原因究明はシンプルかつ短時間で
以前、上場企業の新規事業部が存続の危機で、残り半年で黒字化の目途が立たなければ事業部解体になるとのことで呼ばれたが、当然、それまでに大手を含めたコンサルの話はさんざん聞いているであろう。
もっとも、自分のようなどこの馬の骨ともわからない人間に声がかかるくらいなので、それまでの数々の分析や提案では腹落ちしなかったのだろうし、第三者からの紹介ということもあってその人の顔を立てるくらいのノリで場を設けてもらったのかも知れない。
創業家の上級役員や事業担当役員も集まるミーティングで、ホワイトボードにPLを書きながらどんな状況かヒアリング。前年の業績は売上は2億ほどで営業利益率は▲10%。今年も前年と同じようなペースで、残り半年で全く見えない黒字化の目途をつけないといけない状況。普通だったら、現場も口には出さないが諦めに入っているパターン。
が、業績に前に事業コンセプトが曖昧でいまいち何をしたいのか分からなかった。商品を売りたいのは売りたいのだろうけど。普段、何を軸に業務をこなしているのか疑問だったので、現場のリーダー社員に今一番何が困っているか聞いてみた。
すると、「いつも営業本部からあれも売って、これも売ってと直接電話がかかってくるんです。そういう商品はだいたい本部でも苦戦している商品。それは新規事業部メンバーにも不得意な分野の商品だから、本部の意向を汲んだ販促企画を作るのに時間と手間がものすごくかかってます。」とこぼした。上場会社の新規事業部の売上なんて全体からすると微々たるものだし、立場の弱い新規事業部でこのようなことが起こるのは容易に想像できる。
ここで役員たちの表情が曇る。事業部を越えて直接現場にそんな指示が出ていたのか、というところだろう。
得意・不得意の商品の利益率とかける時間の割合について聞くと、「不得意分野は利益率が4割くらい、かける時間は7割ほど。得意分野は利益率が6割を超えてて、かける時間は3割ほど。」という答えが返ってきた。
単純にかける時間を得意不得意で逆転させると、
(4×7)+(6×3) : (4×3)+(6×7) = 46 : 54 = 100 : 117
こんな計算が成立するのか不明だったが、総粗利益額が17%ほど伸びそうな感じで営業利益▲10%くらいは解消できそうな気もするし、全体の売上も伸びるかも知れない。
「他の事業部から影響を受けないようにして、かける時間を逆転させてコンセプトも明確にできれば、それだけで利益率と総粗利益額はあがりそうですね。ちなみに売上もあがったりしますか?」という問いに、それまで暗い表情をしていた現場リーダー社員の目が変わり、自信を持った表情で「不得意商品は企画を毎回考えださないといけないですが、得意商品の販促アイデアはまだまだたくさんあるので、売上はもっと伸ばせます!」と。
それまで相当なストレスを抱えていたのだろう。上場会社で新規事業を任されているような優秀でないはずがない現場リーダー社員が、言わされた感ではなく、希望と自信を持ってそう言っている。決算まで残り半年、事業存続可能な利益目標まで程遠い状態だったが、この目を見ていれば何とかしてくれるだろうし、万が一、残り半年で目標到達しなかったとしてもリーダー社員の話を聞けば本社も納得はしてくれるだろう。
今までマーケティングや数値分析といったコンサルの話は山ほど聞いてきたであろうが、なんのことはない、ただの社内統制の問題であった。
この会社に来る前に、とりあえず事業部のPLだけ用意しておいてくださいと依頼し、そもそも何の新規事業部かさえ知らずにやってきて、情報ゼロからこの結論に至るまで2時間足らず。
「今までいくら考えてもわからなかった業績不振の真因がこんな短い時間で...」と、一流大学出身であろうの役員に与える衝撃は大きかった。こんな単純な現場の声にさえ耳を傾けられていなかった事実も、それに拍車をかけただろう。
事業の見直しに大事なのは、現場に希望を与えることに加え、いかに短い時間でシンプルに真因にアプローチできるかどうか。これをもし何日も何週間も何ヶ月もダラダラとやっていたら、ここまで大きな衝撃を与えることはなく、問題に対しての向き合い方やスピードも変わっていただろう。
それこそ、残り半年しかないのに無駄に時間をかけていたら、本当に事業部解体になっていたかも知れない。