第31話:ブランドの価値の生まれ方
前回のおさらい
前回まではポッキーを例としてブランド戦略を見ていきました。ブランドは名前が出来ておしまいなのではなく、その後の活動がとても大切であるということをお伝えしてきました。ときには、名前の認知を広げる活動を、ときにはブランド名の幅を広げる活動を、いろんな活動をしていきます。その活動の方針は予め決まっているのではなくその時のブランドの状態や社会の状況によって全然異なります。
今日は、ブランドの価値の作られ方を紹介していきます。今日は少し学問的な話になるので難しいですがついてきてください!
ブランドはなぜ価値をもつのか
ブランドがなぜ価値をもつのかという問いに、学問的には2つの学説が存在しています。
1.自然選択説
2.パワー説
この2つ存在しています。
まずは、ブランド自然選択説。
この説は「ブランドは市場で商品に選ばれた商品である」と考えるものです。要するに、常に大量の商品が世の中に発売されるけれども消費者に選ばれたモノだけが残っていく。それがブランドだという説です。
なるほど、老舗のブランドは同時期にいろんなお店が登場していたはずです。スタート地点では同じ状態だったかもしれません。でも、その後人気が出てきて競合をはねのけたか結果ブランドがブランドになったということですね。
次に、ブランド・パワー説。
「ブランドの確信は常に、制作者や経営者のそのブランドに掛ける思いや夢、世界観やビジョンがある」と言う説です。
例えば、Appleにはそもそもそれとして認められる価値(パワー)が内在しているとすることです。
一般的なブランドに価値がある理由はこれがメジャーなのではないでしょうか?
それ以外にももう一つ説があります。
ブランドに価値があるのと、お金に価値があるのとロジックが実は一緒?!
ブランドの価値の源泉をたどるために、この世の中に存在しているものでブランドと似ているものがあります。
それは「貨幣」です。簡単に言えば、1万円札は紙っペらですが、1万円の価値があります。紙に1万円の価値が有るという理由にブランドがどこから価値が生まれるのかを知るためのヒントが隠されているのです。
貨幣やブランドの根拠が「消費欲望(ブランド自然選択説)」にあるのか「外部の権威(ブランドパワー説)」にあるのかということは一見両極端のように見えますが、どちらも実態的な根拠を求めている点では同じです。
ブランドや価値がふんわりとしたイメージで成り立っているわけではなくて実態的に捉えようという試みがされています。
例えば、ポッキーの例では、企業側が「ブランドとして育てる」と言う姿勢が大切だとお話しました。ただ、一方で企業側の意図する形でブランドが育つわけではなく思いのよらないところでブランドが出来る場合もあります。
この2つ乗り越えてブランドが価値をなすのかがポイントとなってきます。
そこで、ブランドが価値が生まれると言うのを証明するためにマルクスの『資本論』に出てくる、「価値形態論」と言う考え方を援用します。ここでも、経済学の知識が活きてくるわけです!
