私のカレーレシピ・完結編
ついに、芭蕉のカレーを食べることができた。
芭蕉とは群馬県桐生市にある洋食屋さんで、父が学生時代によく通っていたというお店である。古民家カフェのはしりというか、ただ古民家。趣きのありすぎる、遠慮なく言えばいつ崩れ落ちてもおかしくなさそうな建物。父が通っていた頃からそうだったらしい。ここの名物、印度カリーを父に連れられて子供のころ食べて「こんなおいしいカレーがあったのか!」と、自分のカレー観を覆された。
しかし、場所柄なかなか訪ねることはできず、しかも老舗すぎてホームページなどないので、行くまでやっているかはわからない。賭けだ。まぁ電話で問い合わせればいいのだが。今年の5月に行ったときは賭けに負けた。しかし、先日母と所用のついでに寄ってみたら今度はちゃんと営業していた。
もしかしたら開店当初からいるのかもしれないご婦人、というかおばあさまに席に案内される。店内は二階建てになっていて、その一階の席。前に父と二人で来たときもこの席だったような。同じ席に今度は母と二人向き合い座る。店内は本当に静かで、二階のお客さんのささやかな話し声以外は物音ひとつしない。飲食店ならだいたいどこでも流れているBGMというものがないのだ。
おそらく20年ぶりくらいに食べた印度カリーは、やはりというか記憶とはだいぶ違っていた。もっと甘みがあったような気がしたが、実際はそこまででもなくてけっこうあっさり。ロイヤルホストのカレーに似ていると思っていたけど、今食べてみるとむしろ中村屋のインドカリーに近い気がする。ただ、玉ねぎが大量に入っていて、この感じが長年の間に拡大解釈されていったのだろう。おいしかった。
かつて織物で栄えた面影を残す桐生の町並みもとても良いのだが、また来る機会はなかなかないだろうな…。
(2022年11月29日Aga-zine「ただとりとめのない話」用文章『芭蕉のインドカリー』 改題)
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