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【ピラピー】Hitの理由分析レポート〜TikTok 今週の1曲 [No.17 - 25/1-1]

今年もよろしくお願いいたします。山本です!
今回はTikTokでUGCが特大ヒットしている新人クリエイターピラフ星人さんの「ピラピー」を分析します。

著:宮本隆平・山本慶太朗(株式会社ハイトリンク)

「ピラピー/ピラフ星人」に注目すべき理由

MCバトルを引退して楽曲制作に専念すると宣言後、1発目の本楽曲がTikTokでUGC約10万の大ヒット曲となりました。

TikTokerとしてTikTokをずっと見てきたピラフ星人さんが、どのようにして本楽曲のUGCを伸ばすことができたのか?
ここから詳しく見ていきましょう。

1.バズの拡大経路

まず始めに、UGCとは複数の界隈を渡って広がっていくものなので、初期のバズからそれ以降の拡大までどのようなきっかけでどんな界隈に広がっていったのかを分析することが重要になります。
それを紐解くべく、弊社では【イノベーター理論】を用いて分析をしております。
イノベーター理論とはサービス等の市場での普及率を示すマーケティング理論の一つになります。
※詳しくは以下のサイトを参照ください。

今回もそれに倣い拡大経路の順を以下の3つに区分してリサーチいたしました。
それぞれの区切りは本家リリースから投稿までの期間で判断します。
ざっくり以下の通りの認識で今回は分析します。

(1) イノベーター (一番最初に広まったきっかけ)
→今回は約10日以内に投稿されたもの
(2) アーリーアダプター (初期段階で拡散されたきっかけ)

→今回は約10日〜20日以内に投稿されたもの
(3) アーリーマジョリティ (早期段階でさらに拡散されたきっかけ)

→今回は約20日以降に投稿されたもの

(1)イノベーター

今回のイノベーターは10/3に投稿された本人のダンス動画です。
現在1300万回以上再生されています。

@pilafalien

新曲”ピラピー”配信開始🥜 思ってるより難しいから皆踊ってみて😎 振り付けありがとうございました🙏🏻 @$HOR1 WINBOY⭐️ #おすすめにのりたい #ピラフ星人 #ピラピー

♬ オリジナル楽曲 - ピラフ星人 - ピラフ星人

この動画が伸びた理由には、視聴者の層を大きく分けてファン目線の理由初見目線の理由があると考察しています。

まず前提として執筆日現在ピラフ星人さんはTikTokフォロワー56万人以上で、しかも見せかけのフォロワー数ではなく最近はどんな動画を上げても最低でも大凡100万回は回っている正真正銘今勢いがあるTikTokerです。
一般的にはたとえ彼よりもフォロワー数は多いが回る動画と回らない動画に著しく差があるTikTokerより、彼のようにどんな動画でも安定的にフォロワー数以上の再生数を出しているアカウントの方がTikTok内での影響力が強いです。
つまり彼はいわゆるZ世代のカリスマ的存在と言えます。

そのようなアカウントから楽曲をリリースすればUGCのイノベーターが自分として機能することは勿論、彼をフォローしている著名TikTokerも数多くいることが想像されるのでアーリーアダプターへのアクセスもしやすいです。
TikTok楽曲バズ攻略においてイノベーターとアーリーアダプターをどう生み出すかは最初の難関ですが、カリスマ的TikTokerはそれを簡単に突破できてしまうのは明らかな強みです。

そしてそれを支えているのは既存のピラフ星人さんのファンなので、大きくファンとそれ以外とで大別してユーザー心理を分析する必要があると思うのです。
それでは1つ1つ見て行きましょう。

●ファン目線の伸びた理由

①ファンを釘付けにするストーリー性

ピラフ星人さんは、社会人をしながらティックトックを始め、1年で10万フォロワーを達成したTikTokerであり、MCバトルで活躍するラッパーとしても人気があります。
活動当初からピーナッツくんと一緒に曲を作ることを目標にしており、楽曲制作に専念するため2024年中にMCバトルを引退すると宣言しています。

