うつ病急性期の症状と治療・サポート
-家族に出来ることのポイントを解説-
うつ病は発症直後が一番状態が悪いです。一番しんどい時に家族も何をしていいのか分からず戸惑います。
うつ病が増えていることを頭では分かっていても、いざ家族がなるとすぐに対処出来ないのが現実です。
家族がうつ病になったときにやるべきノウハウの中から、今このタイミングで出来ること・やるべきことを知りましょう。
それが分かれば不要に慌てることなく、対応することが出来ます。
1.うつ病急性期とは
①うつ病回復までの3段階
うつ病は発症から回復までに大きく分けて3段階あります。
最初は「急性期」、患者が症状が最も重症な段階であり、通常は治療が最も必要とされる時期です。
次は「回復期」、患者が急性期の症状から回復し、安定した状態を維持する段階です。
最後は「再発予防期」、患者が安定した状態を維持し、将来の再発を最小限に抑えるための段階です。
急性期とは、病気になった直後に急激に症状が悪化する時期です。
本人は当然ながら、家族側も「何が起きた」と驚き、予備知識も無い状態で右往左往してしまう、一番ストレスが大きな時期とも言えます。
②うつ病急性期の症状の特徴
まずは無気力感が高まります。更に進んで絶望感や孤独感も高まります。
「自分なんていても意味がない」と無価値感に襲われて、そうした言動も多いです。
ずっと好きだったものへの興味がなくなり、活動への関心が無くなります。
半端ない疲労感も特徴の一つです。
食欲がなくなって体重が急減したり、反対に過食になって1ヶ月で5kg太ってしまうような方もいます。
行動も食べることも、自分の身なりに気を配る余裕も無くなります。
うつ病と診断を受ける前から顕著なのが睡眠障害です。
中々寝付けないまま朝を迎えたり、深夜に目覚めて眠れなくなったり、まだ起床時間ではないのに起きてしまったりなど、一定量の安定した睡眠をとれなくなります。
それによって日中の集中力が異常に低下し、仕事や家庭生活でミスを連発します。
本人も周囲も病気と思っていなければ注意や叱責を受けるため、それが更に無価値感を強めます。
身体の不調も特徴の一つです。
原因不明の頭痛、腹痛、胸痛に悩まされ病院を転々としますがどこにも異常が見当たりません。
③うつ病急性期に必要な治療、サポートとは
急性期に必要な治療・サポートは以下の通りです。
医薬療法:主に抗うつ薬の服用です。抗うつ薬は、脳内の神経伝達物質のバランスを調整し、うつ症状の軽減を助けるために使用されます。適切な抗うつ薬の種類や投与量は、個々の患者によって異なります。治療効果が現れるまで数週間かかることがあります。
心理療法:代表的な心理療法は「認知行動療法」です。患者が自分の考えや行動パターンを理解し、変えるのに役立つ心理療法です。うつ病の治療において効果的であり、再発予防にも寄与します。
入院治療:必ずしもすべてのうつ病急性期の人に必要とはいえませんが、症状が重く、家族だけではケアしきれない場合は入院も選択肢の一つです。
サポートグループ:「ピアサポート」とも呼ばれます。患者が同じような経験を共有し、助け合うサポートグループに参加することが有益です。他の人とのつながりや理解が、治療の一部となります。
生活習慣の見直し:健康な食事、適度な運動、十分な睡眠は、うつ病の症状に対する積極的な影響を持つことがあります。これらの生活習慣の見直しも治療の一環となります。
2.治療・サポートの役割分担
上記に挙げた必要な治療・サポートは代表的なものです。
そしてこれを全て家族だけ・本人だけでやる必要はありません。
うつ病急性期のサポートは、
①主治医
②本人
③家族
が分け合って実施します。
です。
当然ながら本人はすべてに関わります。
ですがうつ病急性期の大きな特徴でもある「無気力感、意欲の減退」により、主体的に取り組むことは難しいでしょう。
急性期は何より体の健康を維持することが最優先です。
ですので主治医と本人の協力体制が最優先となります。
家族が前面に出るサポートは「生活習慣の見直し」です。
3.うつ病急性期の療養で家族が出来ること
①医薬療法→通院同行、服薬管理サポート、副作用へのケア
どんな症状が辛くて、それに対してどんな薬を処方するのか、は、主治医と本人の相談になります。
ここで家族が出来ることは、一つは通院同行です。
同行しても特にすることはありません。主治医と本人のやり取りを横で聞いているだけでいいです。
