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音楽に詳しくなくても楽しめる!坂本龍一展で“音を視る”を体験してきた&【35歳からの教養としての坂本龍一】

東京都現代美術館で2025年3月30日(日)まで開催している坂本龍一 | 音を視る 時を聴くに行ってきました。

ボクが行ったのは2025年1月11日の土曜日。
会場は大盛況で、当日券の購入だけでも30~40分待ち。
そこから入場までさらに30~40分、合計1時間以上も並ぶ盛況ぶりでした。

「混んでるかもやけど、まあ大丈夫やろう…」という予想をはるかに超える込み具合だったので、驚きました。

実際に展示を見てみると……

まぁ、すべてかっこよかったですねw

今回の企画展は、理論的な話や文脈抜きに、直感的に楽しめるものです。

でも、やっぱり
「これってどんなジャンル?」
「どういう意図で作られたの?」

と気になってくるもの。

そこで今回は、

「普段あまり音楽を聞かないけれど、企画展を楽しむために坂本龍一を知りたい」

という皆さんに向けて、ざっくりと坂本龍一さんのキャリアと、その音楽に通じる“現代音楽”の考え方をお話しします。

ちなみにボク自身は、坂本龍一さんの音楽を聴き始めたのは2000年代以降。

長年のファンではありませんが、学生時代に現代アートや音楽を専攻した事もあり、少しだけ語れる部分があります。ただ現在は純粋に音楽を楽しむ一人のリスナーとして坂本さんの作品に触れています。

※これから話す事は長年のファンの方からすると、まったく異なる箇所や舌足らずな部分も多いかと思います。その場合は不十分で申し訳ございません。先にお詫びしておきます。


坂本龍一の3つの時代について

多くの方が「坂本龍一」と聞くと、映画『戦場のメリークリスマス』を思い浮かべるのではないでしょうか。

この名曲は、ボクも大好きな作品のひとつ。

ちなみに「戦メリ」の頃は、坂本龍一さんのキャリアを3つの時代に分けたうちの「第2期」にあたります。

まず、坂本さんのキャリアは、大きく以下の3つの時代に分けられます。

  • YMO時代:テクノ音楽を広め、シンセサイザーを使った斬新なサウンドで世界的評価を得た時代

  • 映画音楽・ソロ活動時代:『戦場のメリークリスマス』や『ラストエンペラー』などで世界的評価を得た時代

  • 新しい音楽表現の時代:環境問題への取り組みや自由な音楽制作を追求した時代

まずは、これらのキャリアについて詳しくお伝えしていきます。

第1期:YMO時代(1970年代後半~1980年代前半)


「YMO、1980年のワールドツアーの映像を放送決定!東京&米ロサンゼルス公演を一挙にOA」https://clubberia.com/ja/news/11620-ymo-1980/ より引用

細野晴臣、高橋幸宏と結成した「YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)」でテクノ音楽を世界に発信。

いわゆる“ポップス”や“ロック”とは違う「電子音楽」の可能性を切り開き、日本はもちろん、海外の音楽シーンに革命を起こした時代です。

もともとロックなんてほとんど知らなかった坂本さん。

最初は「バイト気分」で参加した活動だったようですが、様々な仲間たちと音楽的に切磋琢磨しあったり、ワールドツアーを行う中で、価値観は大きく変化したと言います。

第2期:映画音楽・ソロ活動時代(1980年代中盤~1990年代)


YMOの活動休止後、徐々に拠点をニューヨークに移し、映画音楽やソロアルバムの制作に注力します。

「『坂本龍一コンサート リマスター版』放送決定、1987年&88年にNHKホールで演奏した2公演」
https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/135654/2  より引用

特に映画『戦場のメリークリスマス』『ラストエンペラー』などで世界的評価を獲得(※『戦メリ』は、ちょうどYMOが休止に向かう頃)

クラシック、民族音楽、ポップスなど多彩なジャンルを取り入れつつ、『ラストエンペラー』ではアカデミー賞を受賞。

坂本龍一=世界的アーティストというイメージが定着した時期です。

第3期:環境活動・新しい表現への挑戦時代(2000年代以降)