詳しくはこちらの動画をみてください。

この動画には「引退してほしくない」「曲作りを頑張ってほしい」「ピーナッツくんって誰?」という、大きく分けて3つの意見がありました。
その中でも、「引退してほしくない」という意見がほとんどで、引退に対してネガティブなファンが多かったことが分かります。

そして、引退発表後の1発目に発表した楽曲が「ピラピー」です。
本楽曲は上記コメントの意見を、全てポジティブに変える楽曲であると考えます。
なんか流行りそうと思える曲調や歌詞によって、ネガティブな意見だったファンも肯定的になり、曲作りを応援していたファンも応援していて良かったとなったことでしょう。

上記コメントのいいね数を見ても、肯定派と否定派が一気に反転していることが分かりますね。(再生数に対してコメントいいねが少なすぎます)
ここでのなんか流行りそうという部分は後のセクションで話していきます。
また、ピーナッツくんのことを知らなかったファンにも、ピーナッツくんを知るきっかけを作り、自分のピーナッツくんに対する熱狂的な愛も伝えています。

しかし、このストーリー性も楽曲がバズらなければ成立することはありませんでした。
本人のダンス動画がイノベーターとして拡散されるきっかけとなったのは、次の理由が大きいと思われます。

②ピーナッツくんに届いてほしいというファンの想い

TikTokerとしてTikTok内に多くのファンを抱えているピラフ星人さんにとって、UGCを伸ばすために一番最初に大事になるのは、ファンが拡散したいと思うかどうかです。
初動が悪ければ、なかなか後から伸ばすのは厳しくなってしまいます。

今回の動画をファンが拡散したいと思った理由の1つとして、シンプルに曲が良い+ピーナッツくんへ届けたいと思える歌詞だったということがあります。

※ピーナッツくんとは
2017年7月からYouTubeに投稿されている自主制作ショートアニメ『オシャレになりたい!ピーナッツくん』の主人公であり、2018年初頭からは、同アニメから派生したキャラクター甲賀流忍者!ぽんぽこと共に、VTuberとして活動しています。ぽんぽことのコンビは「ぽこピー」と呼ばれ、VTuberとしては主に「ぽんぽこちゃんねる」に出演しています。また、ラッパーとしても活動しています。

「ピラピー」という曲名は「ぽこピー」のようなコンビになって曲を作りたいというピラフ星人さんの気持ちが出ていますし、歌詞の全てがピーナッツくんに関することで構成されており、特にI love ピーナッツというシンプルな愛は、本当にピーナッツくんが好きなんだという想いがファンにも伝わったことでしょう。

またピーナッツくんもピラフ星人さんも界隈が同じでかつその界隈のトップ級インフルエンサーということで、界隈ファンとしては夢のコラボというアツい展開に自然と応援に熱が入っていることも重要です。
軽視されがちですがSNSマーケティングにおいて、ユーザーたちがまるで名作のノンフィクション映画を楽しんでいるように錯覚する『施策のストーリーテリング』はとても重要です。

さらに拡散の初動を早めた理由として、リリース前にピラフ星人さんが投稿している次の動画が挙げられます。

「ピーナッツくんの中身ピラフ星人説について」という興味をひくタイトルの後半で、楽曲をリリースすることに加えて、ピーナッツくんにこの楽曲を届けたいと伝えています。
この動画でピラフ星人さんの想いを聞いていたからこそ、初動も早まり拡散されていったと考えられます。


●初見目線の理由

①ダンスの可愛さ

ダンスの可愛いさという部分がUGCが伸びた大きな理由の1つとして挙げられます。

@s1ganoasobi

@ピラフ星人 dc:Me🙌🏻😂皆んなでピーナッツくんに届けよう🥜

♬ オリジナル楽曲 - ピラフ星人 - ピラフ星人

振り付けは、$HOR1 WINBOYさんが担当しています。
世界的なダンサーでありながらラッパーとしての一面も持ち、ピラフ星人さんとの繋がりもそこからだと推測されます。
また、$HOR1 WINBOYさんの出身は滋賀県で、ピラフ星人さんの緻密なプロモーションやストーリー性を考えると、歌詞の琵琶湖と共通点があることも偶然ではないように感じますね。

