🔲 大輔の命婦について 「末摘花の巻」1
夕顔の死後、性懲りもなく、夕顔のような女を求めていた源氏に「色好み」と評判の大輔の命婦が、故常陸の宮様の姫君を紹介することから「末摘花の巻」の物語が始まります。「末摘花の巻」の物語の展開に重要な働きをする大輔の命婦とは、どのような人物だったのでしょうか。
源氏にとって、惟光の母大弐の乳母の次に大切な乳母であった左衛門の乳母の娘が大輔の命婦という事なんです。「大輔」というのは、父が皇族の血統で兵部の大輔だったからなんですね。彼女は、内裏に勤務する「命婦」です。ですから、内裏では源氏の世話をしたり、話をするという仲だったんです。
「いといたう色好める若人」と描かれていますから、半端ない色好みだったんでしょう。色好みというと、現在の好色人を想像するかもしれませんが、当時は、風流人ぐらいの使い方だったんです。ですから、流行には敏感で、飛び切りのファッションセンスを持ち、男女交際が得意で、歌もうまいし、琴や琵琶の演奏もかなりの名手だったかもしれません。
彼女の母は、兵部の大輔と別れて、現在、筑前の守の妻となって、筑前の国にいるんです。彼女は、父のもとにいて内裏へ勤めていたんです。しかし、寂しかったのでしょうか、隣のお屋敷の故常陸宮様の姫君と仲良しになり、お部屋までいただいて、そこに住み着いていました。
源氏が、召し使う大輔の命婦ですから、すぐに私的な話になります。「どこかにいい女はいないかね」ということのなったのでしょう。大輔の命婦は、世話になっていることもあり、即座に返答。「故常陸宮様の姫君がいますわ。今は、落ちぶれていますが、血筋は申し分ありません。控え目で琴がお上手のようです。」仲人口なんですね。「いといたう色好み」ですから、こういう話は得意なんです。
そして、彼女は、源氏の手引きをして、姫君との出会いの場をセッティングすることになったのです。まずは、姫君に琴を弾かせて源氏に聞かせますが、こういうことに慣れている大輔の命婦は、ワンフレーズ演奏しただけで止めさせるんです。源氏は、もう少し聞きたいとじれったい気持ちになります。これが、色好み大輔の命婦の真骨頂。源氏の興味が大きくなったところで次回へと続けるんですね。こんなことされたら男の気持ちはどんどん募ってゆきますよね。でも、とんでもないどんでん返しがありますが、それは、次回となります。
ところで、「大輔の命婦」のような女房は紫式部の周りにはたくさんいたようですね。家柄がよくって、キャリアウーマンのように仕事もできて、セレブな女房たちです。こういうセンスの良い、男女交際得意な女性なんです。こういう女房達こそ、「源氏物語」の読者だったんですね。紫式部は、そういった女房達を登場人物にしながら「源氏物語」への支持を強めていったのではないでしょうか。実名に近い登場人物がたくさん出てくる理由が見えてきます。
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