貨幣論(貨幣が価値をもつまでのプロセス)
マルクスは、商品を交換するために貨幣が使われる、いきなりお金が存在していたのではなく、物々交換の結果お金が生まれたということになります。これから貨幣が生まれた流れを見ていきましょう。
[第Ⅰ形態 単純な価値形態]
20エレのリンネル = 1着の上着
20エレ(長さの単位)の布は、1着の上着と同じ価値を持っているので交換可能。
※20エレのエレは長さの単位です。
まず、単純な価値形態(価値の形)として、20エレという長さの布と、1着の上着は同じ価値を持っているので交換が可能だということを表しています。
[第Ⅱ形態 展開された、または拡大された価値形態]
次に拡大された価値形態は、20エレのリンネルと交換可能な商品の可能な限りリストを作ってみた状態を表しています。色んなものと交換できるんですね。
ここで、感のいい人は気づいていると思いますが、全てに数字と単位がついているんですね。ここで抽象的(数字)におんなじ価値を表そうと試みているのです。
[第Ⅲ形態 一般的価値形態]
次に第Ⅲ形態の一般的価値形態です。
これは、20エレのリンネルが左辺から右辺に移動した形です。これがどういうことかと言うと、20エレのリンネルが一般化して交換するときの基準になるという形です。
ちょーーっと難しくなってきましたね。
[第Ⅳ形態 貨幣形態]
20エレのリンネルが、変化して2オンスの金に入れ替わるわけです。一般化した価値基準が金になったんですね。よくよく考えたらわかると思いますが、布切れを交換の基準にしてしまうと、使い続けていけば行くほどぼろぼろになってしまいますよね。すり減るので価値が減少してしまうのです。そんなものを交換の基準にするのは無理ですよね?ということで金になったわけです。鉄でも良いんですけど、鉄と同じ価値を持っているものと交換するためには相当な量の鉄が必要なので携帯性がないので、少量でも価値がある金が任命されたわけです。
ブランドも同じ流れです
先程まで、一商品であった金が貨幣になるまでのプロセスを説明してきました。このプロセスを援用してブランドの価値がうまれるまでのプロセスを説明していきたいと思います。
例としてウォークマンとApple社を利用したいと思います。
形式Ⅰ 製品とその諸属性
製品自体の中に内包されている属性群が右辺に存在しています。属性の中の1つでしかない製品名でしかない「ウォークマン」が属性の1つとして紹介されています。
形式Ⅰ´ 名前とその諸属性
商品名が左辺に来て、ウォークマンって何?って言われたら各属性や製品それ自体(物体)を表すことが出来ます。
形式Ⅱ 自立する名前
ウォークマンって言えば、ということでいろんな属性が存在していますが、その中で、宣伝広告で「ウォークマン」という名前と、そのロゴが可愛いということから人気を集めたとします。もちろん猿のCMが手助けしてね。
形式Ⅲ-1 家族名の形式
ウォークマンというブランド名は、使用機能をネクサスするある種の関係を指示します。ネクサスは関係や連携という意味です。ウォークマンの冠がついている商品については、軽いや再生専用と言う仕様機能が関係づけられています。ウォークマンという名前が、あのウォークマンという製品に紐付いていたイメージを受け継ぐわけです。
形式Ⅲ-2 スタイル指示の形式
次にスタイル。関係からスタイルに変わっていきます。
ウォークマンのブランド名だと説明がつきにくいのでAppleに変更して説明していきます。Apple製品っぽいあのシンプルさを体現したスタイルが、どの商品にも受け継がれている。これがスタイルです。
「Appleっぽい」この言葉でしか説明ができない状況になってしまっているんですね。
形式Ⅲ-3 フィロソフィ
次にスタイルスタイルをも超越する形で現れるのがフィロソフィです。これがブランドの最終形態です!
例えばAppleの哲学。
これは言葉では説明できませんがありますよね?それを説明できる言葉はAppleと言う言葉以外ありません。これがブランドの最終形態なわけです。
これらの流れは、ただの「商品名(ないしは会社名)」だったものが、立派な「ブランド」になるまでの過程を指しているものです。ただ、実際にはこのステップで出来上がるわけではありません。もっともむずかしいのは「形式Ⅰ´」の部分です。実際には「形式Ⅰ」でとどまっている商品が多いのが現実です。
まとめ
お金がなんでお金になったのかというのも普段お金を使っているときは考えたことがないですよね。経済学のときにお話したとおり疎外や忘却をさせているからこそ経済が回るんですね。
同じくブランドも普段はなぜブランドがブランドなのかなんて考えながら生活することはありません。Appleはあれだけのブランドになったのは理論的にも壮絶な変化があったわけです。でもそんなことを考えていたら重くてとても変えませんね。ただ、忘却や疎外をさせることで、ブランドの恩恵をありがたく受けることが出来るわけです。
ブランドなんてただのクールなイメージや高級なイメージを作るロゴではないということをここで確認できればここのブランドの回はOK!
次回からは、マーケティングに関わる社会問題をお伝えします。