それでもどんな先生かわかりますし、主治医を本人が信頼しているかどうか、コミュニケーションはスムーズか、本人が普段の自分自身をどう理解して伝えているのか、などを第三者として知ることが出来ます。
服薬のサポートも出来ます。抗うつ薬は飲み始めてから効果を実感するまでに2週間くらいかかります。それより先に実感する副作用が辛かったり、そもそも本人がうつ病を受け入れられていない場合は「飲んでも効かないから飲みたくない」と言って自己判断で飲まなくなることがあります。
それ以外にも単純に飲み忘れが続くこともありますので、「今日の分飲んだ?」と声をかけるだけで違ってきます。
副作用へのケアも行えます。上述したように抗うつ薬は副作用が辛いです。副作用が辛い時は速やかに主治医に相談すべきなのですが、どの薬を飲んだ時にどんな状態になるか、を、本人だけでは覚えておらず、通院しても主治医に相談出来ないことがあります。
どの薬が作用した症状なのかが分からなければ主治医も服薬の変更をしてくれなかったりしますので、副作用が辛いときは一緒に確認を行えます。
②心理療法→本人が自分の考えや行動パターンを理解し、変える手伝い
心理療法自体は本人が主治医またはカウンセラーと1対1で行うのが主流です。
しかし心理療法は、カウンセリングルームだけで完結するものではありません。
カウンセリング中の気づきを普段の生活の中で活かしたり、「ホームワーク」と呼ばれる課題を実践することで本人の中に変化が定着していきます。
うつ病急性期に本人だけで取り組むのは難しいかもしれません。
通院後と同様、実生活の中でどんなことに取り組むのか、を話してもらえたら、家族もそれを意識して接することが出来ます。
本人だけで取り組むよりは心強いでしょう。
③生活習慣の見直し→健康な食事、適度な運動、十分な睡眠のケア
ここが家族が一番協力に関わることが出来、サポートが必要な場面です。
まずは食事管理です。
うつ病本人に任せていると、ほとんど食事らしい食事をとらないでしょう。
家から出ないので空腹も感じづらく、食べないことのデメリットにも気づきづらいかもしれません。
しかし家から外へ出なくても人間はエネルギーを必要としますし、必要な栄養素が不足すれば体の病気や体力減にも繋がります。
一時的なものは仕方がないかもしれませんが、いつか必ず社会復帰するのですから、そのためにも基礎的な健康はキープしておかなければいけません。
よく「うつ病に良い食べ物」などの情報があります。
これらを活用するのも良いですが、短絡的に「これを食べればうつ病が治るはず」と考えないよう気をつけましょう。
それほど簡単な病気ではないからです。食事は良くも悪くも長い期間の積み重ねで結果が出るものです。
「〇〇を毎日食べているのに全然元気にならないなんておかしい」
と考えないようにしましょう。
適度な運動は主治医からも勧められると思いますが、急性期に無理に外へ連れ出したり運動を勧めたりしないよう気をつけましょう。
なぜなら、それがすぐに出来るような人ならそもそもうつ病になっていないからです。
「運動をするとうつ病が治る」というよりも、「運動が出来る、運動しようと思えるくらい回復した」と、回復度合いのバロメーターとして見るほうが現実的です。
うつ病急性期における運動は、「家の中で普通の生活をする」位で十分と考えましょう。
本人がやると言い出したら、近所への買い物や、ゴミ出し、回覧板を持っていく程度の用事を頼むといいかもしれません。
睡眠のケアも重要です。そして難しいです。
抗うつ薬と同時にほとんどの人は睡眠導入剤を処方されるでしょう。
睡眠導入剤はたくさん種類があります。
寝入りばなだけ効くようにする「超短時間型」、一定程度の「中時間型」、数時間効き目が続く「長時間型」など、どのように眠れずに困っているか、で変わってきます。
それでも眠れません。
睡眠はそれくらい繊細です。
薬さえ飲めば眠れるわけではないため、基本的な睡眠に対するケアが必要です。
入眠時間の2時間前までに食事、入浴を済ませる
寝る部屋を暗くして、不要な音を遮断し、気温を快適な温度に保つ
身体に負担ないパジャマを着る
枕元にスマホを置かない
寝る直前に刺激が強い情報(インターネット、アニメ、映画など)と接しない、運動しない
夕方以降カフェインを摂取しない
などです。
これはうつ病ではない家族にもメリットが大きい睡眠準備ですので、一緒に取り組むことをお勧めいたします。
