私のカレーレシピ
アガリスクには偉大なるカレーマスター冨坂友がいるためいささか気が引けるが、数か月に一度作る伊藤圭太オリジナルカレーのレシピがほぼ完璧なものとなってきたので、ここに記録がてら記しておこうと思う。
ちなみに私がカレー作りにおいて味の目標としているのは、父の故郷、群馬県は桐生市にある『芭蕉』というお店の『印度カリー』。昭和12年創業の古民家カフェのはしりのようなお店で、店内には棟方志功の壁画があったりする。父が学生時代通っていたというこのお店のカレーを初めて食べたのはまだ小学生のころ、辛い中にもフルーティな甘みのあるカレーは自分のカレー観をひっくり返した。印度カリーという名前であるが、ナンでたべるようないわゆるインドカレーの雰囲気ではなく、むしろ良く煮込まれた欧風カレーの趣である。その味にドハマりしてしまったのだが、場所が場所だけになかなか訪れる機会がなく、最後に食べたのはもう20年以上は前であろう。当時からいつ朽ちてもおかしくない雰囲気であったが、ググってみると今でも同じ建物・同じメニューで営業しているのには驚きである。
その後私は、芭蕉の印度カリーの面影を求めて様々なお店でカレーを頼むのだが、なかなか思い出の味に似たカレーに出会うことはなかった。しかし、灯台下暗し。その味に限りなく近いと思われるお店は思いの外身近なところにあった。その店の名は『ロイヤルホスト』。ご存じの方も多いと思うが、全国に店舗を構える洋食の名店である。ロイヤルホストは毎年カレーフェアを開催するなどカレーにかなり力を入れているお店だが、芭蕉の印度カリーに似ているのは通年メニューの『ジャワカレー』。このカレーを考案したシェフがインドネシア出身であったことから、ジャワの名を冠したというこのカレーを初めて食べたときは、その美味しさに衝撃が走ると同時に、あの味にこんなところで期せず再会できたという感動がこみ上げた。ということで、私の思い出の味はいつしかロイヤルホストのジャワカレーの味にとって代わられており、もしかしたら今芭蕉の印度カリーを食べたら「全然違うやん」ということになる可能性も否定できない。ちなみにインドネシアにもカレーはあるようだが、こちらはナンプラーやココナッツミルク、パクチーなどの入ったタイカレーに近いものであるらしい。また、同じ名を持つハウスのジャワカレーは、南の島をイメージするネーミングとしてジャワとつけたらしく、インドネシアはまったく関係ないようだ。
あ、そうそう、『松屋』の『創業カレー』も芭蕉の印度カリーの雰囲気を感じるカレーとして挙げられる。牛肉を大量にルーに溶け込ませているらしく、その調理法は私も大いに参考にさせてもらった。
前置きが長くなってしまったが、いよいよ私の研究の成果を発表しようと思う。ちなみに上記のようなことをつらつら書いてしまったが、このカレーのレシピで作ってもロイヤルホストのカレーにはそれほど似ていない。いつの間にか自分がよりおいしいと思うカレーを作るという方向にシフトしてしまったため、その辺りはご容赦頂きたい。
などなどと書いていたら紙面が尽きてしまった。私のカレーについての能書きは十分過ぎるほどお伝えすることができたので、次回こそはレシピをご紹介したいと思う。では皆様も素敵なカレーライフを。
(2021年7月1日『かげきはたちのいるところ』裏パンフ用文章)