について勉強しましょう。ホイッスルもあるとよいでしょう。
ベテラン単独中高年男性の遭難が多いので、当てはまる方は注意しましょう。