琵琶湖という歌詞のためにわざわざ琵琶湖で撮影していることや、大雨の中踊っているという視覚的な部分でも、視聴者の興味をひく材料の多い動画だったといえます。

楽曲自体の特徴に関しては、後のセクションで詳しくお話しするので、ここでは割愛させていただきます。

②ラッパー界隈コラボ

ピラフ星人さんは積極的にコラボも行っており、リリース直後はラッパー界隈とのコラボでさらにUGCを拡げていきました。
ここでは本人アカウントの投稿のみで、振付師の$HOR1 WINBOYさん以外のコラボ先の動画はまだ投稿されていないというのもポイントです。これに関しては後半でまとめてお話しします。

$HOR1 WINBOYさん

@pilafalien

振り付け考えてくれた$HOR1君と踊ったら上手すぎたwwww @$HOR1 WINBOY⭐️ #おすすめにのりたい #ピラピー いい#ピラフ星人

♬ オリジナル楽曲 - ピラフ星人 - ピラフ星人

May4 / メイフォーさん

がーどまんさん

@pilafalien

がーどまんくんありがとうございます🤝🏻🤝🏻 いつかバトルリベンジします😎 #おすすめにのりたい #ピラピー #ピラフ星人 #がーどまん @がーどまん【公式】

♬ オリジナル楽曲 - ピラフ星人 - ピラフ星人

本人投稿がバズった後に積極的にコラボをしていくというのは、2024年に大バズりしたこっちのけんとさんも行っていた手法です。
改めて、本人がUGCを促進できるというのは最強だなと感じました。

イノベータに本人投稿が最強な理由に関しては、こちらの記事の【補足】に詳しく記載しています。

端的に説明すると

強いインフルエンサーに案件委託する→リスクに対して費用が合わない
Spark Ads(TikTok広告)で回す→そもそもオーガニックで動画が回らない=音源にも問題がある

よって、イノベーターとして本人アカウントでゴリ押しができるのはなんだかんだ一番強いということです。

③UGC動画に対する本人からのコメントと再投稿

これは今までの項と比べるとサブ的な要素となります。ピラフ星人さんは、本楽曲のUGC動画に対して積極的にコメントし、再投稿を行っています。
次の2つの動画は、超人気クリエイターではないものの、本人投稿から数日という早さでダンス動画を投稿しており、その日のうちにピラフ星人さんがコメントしています。

@user.nameissangurasu

よくコメ欄でピラフ星人のサングラスに似てるって言われます。。#さんぐらす🕶️🍼 #ピラフ星人 #ピラピー #fypシ

♬ オリジナル楽曲 - ピラフ星人 - ピラフ星人

本人がコメントをすれば、そのコメントに対していいねやコメントがつくので、自然とエンゲージメント率は高くなり、動画はバズりやすくなります。
また、動画を投稿すれば本人がコメントしてくれるかもしれないという期待感から、UGC動画の増加にも繋がります。
コメントを返していくのは地道な作業にはなりますが、確実に動画のバズる確率を上げるために効果的な手法と言えますね。

この2つの動画以外にも初期に投稿された動画には積極的にコメントしており、その後も再投稿はこまめに行っているようです。

(2)アーリーアダプター

その後、アーリーアダプターとしてよこだみらいさんとイノベーター段階でコラボしたメンバーの動画が出てきます。

①よこだみらい(個人)

本楽曲のUGCが伸びた1番のキーパーソンといっても過言ではないのが、横田未来(TikTokのアカウント名は平仮名)さんの存在です。

※横田未来さんとは
「今日好き」をきっかけにブレイクしたインフルエンサーで、歴代今日好きメンバーの中でもZ世代への影響力が絶大。

10/12に投稿された動画は現在164万回再生

10/17に投稿されたコラボ動画は現在590万回再生されています。

@mirai_yokodaa

あいらぶピーナッツ🥜❤️‍🩹@ピラフ星人

♬ オリジナル楽曲 - ピラフ星人 - ピラフ星人

ラッパーやヒップホップという狭い界隈でしか拡がっていなかった本楽曲が、ここから一気にティーン層を中心とした幅広い層に拡がっていきます。
また、ピラフ星人さんが横田未来さんと付き合っているのではないかという噂も話題となり、さらに動画は拡散されていきました。

