ケアラーに役立つピグマリオン効果
「ピグマリオン効果」と言う言葉をご存じでしょうか。「教師期待効果」とも言います。
人は期待されると少なからず気持ちが前へ向くものです。その心理を活用した教育・コミュニケーションの態度です。
今回は、ケアラーと要支援家族との間で役に立つピグマリオン効果の使い方を考えてみました。
1.ピグマリオン効果とは
教育や育成の場で使われることが多い言葉です。
相手に対して効果的な期待を持って接することで、それに沿った成果を出してくれる、と言うものです。
教育、というより、コミュニケーションの理論ですよね。
こちらに対して良い印象や期待を持ってくれている、と言うことが理解出来れば、多少難しくても「やってみよう」「頑張ろう」「期待に応えたい」と考えるものです。
コミュニケーションの問題なら、ケアラーと要支援家族の間でも成立するのでは、と考えました。
家族をよく見て、その人に対する肯定的な期待を意識的に強く持って接することで、双方にとって良い結果が生まれるのでは、という仮説です。
2.ケアラー⇒要支援家族間での方法
①今の本人の状態を把握する
まずうつ病自体がどの程度改善しているか、を考慮する必要があります。
まだ初期段階の重い時に期待をかけるのは相手にとって負担にしかなりません。
「皆と同じ時間に起きたい」と言っていても、それは欲求ではなく義務感です。
ただ、療養生活もある程度期間を過ぎて、うつ病との付き合い方が見えてきたような段階なら、本人の欲求から出た言葉と言えなくもありません。
そして朝起きられない理由を、本人の病状だけでなく、住環境や睡眠時の環境、日中活動なども振り返ってみましょう。
②問題解決のために使える「本人のストレングス」を生かした行動プランを考える
「ストレングス」とは強み、特技、長所、リソースのことです。履歴書に書くような、特別な資格や学歴のことではありません。綺麗好きとか、時間を守るとか、姿勢がいい、みたいなごく身近な特徴です。年齢が若いとか、親と同居している、といったこともストレングスになります。
今回の問題『朝、家族と同じ時間に起きられない』の解決に使えそうな本人のストレングスを振り返ってみましょう。
これは本人に聞くよりも、第三者のほうが見つけやすいです。本人は「そんなのは当たり前のことだ」と思っていることが多いからです。
例えばスマホを使うことが好きだ、と言う特徴があったとしたら、十分活用出来ます。
睡眠の質を計測するアプリを探す
何時に寝て何時に起きたか、をスマホに記録する
自分が起きようと思える音楽をかけて目覚まし代わりにする
などの対策を取れます。
③ストレングスを中心にしたコミュニケーションをとる
ケアラー(家族)は、
と、本人のストレングスを使って背中を押しましょう。
ここでもし本人が難色を示したら、ゴリ押しする必要はありません。
また違うストレングスを探し出して提案しましょう。
④結果をフィードバックする
実際にやってみて、その結果についての感想を伝えましょう。
必ずしも目標通りの結果を出さなければいけないわけではありません。
自分の得意(ストレングス)を活かして、出来ないと思っていたことへ取り組めた、と言う事実が大事なのです。
と、違う発見があればそれを伝えるのでも十分です。
3.注意点
①大きな期待はかけない
相手に期待するのがいいことだ、とはいえ、現実とかけなはれ過ぎた期待は害でしかありません。ピグマリオン効果はポジティブな相関関係の結果生まれるもので、魔法ではありません。
②出来なくても気にしない
「あなたなら出来る」という期待も、仮定でしかありません。期待した通りの結果にならなくても当然なのです。
たとえ新しい発見すらなかったとしても「やった」と言うことを喜び合いましょう。
③ケアラー側がストレスに感じるなら止める
過大な期待が本人にとって負担になるとしたら、無理に相手に期待をかけようとすることもまたケアラー側のストレスになる可能性もあります。
病気になったのは本人でも、家族も一緒にメンタルヘルスを損なっている状況なのです。
こうなって欲しい、というケアラー側の願望と、本人の欲求や状態が見合うレベルになるまで待ちましょう。
④おしつけない
「この人ならできる」という期待も、本人が望んでいなかったり、少しも同意出来ないようでは効果は期待できません。
それどころか「やっぱり辛さを分かってくれていないんだ」という失望を強めてしまいます。
押し付けないような配慮と伝え方が大事です。
4.リアルな可能性を見つける
人は自分のストレングスを見つけることが苦手です。うつ病などでメンタルがネガティブになることが基本になってしまえば尚更でしょう。
傍にいる人間のほうが気づきやすいのです。
しかし家族の場合、早く苦しい状態から脱したいと思い過ぎることで、ストレングスを過大評価してしまったり、「この人ならできる」という期待が現実離れしてしまう危険もあります。
病気に乗っ取られず、着実に回復していくためにも、家族も本人も納得できるリアルな可能性に目を向けて、次の一歩へつなげていきましょう。