なぜバトロワ系ゲームは流行るのか
結論を言ってしまえば、「勝利への期待値が低いために、参加者のゲームに対する効用の合計が高いから」です。
効用(経済学用語)とか言っても分からない人がほとんどだと思うので簡単めに言うと、「そもそも勝てないから負けてもオッケーだよね~」ってことでみんなの満足感が高い感じです。
1.対戦ゲームの勝率は50%、だと思うのがふつうであり、「ふつう」が人格を破壊する。
一般的な対戦ゲームだと、全員の勝率の平均を取れば、勝つ確率と負ける確率はちょうど50%ずつになります(ならないとおかしい)。なぜなら、勝つ人がいれば、そこには負ける人が必ずいるからです。つまり、期待値としてみれば自分がゲームに勝てる確率は50%、コイントスをしてるようなものです。
ただし現実には、個々のプレイヤーごとに実力は異なるため、勝率が9割超えのe-Sportsプレイヤーもいれば、勝率があまりパッとしないプレイヤーも存在しています。あくまでも平均を取ると50%という話ですね。
さて、人間は勝率が50%のゲームで楽しいと思えるのでしょうか。これは、Nintendo Switch の Splatoon や大乱闘スマッシュブラザーズのAmazonレビューを見れば、一目瞭然でしょう。多くのプレイヤーの心には修復不可能なキズが残り、昔は優しかった人の人格を歪めてしまうのです……(笑)
なぜ自分がゲームをやるのかと言えば、「楽しいから」と言えそうです。ただしこの「楽しい」には、暇つぶしであったり、日頃のストレス解消を行ったり、友達とお喋りするためのツールとして楽しかったりと、色々な意味が含まれているように思います。例えば、友達と一緒にゲームをしている時は、あまり勝ち負けを気にしているようには思えません。逆に、一人で黙々とプレイしている時は、負けるとイライラすることもあります。
したがってここでは、「ゲームに勝って楽しい」という場面に限定してみます。この場合、ゲームに負けると「楽しくない」ので、ストレスが溜まり、イライラします。
さて、勝率が50%であれば、勝ちの「楽しい」と、負けの「楽しくない」の割合が同じなので、一見2つの感情は相殺されてゼロになる気がします。しかし、現実の感情はそうではないように思います。すなわち、負けの「楽しくない」の方が、勝ちの「楽しい」という感情を上回っているのです。
(注)ここでは話を単純化するために「楽しい」と「楽しくない」という2つの感情に限定していますが、実際には他の感情があると思います。あしからず。
これは、別に筆者の感情論ではありません。実は、行動経済学という分野におけるプロスペクト理論では、「人間は利得よりも"損失"の方を大きく評価する」ということが分かっています。つまり、「5万円をゲットする喜びよりも、"お財布にはいっている5万円を失くす心の痛みの方が大きい"」ということです。
これを今回のゲームの話に応用してよいのかは厳密には分かりませんが、とりあえず適用可能と言うことで話を進めます。
2.勝率を50%以上に引き上げる。
したがって、対戦ゲームを1人で黙々と楽しめるようにするには、①勝率50%以上のゲームを作るか、②負けた時の「楽しくない」を減らすことが必要になります。こうすることで、ゲームをプレイした後の満足感(効用)を全体としてプラスにしてあげるということです。このプラス幅が広がれば広がるほどに、Amazonレビューはきっと高まっていくはずです……
①勝率を50%以上にするゲームとは、「ふつう」の思考ではなかなか思いつきません。「ふつう」の思考とは、ゲームの結果が勝ちか負けか、という0or1の思考でゲーム設計を考えているということです。この考えを突き詰めていくと、スマブラのように4人中勝者が1人(=勝率25%)というゲームが出来上がってしまいます。これではみんなが満足できるわけがありません。
「ふつう」の思考を脱却するには、勝利人数を増やせばよいのです。パッと思いつく所だと、「○○点以上取れば全員に勝利の可能性があります!」なんていう風に、全員勝者にしてしまえばよいのです。こうすれば勝率は100%に近づいていきます。別に、勝者は1人や1チームでなくても良いのです。まあ、この設計をどうするのかはゲーム会社次第ですが。
3.「楽しくない」を減らす努力が必要である。
現実的には、②負けた時の「楽しくない」を減らす、が妥当な設計と言えるでしょう。対戦ゲームが多々存在する昨今で、勝者をいたずらに増やす施策は有効とは思えません(ユーザーの頭に?が浮かんでしまうでしょう)。
ここでやっと、バトロワの話が出てきます。バトロワで最初に流行ったPUBGを例に出してみましょう。PUBGの特徴は、(1)ゲーム開始時点では全員が同じ能力・立場で、(2)勝者が1人である、ということです。この2つの特徴は共に、プレイヤーが負けた時の「楽しくない」を減らすことに貢献しています。
(1)の特徴は、課金額や使用する武器に依存しないゲーム環境を作り出すことにより、プレイヤーの実力以外のストレス要因を排除することに成功しています。これは画期的で、従来は課金額に応じて強いプレイヤーが存在したり、いわゆる環境武器と言われる強力な武器がゲームを支配して、マイナーな武器を使うプレイヤーにはストレスが溜まったりしていました。PUBGは、負けた時の「楽しくない」に繋がるこれらの要因を排したのです。
(2)の特徴は、ゲーム設計上で最も「楽しくない」を減らしていると言えます。先ほどの説明でいくと、参加者が100人いたとすれば勝者は必ず1人なので、その勝率はわずか1%になってしまいます。しかし、バトロワ系ゲームをプレイした人ならば分かるように、バトロワで負けてもそれほどストレスを受けないはずです。むしろ、次のプレイをしたくなるかもしれません。
これは、プレイヤーが「勝ち」や「負け」という出来事によってストレスを受けているのではなく、元々勝てそうな確率、すなわち勝利への期待値によって「楽しい」か「楽しくない」を判断していることを示唆しています。ふつうの対戦ゲームで、勝利への期待値が50%ならば、先ほどの理論により負けた時には勝った時の喜びよりも大きなストレスを受けるでしょう。
しかし、バトロワ系ゲームでは、そもそも勝てる確率は1%です。元々勝てる見込みのない勝負をしているのですから、負けた時には「ああやっぱり負けたか」となるだけで、大したストレスは発生しません。逆に、1%の確率で勝利することが出来ると、非常に大きな喜びが得られるという訳です。
これは体感ですが、バトロワで負けた時のストレスを「-1」だとすると、勝った時の喜びは「+150」くらいな気がします。このバトロワに100人が参加しているならば、この数値の合計はー99+150で、「+51」です。つまり、毎回のゲームで参加者の満足感の合計はプラスになっており、ゲームが開催されればされるほどに、全体としてみれば参加者の満足度は上がっていくことになります。これが、バトロワ系ゲームが流行る理由です。
(注)この数値はあくまでも筆者の体感です。
いかがでしたでしょうか。多少ロジックが甘い部分もありますが(ていうかほとんど荒っぽい)、全体像はなんとなくご理解いただけたのではないでしょうか。ゲーム会社の人には、この辺りをぜひ意識してゲームを設計して欲しいですね!
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思いついたことをふらっと書き留めていきます。