2001年の同時多発テロをきっかけに、音楽性がさらに変化。

90年代から取り組んでいた社会問題や環境問題への取組に拍車がかかり、コンサートやイベントを通じて自然保護や平和に対するメッセージ発信が顕著になりました。

「時と人をつなぐ音 坂本龍一と東北ユースオーケストラ」  https://www.tjapan.jp/entertainment/17363557 より引用

音楽的にはエレクトロニカ※やアンビエント※、ピアノ作品など、より静かで深みのある音楽スタイルへとシフトし、「音そのもの」「響き」を探求する姿勢が強まりました。

余談:90年代のプロデューサー活動と「GEISHA GIRLS」


ちょっとマニアックな話になりますが……特に35歳以上の方の中には、ダウンタウンをプロデュースした「GEISHA GIRLS」(94年)を覚えている方もいるのではないでしょうか?

90年代は坂本龍一さんは、自身の作品を発表するかたわら、他アーティストのプロデューサーとしての活動も目立ちました。

その代表例のひとつが、ダウンタウンを起用した「GEISHA GIRLS」。

当時「GEISHA GIRLS」打ち込みやサンプリングを使った異色プロジェクトが話題になりました。

ただ本プロジェクトは、その後に出てきた“小室哲哉×浜田雅功”の組み合わせほどの大成功には至らなかったのも事実。

90年代、J-POPシーンで起こった小室哲哉vs坂本龍一の対比は覚えておきたいエピソードです。

個人的には、ヒップホップ全盛の今の耳で聞くと「GEISHA GIRLS」はかなり先進的だと思いますね。むしろZ世代の音楽好きとっては、平成レトロな雰囲気が斬新に聞こえるんじゃないかなぁ…

ちなみに、GEISHA GIRLSプロジェクトの当時の放送がYOUTUBEにあがっているのでぜひ(ニューヨークの録音スタジオに今井美樹が遊びに来るシーンなどがあり、当時の活気ある音楽業界の雰囲気がよく表れているなぁ……と)


「現代音楽」への回帰


同時多発テロが坂本さんに大きな衝撃を与え、これまで培ってきたメロディックな曲作りから、より“音そのもの”に迫る方向へとシフトしたのが2000年代以降です。

この流れは、東日本大地震を経て更に加速します。

こうした回帰の背景には、坂本さんが大学時代に深く触れた「現代音楽」の存在があります。

いわゆる「現代音楽」とは、19世紀後半から20世紀にかけて西洋音楽が形作ってきた“メロディ・リズム・ハーモニー”を打ち壊そうとする動きの総称。

  • 十二音技法(12の音を平等に扱うため、メロディの起承転結が分かりづらくなる)

  • 無調音楽(ハ長調とかがない)

  • 偶然性の音楽(作曲の過程に偶然性を入れる)

  • 電子音楽(シンセなどの電子楽器を使う)

  • ミニマル・ミュージック(単純な音型やリズムがずっと続く)

など、実験的な表現が数多く生まれました。

十二音技法の祖・シェーンベルク (Wikipediaより)

