4R-KYTは5R-KYTへ?その課題と解決策
日頃会社(製造業)で実施している4R-KYTにモヤモヤを感じたので、その解決策を考えてみました。きっかけは部署のKYT推進リーダーになったことです。*本職は生産技術者です。 さてこのnoteの結論を先に書くと、
【模範解答のシェアを含めた5ラウンドKYTにする】
です。皆様の労働安全に寄与できれば幸甚です。
1. 4R-KYT(4ラウンドKYT)とは
4R-KYT(4ラウンドKYT)とは、危険予知トレーニング(Kiken Yochi Training = KYT)の手法の一つです。なんという略し方・・・ というのは置いておき、歴史背景は下記の通りです。実際には KYT4ラウンド法、4ラウンドKYT、4RKYTなど様々な呼称で呼ばれていますが中身は一緒です。住友金属工業(現・日本製鉄)は、KYTだけでなく実は”ご安全に”の掛け声も発祥でもあります。リスクの高い現場だからこそ高い安全意識を醸成していったのだと思います。
危険予知訓練は、もともと住友金属工業で開発されたもので、中央労働災害防止協会が職場のさまざまな問題を解決するための手法である問題解決4ラウンド法と結びつけ、さらにその後、旧国鉄の伝統な安全確認手法である指差し呼称を組み合わせた「KYT4ラウンド法」としたものが標準とされています。 -厚生労働省HPより引用-
実際の進め方は、危険が各所に散りばめられた絵/写真を教材にしながら、下記の4ラウンドでディスカッションを行い、指差し呼称で〆めます。指差し呼称は、電車の運転士さんに近いやり方で、片手を腰に手を当て、もう片手の指先を注意対象や宙へ振り下ろしながら「◯◯を行うときは▲▲確認、ヨシ!」といった唱和をリーダーの後に続けて実施するものです。
KYTは4ラウンド(R)法でホンネの話し合いを進めます。
第1R(現状把握)どんな危険がひそんでいるか
第2R(本質追究)これが危険のポイントだ
第3R(対策樹立)あなたならどうする
第4R(目標設定)私たちはこうする
-中央労働災害防止協会HPより引用-
2. 4R-KYTの課題と解決策
さて産業界では広範に利用されている4R-KYT、製造業の弊社でももちろん定期的に実施しています。しかし部署のKYTリーダーとして4R-KYTを推進すす中で、ふと疑問が湧いてきました。それは、”グループディスカッションの結論は、果たして最適な結論と言えるのだろうか”という疑問です。グループで実施するKYTは、「ここに危険があると思います」という自分の意見だけで無くグループメンバーの意見を聞くことで、「そうか、こんな視点もあるんだ」という気づきがあり、それによって危険予知のアンテナを高めていくことを目的としています。しかしメンバーのレベルを完全に担保することはできるでしょうか? 恐らく、そんな保証はどこにも無いはずです。メンバーのレベルが全体的に低い(定性的な概念ですが)場合はどうでしょうか? お互いに思いつく程度の危険を提示するだけに終始し、危険予知力は上がらないのでは無いでしょうか。つまり・・・
【メンバー頼りでは真の危険予知力の向上には繋がらない】
これが4R-KYTの課題だと考えるようになりました。イメージは↓です。
危険予知力を懐中電灯で真っ暗な部屋から危険を見つける力に例えます。
すると、自分個人では数ある危険のうち一部しか気がつかなくても(左図)、グループで取り組めば多少は多くの危険を察知することができるでしょう(中図)。しかし、それで部屋全体に潜む危険を探し切ったと言えるでしょうか?「自分たちは危険を摘出仕切った」と言い切ることはできないはずです。右図のように、部屋全体を照らし出す模範解答と言う装置が必要なのでは無いでしょうか。もちろん模範解答が完璧と言うことはできませんが、一定レベルを保証し、グループメンバーに気づきを与えることはできます。
3. 5R-KYTの進め方
この模範解答のシェアを4R-KYTに組み込むことで5R-KYT(5ラウンドKYT)とすることを提案します。
新しいKYTのラウンドはこうです。
第1R(現状把握)どんな危険がひそんでいるか
第2R (潜在危険把握) 気づかなかった危険は何か ←ここで模範解答シェア
第3R(本質追究)これが危険のポイントだ
第4R(対策樹立)あなたならどうする
第5R(目標設定)私たちはこうする
もちろん第1Rで議論を尽くすことを前提とします。潜在危険を含めた上で、第3Rの本質追及に入ることで"KYT参加メンバー全員が気が付かなかったが実は本質的に危ないもの"の議論をすることができるからです。
しかし模範解答を作るのは実は容易なことではありません。皆様の会社の安全部隊だけで作るのも工数がかかります。そこで、一つのテーマを時期ずらしで実施して解答を集積して模範解答を作ります。こうすることでその日ディスカッションするグループメンバーを大きく凌駕する叡智を集めることができます。先程の絵の例えで言うと、”超大量の懐中電灯があれば部屋は隅々まで照らし切れる”と言う考え方です。99.99999≒100と考えるのです。こうすることで、安全部隊は自分で解答を考えずとも(ほぼ)抜け漏れのない潜在危険のリストを手に入れることができるのです。
実際に私の所属する工場では、私が安全部隊の部長に提案し、次回からKYTの中で模範解答のシェアを始めることになりました。
以上、4R-KYTの課題と対策でした。もし皆様の参考になりましたら、"スキ"頂けたら嬉しいです。ご意見もお待ちしております。