12/15に公開されたピラフ星人さんの新曲「Knock Knock」のMVにもヒロインとして出演しています。

②ラッパー界隈コラボ(コラボ先)
横田未来さんに続いて、ピラフ星人さんのアカウントでコラボしていた2人が動画を投稿します。

10/18に投稿されたMay4/メイフォーさんの動画は現在400万回再生

@may4thhhh

あいらぶぴーなっつ🥜❤️‍🩹 @ピラフ星人

♬ オリジナル楽曲 - ピラフ星人 - ピラフ星人

10/18に投稿されたがーどまんさんの動画は現在434万回再生

すでにコラボしていたMay4/メイフォーさんとがーどまんさんがあえてこのタイミングで動画を投稿したのは、次の理由があると考察します。

本人のアカウントでバズったからといって、コラボ相手のアカウントでもすぐにバズるとは限りません。
そのため、すでにバズっている本人のアカウント(再度バズる可能性が高い)でのみコラボ動画を投稿して、まずはコラボ先の視聴者にもバズる曲ということを認知させてから、コラボ先には単独で投稿してもらったと考察します。

では、なぜ単独で投稿してもらう必要があったのでしょうか?

UGCが拡がるためには、クリエイターからこの楽曲を使ったらバズりそうと思われる必要があります。TikTokは流行りのスピードが早いため、1週間後には流行らなくなるということも全然ありえる世界です。そのため、すぐにオワコンになるものには手を出したくありません。
単独での動画がバズっていれば、コラボしたからバズっているのではなく、音源自体がバズる曲なんだと認識してもらうことができます。

今回は、最初の約10日間で本人の動画がコラボも含めてバズり、次の約10日間で上記メンバーの動画が段階を踏んでバズることで、バズる楽曲という印象をクリエイターに与えることができました。

そのため、この後から一気にUGC動画が増えていきます。

横田未来さん→中高生を中心としたTikTokのメイン層へ
May4/メイフォーさん→ピラフ星人さんのファンやラッパー界隈へ
がーどまんさん→YouTubeerや大手インフルエンサーへ

このような役割があったように思います。

③流行敏感女子界隈

例外として、この段階で動画を投稿していたのは流行を先取りしたい流行敏感女子界隈です。
彼女らの一番の欲求は「もっとバズりたい!」です。
故にトレンドになりそうなものにはいち早く飛びつく傾向にあり、積極的に投稿していきます。

10/13に投稿された水野舞菜さんの動画は現在57万回再生

@mananchos

次の流行りらしい@高梨優佳 (ゆか)🍐🤍

♬ オリジナル楽曲 - ピラフ星人 - ピラフ星人

10/15に投稿された内山優花さんの動画は現在132万回再生

@yuka3l7

次の流行りに乗ったどーー!!!ピーナッツ!@高鶴桃羽🍑🕊️

♬ オリジナル楽曲 - ピラフ星人 - ピラフ星人

どちらの動画も、キャプションに「次の流行り」という言葉を使っているのが特徴的ですね。


(3)アーリーマジョリティー

ここから一気に幅広い界隈へ拡がりを見せます。

①TopTiktoker界隈

バズる楽曲という認識が広まったことで、大手のTikTokerも投稿し始めました。

10/21に投稿された桜さんの動画は現在404万回再生

10/22に投稿されたMINAMIさんの動画は現在291万再生

彼女らの特徴は「自身のブランディングにプラスになるかどうか」で選曲をするということです。
TIkTokトレンドの行方を決める彼女らに使われるかどうかはかなり重要な分岐点となってくるので、ここで使ってもらえたのはとても大きな意味を持ったと言えるでしょう。