これら現代音楽が生まれた背景には、現代美術からの流れやテクノロジーの進化、第一次世界大戦などがあります。

幼少期には伝統的なクラシックの英才教育を受けた坂本さん。

一方で大学院を修了する際に『反復と旋』という現代音楽の作品を残すほど、この流れから大きな影響を受けていました。

展示の中心アルバム「async」が伝えること


今回の展示「音を視る 時を聴く」のベースにあるアルバムが坂本さんが2017年に発表した「async」です。

実は生前、坂本さんは「asyncー同期しないこと」というタイトルで、中学校3年生の国語教科書にもエッセイを寄稿(!)しています。

「音楽って、なんだ?」https://www.saibi-heisei.ed.jp/news/?p=12511  より

そのエッセイでは、ボクたちが当たり前だと思っている“同期”の価値観に揺さぶりをかけ、「偶然性」や「多様性」から生まれる音の面白さを平易な文章で訴えています。

そして人間社会においても、一見ノイズだと思われる部分こそが価値であり、そこを排除せずに認め合うことが大事だと説いています。

「音を視る 時を聴く」を楽しむコツ


この展示では、普段わたしたちが「音楽」として認識している枠を超えた、偶然性やノイズ、自然の中で録音した音を聴くことができます。

こうした響きと空間のコラボレーションを、ぜひ五感で直に体感してみてください。

そして、坂本龍一さんも影響を受けている“現代音楽”や関連ジャンルを、ちょっとかじってみるのもおすすめです。

以下に代表的なジャンルと、その楽しみ方をボクなりにまとめました。

アンビエント(Ambient)

どんな音楽?

  • 1970年代、ブライアン・イーノが「音楽を部屋のインテリアのように使う」というコンセプトでスタート

  • 空気や風景と一体化するような“静かな音楽”で、部屋のBGMとして溶け込む

↑アンビエントの祖 Ambient 1「Ambient 1: Music For Airports」

『async』でいうと?

  • 『andata』や『ZURE』なんかがカテゴライズされるかな?

楽しみ方

  • 作業や勉強中に流してみる(静かすぎると落ち着かないときにちょうどいい)

  • 眠る前やリラックスしたいときに、音の空間を感じながら聴く

  • 細かく聴くもよし、逆にBGMとして音から意識を離すのもよし

エレクトロニカ(Electronica)

どんな音楽?

  • 1980〜90年代、テクノやハウスなどのクラブ・ミュージックが細分化し、“聴く”電子音楽として発展

  • コンピュータやシンセサイザーを使った実験的なサウンド。独特なビートや不思議なリズムが面白いジャンル

↑エレクトロニカの代表的な曲 Aphex Twin「Flim」

『async』でいうと?

楽しみ方

  • ちょっと未来っぽい音やキラキラしたサウンドを堪能する

  • 「どうやってこの電子音を作っているんだろう?」と想像する

  • ヘッドホンで左右の音の動きやエフェクトのかかり方をじっくり味わう

ミニマル・ミュージック(Minimal Music)

どんな音楽?

  • 1960年代アメリカで生まれた現代音楽の一潮流。ラ・モンテ・ヤング、テリー・ライリー、スティーヴ・ライヒらが代表

  • 同じフレーズが延々と繰り返され、少しずつ変化していくのが特徴。気づいたら全然違う景色に連れていかれるような感覚

↑ミニマム・ミュージックの名曲 Steve Reich「 Music for 18 Musicians」

『async』でいうと?

楽しみ方

  • BGMにして流しておくと、ふとした瞬間にリズムに没頭していたりする

  • 繰り返しの中に“あ、今ちょっと変わった?”という発見があると楽しい

エクスペリメンタル(Experimental/実験音楽)

どんな音楽?

  • 20世紀前半の前衛芸術から発展。ジョン・ケージ、シュトックハウゼンらが音楽の定義そのものを問い直す作品を発表

  • 既存の“音楽”という枠を壊し、新しい表現を探すジャンル。ときには「これって本当に音楽?」とびっくりするような音やパフォーマンスも

↑ カールハインツ・シュトックハウゼン Karlheinz Stockhausen「Telemusik」

『async』でいうと?

楽しみ方

  • 常識にとらわれず、「なんじゃこれ!?」と驚きを楽しむ

  • 完璧に理解しようとしなくてもOK。「いろんな表現があるんだな」と受け止めるだけで十分おもしろい

まとめ

企画展で特にボクがいいなと思ったのは、この《async–immersion 2023》

特に、"ZURE"の『ドゥーン』という重厚な電子音に合わせて、光の柱が左右に走るインスタレーションがあるのですが、これは圧巻でした。

超ワイドな画面と、音響のおかげもあり、まさに坂本龍一の世界観を五感で体感できる空間でしたね。

展示は2025年3月30日(日)まで。ぜひ一度、足を運んでみてください!

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