4.うつ病急性期の療養を支える家族が気を付けること
①本人との接し方で気を付けるポイント
活動する/しない、頑張る/頑張らない、いずれの方向にも「強要しない」ことが大事です。
うつ療養中は「頑張っては禁句」と言いますが、それは本人の意図に反しているからNGなのです。
うつ病になるほとんどの方は、自分の意図に反した何か(他者、社会の風潮、規則やルール、自分の認知)に縛られて精神的な自由を失っています。
頑張るか頑張らないか、も、本人の意図が最優先です。
頑張りたくないならそのように、頑張りたいことがあるならそのように。
一般的なセオリーより本人の意図を優先して接しましょう。
②自分自身のケア
うつ病は、診断前後が一番状態が悪いです。
それはうつ病とはどんな病気であるか知らないからでもあります。
うつ病本人はもちろんですが、家族側もほとんど情報を持っていません。
うつ病について知識として知っていても、身近な家族の状態を見ると「うつ病ってこんな風になるの?」と驚いてしまうほど、人によって症状は様々です。
家族が病気によってそれまでとは別人のようになってしまい、それに対して自分が何が出来るのか分からず、これから先どうなるのかも不透明な状態で、それでも家族は生活を今まで通り回していかなければいけません。
緊張と不安が急速に高まって、家族側にも半端ないストレスがかかる時期でもあります。
だからこそ、家族自身のセルフケアが必要なのです。
十分な睡眠
リフレッシュ
ストレスコーピング(ストレス対処方法)
を意識して毎日の生活に組み込んでいただきたいです。
③将来についての話し合いは回復期まで待つ
これから先どうなるんだろう、という不安はずっと付きまといます。
病気になる前の「当たり前」が崩壊するのですから、未来が不透明に感じて不安に感じるのは当然です。
しかし急性期に将来について話し合う余裕は本人にはこれっぽっちもありません。
無理に話し合おうとすると「家族の将来まで巻き込んでしまった」「将来のことを考えられない自分なんていないほうがいい」というような思考に飛躍しかねません。
この時期、将来について不安になったとき、以下の3点をお勧めします。
今後利用可能な社会福祉制度について調べる
家族を支援してくれる専門機関と繋がる(カウンセラー、家族会、精神保健福祉センターなど)
自分一人で取り組める目標を立てる
必要以上に本人に意識を取られてしまうと、自分で自分の不安を突いてしまいます。
急性期は考えるエネルギーがほぼゼロなので、いい意味で放っておくことが出来ます。
5.家族が今すぐ出来ること
①安心できる環境づくり
何がきっかけでうつ病になったか、にもよりますが、本人が安心して療養出来ることが必要です。
例えば会社の上司との関係が悪くそのせいでうつ病になった場合。
休職中もある程度は職場と連絡を取る必要がありますが、原因の上司と接していたのではその都度メンタルがガタガタになります。
職場に相談し、連絡役を他の人や人事担当者からにしてもらう、などの配慮が可能です。
②信頼できる相談先を作る
うつ病本人にとっての一番の連携先は主治医になるでしょう。
同じように家族も「困ったことがあったらここに相談しよう」と思える相談先を作りましょう。
実際にどこまで活用するかはわかりませんが、「もしもの時」に1人で解決しなくていい、と思えることは大きな安心材料になります。
③希死念慮への心構え
家族としてはショックな話ですが、うつ病と希死念慮(死にたいと考える)と自殺企図(自殺しようと行動に移すこと)は強く関連しています。
「死にたい」と家族から直接言われることは非常に大きく強いショックです。ショックに対しては反射的に否定したくなりますが、一旦話を全部聞くようにしましょう。
ある意味ここが家族の底力の見せどころです。
死にたい、という言葉は、文字通りのこともありますが、多くは「死にたいと表現するしかないくらい辛い」ことの言い換えでもあります。
死にたい気持ちを支持するのではなく、どん底まで辛くなってしまっている家族に寄り添うつもりで話を聞きましょう。
そして必ず「死にたいと言った」ことを主治医に報告し、指示を仰ぎましょう。
事前に相談してどう対処すればいいかを聞いておく、というのも良いと思います。
6.まとめ
急性期は病気本人はもちろん、家族も病気に対する知識や覚悟を固める大事な時期です。
それだけに負担も大きいです
家族だけで抱え込まず、専門家や友人、関係者、経験者に頼りましょう。