②今日好き界隈

次に今日好き界隈にもUGCが拡がっていきます。
「今日好き」とは『今日、好きになりました。』という恋愛リアリティショーのことで、ここではその番組を通して人気となった女優さんやインフルエンサーが取り上げたことを意味します。

10/25に投稿された米澤りあさんの動画は現在107万回再生

@yonezawa_ria

アイラブピーナッツ❤️@藤田みあ

♬ オリジナル楽曲 - ピラフ星人 - ピラフ星人

10/28に投稿されたしょう【角田翔】さんの動画は現在148万回再生

現在、日本のTikTokユーザーは10〜20代が1番多くなっており、その層に絶大な人気を誇るのがこの今日好き界隈です。『今日好き 卒業編』に関しては、女子中高生の内3人に1人以上が視聴するまでに伸長するなど大きな注目を集めました。

この界隈への拡がりは、やはり今日好き出身の横田未来さんの存在が大きいでしょう。
彼女の投稿を見て曲を知ったクリエイターや中高生は非常に多いと思われます。

本楽曲は、この今日好き界隈へ拡がったことで、さらにUGCを伸ばしていきました。

③コラボ第2弾

ここでさらに複数のコラボ動画が投稿されていきます。

11/5に投稿された中島結音(ゆのん)さんの動画は現在755万再生

@yunon___1120

きみになにがわかるの❓@ピラフ星人

♬ オリジナル楽曲 - ピラフ星人 - ピラフ星人

中島結音さんも今日好き出身のインフルエンサーで、TikTokのメイン層への更なるブーストとしてコラボしたと考えられます。
狙い通り再生数は本家動画に次いで2番目となっており、UGCをさらに伸ばす一手となりました。

11/4に投稿された深田えいみさんの動画は現在364万回再生

この時期に、深田えいみさん、かえぽんさん、TAICHI(筋達磨)さんなど様々な界隈とコラボしていることから、さらに幅広い界隈への進出を狙っての施策であることが分かります。

強い本人アカウントがある場合、このように他界隈の強いインフルエンサーとコラボし続けることで灯ったバズの火を更に大きくしていくことに役立つので、バズった後でも擦り続けるのが重要ですね。

ここまでのバズの拡大経路をまとめると

・なんか流行りそうな曲調と歌詞
・ピーナッツくんに届たい想い
・インフルエンサーとの段階を踏んだコラボ

これらの要素がUGCの拡がった要因であると分かります。

では、ここからはなんか流行りそうな曲調と歌詞の部分に焦点を当てて見ていきましょう。

2.楽曲の音楽的特徴


ここまで楽曲がバズった理由に対する外的要因を解説してきましたが、やはりそれだけではバズは生まれません。
TikTokでUGCがバズるということは、楽曲そのものが何度も聞きたくなる魅力的な音楽要素を持っているとういうのが非常に重要です。
この項では、楽曲自体の魅力、バズが生まれた内的要因を解説します。

結論から言うと「可愛い×かっこいい」の絶妙なバランスです。

本人の投稿した動画のコメント欄でも「可愛い」と「かっこいい」は共存しており、どちらかというと「可愛い」が多くなっている印象です。
ただ、「可愛い」にはダンスや見た目の視覚的な要素も含んでいますので、音楽的な要素でいうと1:1くらいの絶妙なバランスであると考えています。

そしてそれを構成する要素は2つあります。

(1)シンプルで可愛い歌詞と歌声
(2)サウンドのかっこよさ

それぞれ解説していきます。

(1)シンプルで可愛い歌詞と歌声

「可愛い」という部分においては、歌詞と歌声の相乗効果が大きな要素だと考えます。

ピーナッツってなんか可愛い響きに聞こえませんか?
単語や言葉選びによって可愛い響きになったり、かっこいい響きになったりってあると思います。
ピーナッツ以外の歌詞もシンプルなものが多く、dancingやlunchなど可愛いさを感じる歌詞が散りばめられています。

野菜を使うことで可愛いさを演出できることに関しては、このあとのセクションでも詳しく解説します。

また、ピラフ星人さんの少し気の抜けた感じの声と歌い方が歌詞にマッチしている印象です。
最近はこの気の抜けた感じが特に若者に刺さっており、似たような曲には下記2曲が挙げられます。

