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コンフォートゾーンを抜けろ

時間は20:30。晩ご飯もまだで、何か食べて帰りたい。
今日は仕事を頑張ったし、どうしても美味しいものが食べたい。
そして、21時までに食事は終わらせたい。

ずっと気になっていたのに入れなかったお店を覗いてみると、金曜の夜なのにお客さんはゼロ。このカウンタースタイルのイタリアン・バルは入るのに敷居が高い雰囲気だ。

一度通りすぎる。入りづらい。
ああ、今日も入れなかった。立ち食い蕎麦か、安くなったスーパーのお惣菜弁当かな…と侘しい気持ちになる。

そんな時に頭をよぎる「コンフォートゾーン(安全地帯)を抜けろ」のフレーズ。いつも理由をつけて、安全な選択しかしてないじゃないか。
安全地帯を抜け出せよ…。

思い直し、通り過ぎたお店に足どりを戻す。

勇気を出して、扉を開ける。
自分は受け入れてもらえるのだろうか。
赤い内装が印象的な、50代くらいの女性が1人で営むお店。
「お一人ですか?奥へどうぞ!」と元気に案内してもらえた。


昨日の記事で、漫画「バーテンダー」について書いたが、BARはわざと入りづらい外観にしている。しかし、一度入れば、そこは安全な秘密基地のような場所になるのだと。このお店はBARというわけではないが、構造は同じなのではないか。

本来ワインや前菜を楽しむお店だけど、ジンジャーエールと日替わりのスパゲッティを頼んだ。「パスタ」という表記じゃないところが、なんかよい。
鶏肉とオリーブとにんにくを炒める音と香り。パスタを茹でる音。

2人とも無言である。小さくBGMが流れている。緊張感が漂う。

ここは話をしないお店なのか? はたまた、自分がしゃべらないからお店の人もしゃべらない…? お互い距離をはかってるような時間?
とりあえず、黙っておこうと思った。

おや、鮮やかな花が飾ってある。
ということは、お客さんを受け入れているのだ、と信じてみる。

数分後、スパゲッティが完成し、目の前に置かれる。
一口食べると、チェーン店で食べるようなパスタとはまるで違う風味と美味しさが口に広がった。パスタの程よい硬さ。めちゃくちゃ美味い。

そう思っていると
「よく外食はされるんですか?」と声をかけられた。

そこから、たくさんしゃべりながら、笑いながら、美味しいごはんを食べた。すごく気さくな方だった。23年、お店を営んでいるそうだ。

あの緊張はなんだったのだろう、というくらい打ち解けた。

帰り道は、心が軽くなっていた。話しているうちに、元気が出た。
あのお店は、数年入るタイミングを伺っていたから、それがついに達成されたのだ。
職場と家の間にある、第3の場所になるかもしれない。
カウンター越しに話ながら食べる食事は、心に効くなあと痛感した。


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