Bunny Girl / AKASAKI

愛とU / Mega Shinnosuke

@megashinnosuke

愛とU (Love and U)(っ'-')=͟͟͞͞❤︎ @らん 란 #megashinnosuke #愛とU #MV #음악추천

♬ Ai To U - Mega Shinnosuke

可愛いさを引き立てる効果に加え、HIPHOPというニッチなジャンルにJPOPの流行り要素を入れることで、TikTokのメイン層にも届くような曲になっているといえます。

(2)サウンドのかっこよさ

歌詞や歌声の可愛いさを解説しましたが、逆にサウンドはシンプルなかっこよさがあります。
HIPHOPやEDM特有の重低音がかっこよさを引き立てています。

類似している曲でいうと

Osanpo (feat. 般若 & R-指定) [Remix] - SOCKS & DJ RYOW

@localcampione

今日は@RYOMA【ローカルカンピオーネ】 の振り付け🐶コンコンコンがキャッチーすぎる😂犬飼ってる人は、このダンス踊る前に愛犬のお散歩行っとこうよ🦮#socks #djryow #R指定 #般若 #osanpo #osanporemix #ローカルカンピオーネ #localcampione

♬ オリジナル楽曲 - ローカルカンピオーネ🗾👑 - ローカルカンピオーネ🗾👑

Bluma to Lunch/BLOOM VASE

が挙げられ、どちらも歌詞の可愛いさとサウンドのかっこよさが絶妙なバランスで共存しており、そのギャップが曲に中毒性を生んでいます。

本楽曲においては、裏でなっているサックスの音色も合わさって、おしゃれでかっこいいサウンドが生まれています。

3.楽曲構成の整理


ここまでのセクションで各界隈でUGCが伸びた理由、そしてそれを印象付ける音楽要素をご理解いただけたかと思います。
しかし、幅広い界隈において再生数が安定して伸びるということは、単に楽曲の印象が界隈の世界観とマッチしているだけでは不十分です。

TikTokという短尺動画の中で満足度が得られる作品でなくてはならないため、本セクションではその楽曲構成について触れていきたいと思います。

(1)?を生む歌詞

ショート動画において冒頭3秒でいかに興味をひくかは非常に重要になります。
ここで視聴者の興味を引けなかった場合、すぐに次の動画へスワイプされてしまうからです。

本楽曲の冒頭3秒に出てくるワードは、I love ピーナッツ
直訳すると“私はピーナッツを愛しています”ということはすぐに分かりますが、ピラフ星人さんがピーナッツくんを好きなことを知らない人からすると、何のことなのか全く理解できません。

この意味はわかるけど理解が追いつかない状態が、視聴者の手を止めて冒頭のスワイプ率を下げていると思われます。

また、他の歌詞も同様にシンプルで知っている単語が並んでいるのですが、ピーナッツくんを歌った歌だと知らない人からすると、終始?が生まれる内容です。

ーーーーー

I love ピーナッツ
ピラピーの始まりさ dancing dancing dancing
皆もピーナッツ
町中華目指して lunch lunch lunch
I love ピーナッツ
裸の付き合いして dancing dancing dancing
琵琶湖見える街並み
君に何がわかるの?

ーーーーー

最近流行っている曲で本楽曲と同じように?を生む歌詞のものに、「PARALLEL / Liza」があります。この曲も1つ1つのワードの意味は分かりますが、歌詞の意味は理解できません。

@liza__________97

リザじゃないリーザだよの人です #PARALELL #newmusic

♬ PARALLEL - Liza

ーーーーー

適当に着陸した
ここはどこ? ロシアだった
ビザがない 追い出された
リザじゃない リーザだよ

ーーーーー

どちらの楽曲も、シンプルな単語を使っているのに理解できないという状態が中毒性に繋がり、何度も繰り返し再生してしまう視聴者が多くなっているのではないでしょうか。


(2)一定リズムの低音と飽きさせない動き

本楽曲のキックやベースラインは一定リズムで刻まれています。

TikTokで何億、何十億と再生されることになれば中にはお風呂でスマホスピーカー直で再生している人とかもいるわけで、劣悪な再生環境でも伝わる音響を作ることが肝となってきます。

コメントでもリズムが好きという意見は一定数ありますね。

例えば直近のヒット事例だと

UCHIDA1 / ODAKEi & GINTA

@moemomo0307

ジェットコースターで意識失っちゃいます#コスモワールド

♬ UCHIDA 1 - GINTA & ODAKEi

おともだち - いつもありがとうver. / edhiii boi

などが同じように一定のリズムを刻んでいる曲です。

本楽曲が上記2曲と違うところは、スピード感がスローになっている点です。
これは勢いがある2曲とは違い、落ち着いた柔らかい感じでなんかずっと聴いていられるという状態を作り出しています。

また、ずっと見ていても飽きさせない視覚的工夫として、遠近感を使った動きがあります。
特に本家動画やコラボ動画が分かりやすいですが、冒頭で引いていき締めで寄る。
2人で撮影している動画に関しては、お互いが前後に交互で動いたりしています。

今年はカメラワークが秀逸な動画の再生数が伸びやすい傾向にあり、ダンスを撮影した動画よりも裏側のカメラワークを撮影した動画の方が伸びるなんてこともあります。

例えばこの動画です。

@aoharu_school_

誰が表情管理1番うまい?? @中島結音(ゆのん) @おさき🤷‍♀️ @あみか🦄✨@フォーエイト @🌸桜🌸

♬ 오리지널 사운드 - 𝘀𝗰 - 𝘀𝗰

この動画が1336万回再生というだけでもすごいのですが、裏側を撮影した次の動画は4758万回再生という脅威的な数字を叩き出しています。

@aoharu_school_

裏側はいつだって大騒ぎ🤯 @🌸桜🌸 @中島結音(ゆのん) @あみか🦄✨@フォーエイト @おさき🤷‍♀️ @伊吹とよへ

♬ オリジナル楽曲 - 放課後アオハル学園 - 放課後アオハル学園

この動画に関しては、楽しい雰囲気を作る周囲の人の凄さももちろんあるから伸びているのですが、それを抜きにしても、どれほどカメラワークにおける視覚的工夫が重要かが分かりますね。

本楽曲は、その効果を演者側が動くことで成り立たせているというわけです。


4.時代背景における本楽曲の立ち位置


ここまで各界隈でUGCが伸びる理由、それを印象付ける音楽要素、TikTokという短尺に適正化された楽曲構成をヒット理由としてお伝えしてきましたが最後に重要な点がもう一つ。

それは「時代の流れにどうハマっていたか」という視点です。

昭和と現在で流行っている楽曲が全く異なるように、時代と共に求められるサウンドは変化していきます。それは数ヶ月〜半年〜1年などの細かなスパンでも同様で、トレンド全体の流れの中でその楽曲がどのような立ち位置でヒットしたのかを知ることは非常に重要です。

本セクションではそれを見ていきましょう。


(1)野菜を使ってさりげない可愛いさアピール

ここでの解説は、11月のレポートの内容と重複しますが、本楽曲の立ち位置を知るのに重要なセクションとなるため、改めてお話しします。

野菜をもじった遊べるダンス系は定期的にHitが多数出ているジャンルです。

『毒キノコの歌』

毒キノコダンスは、本楽曲のダンスとも類似しており、可愛いさを演出するということに対して汎用性の高い振り付けであるといえます。

『さつまいもタイム』

これらのUGCが伸びる理由の本質は、特に日本の若い女性はSNSで自分の可愛いをアピールする時"アピールをやりすぎたくない"と思っている事に起因すると思っています。
これらと本質的に共通点のある事例を紹介しましょう。
例えばXに自撮り写真を投稿する時、同じような写真を4枚まとめて投稿する女の子は多いです。

これは『1枚だけアップするとそれが大きく表示されてタイムラインに乗るのが恥ずかしい』というインサイトで、これらの本質もアピールをやりすぎたくない事に起因します。

普段からこのような思考でSNSと向き合う女性インフルエンサーたちにとって、「可愛いをアピールできつつも"やりすぎてない動画が作れる曲"」というのは取り上げるハードルが低いのです。
自分の可愛さをブーストしつつもやりすぎてないと刷り込めるものの象徴として『野菜』がハマっている、と僕は解釈しています。

この流れは2025年もしばらく続くでしょう。


5.バズった結果得られたものまとめ

楽曲ヒット理由の分析は以上となりますが、そこからアーティストにどんなリターンがあったのかがアーティストをプロデュースする上では重要になるポイントです。
このヒットをきっかけに一体どのような影響があったのでしょうか?

(1)成果

・TikTokチャート1位
・TikTokフォロワー50万人突破

TikTokチャート1位はもちろんのこと、2年弱でフォロワー50万人というのは脅威の数字です。
TikTokerの中でも一気に格が上がったのは言うまでもありません。

しかし、あくまでこれはTikTok上での話であって、TikTok内UGC数以外のパラメーターは軒並み伸び悩んでいる数値感ですね。
その先のサブスクの再生やMVの再生に繋げるには別の施策が必要です。
それがない場合はTikTok内のUGC拡大だけで完結してしまいます。

(2)ピーナッツくんと曲を作る夢

活動当初から掲げているピーナッツくんと曲を作るという夢には相当近づいたのではないでしょうか。
ここまでバズっていれば、確実にピーナツくんの元にも楽曲は届いていると思いますし、ピラフ星人のファンがピーナッツくんの動画にコメントしていることから見ても、認知はしているでしょう。

※ピラフ星人さんは、10/31にピーナッツくんの動画への鳩行為はやめてくださいという動画を出しています。

@pilafalien

ピーナッツくんの動画に俺のコメントするのは絶対やめてね!!!! #おすすめにのりたい #ピラピー #ピラフ星人 #ピーナッツくん #CapCut

♬ ピラピー - ピラフ星人

YouTubeで人気のピーナッツくんと曲を作ることができれば、TikTokに留まらずYouTubeの世界でも大きな成果に繋がるかもしれませんね。

6.再現性のある要素

(1)段階を踏んだコラボ施策

ピラフ星人さんは、段階を踏んで様々なインフルエンサーとコラボをしています。

まずは本人の動画をバズらせ、次に本人アカウントでコラボをしてバズらせ、その後のコラボした相手の動画もバズるような設計をし、自然なUGCの発生に繋げていきました。
また、リリースから1ヶ月経ったところで新たな界隈とのコラボをして、さらにUGCを拡げていきました。
そしてUGCの伸びが落ち着いてきたところで、別バージョンの音源とダンスを投稿し、12月の新曲がリリースされるまで、常にバズり続けている状況を作り出しました。

@pilafalien

こっちのバージョンのピラピーも皆使ってみてね!!!  TikTokチャート1位本当にありがとう😭 #おすすめにのりたい #ピラフ星人 #ピラピー

♬ オリジナル楽曲 - S._.894 - S._.894

1週間〜10日程のスパンでプロモーションをかけていくことで流行りの寿命を伸ばし、UGCを約100Kまで伸ばした動きは、とても再現性の高い施策といえます。

もちろん楽曲ありきで、コラボの人選も非常に重要です。

(2)野菜をもじったダンス曲

野菜を使ってさりげない可愛いさアピールができる曲の流れはしばらく続くでしょう。
再現性高くUGCを当てたい人には超おすすめのテーマです。

ただし注意点が1つあり、あくまでこれはTikTok上でのインフルエンサーからの使い勝手がいいからUGC数が増えやすいという話であって、その先のサブスクの再生やMVの再生に繋げるには別の施策が必要です。
つまり野菜の曲単体では音楽自体に注目しようという誘導に持っていき辛いアーティストが殆どだという事です。
ここと相性の良いアーティストをアサインする(例えば子供のファンが多いアーティストなどは相性がいいでしょうね)、或いは別でサブスクに繋げる施策を組み込んでしまう、などの対策が必要になります。

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