マーケティング戦略のかなり最低限な作り方入門
今回はマーケティング戦略の作り方についてです。
「最低限」とか言っていますが、かなり長いです。
さて、マーケティング戦略の作り方については、数多くの良書が出ており、改めてここに書く必要があるのかという疑問があります。
ただ、最近マーケティング戦略の策定を数多く実践するにあたって、多くの良書に書かれているフレームワークを理解しているつもりでも、いざ適用してみると何とも上手くいかない…というパターンに遭遇しています。
これは、フレームワークの中身を埋めるための別のフレームワークやセオリーが存在し、一つのフレームワークを埋めるためにも複数のフレームワーク理解が必要になるためです。
要するに、いくらフレームワークを覚え、理解したところで、
それを使いこなすためには実践による知識や経験が必要ということです。
そのため、今回のnoteではより具体的なイメージをつけやすい入門編として、マーケティング戦略を作るためのかなり簡略化したフレームワークの紹介と、それを実践するためのポイントを紹介したいと思います。
専門的なマーケティング用語の使用も最小限にとどめ、可能な限りわかりやすい内容を心がけています。
ただ、このnoteを読んだらマーケティング戦略を作れるようになるかというと、そんなに甘くありません。
フランス料理のレシピを知ったらフランス料理のシェフになれるわけではないのと同様、
マーケティングの話をいくら読んでも、実践しなければ成長しません。
しかし、レシピを知ってからチャレンジするほうが圧倒的に効率が良いため、そのレシピを紹介しようという話です。
よって、このnoteを読んだら、まずはとにかく実践してみることをおすすめします。
なお、文中にてマーケティング関連の書籍をいくつか紹介しています。
今回の内容を書くにあたっての底本ともいえる本なので、このnoteでマーケティング戦略について少しでも興味を持ったのであれば参考書籍を読んでみることをおすすめします。
【良いマーケティング戦略とは何か】
さて、マーケティング戦略について書く前に、そもそもここでいう「戦略」とは何なのかを定義する必要があります。
ここでは、戦略=「目的達成のための方針」と定義します。
つまり、戦略とは目的を達成するための手段であり、目的のために戦略があるということです。戦略のために目的があるのではありません。
よく「手段が目的化する」という本末転倒な話がありますが、戦略を至上のものと勘違いしていると、こういう事態に陥りがちです。
では「マーケティング戦略」とはなんでしょうか。
「マーケティング」の定義にも色々とありますが、私はマーケティングの定義を以下のように定義しています。
USJ再建で有名な森岡さんの本には「経営資源を顧客のプレファレンスに集中するその能力…」といった書き方がされていたりしますが、
私の周りの人間にいろいろと話している感じだと、上記の言い方がシンプルで理解されやすいようです。
そうすると、「マーケティング戦略」とは何か。
こう定義できると思います。
使い古された言葉ではありますが、「戦略」の根本とは”選択と集中”であり、やらないことを決めることです。
よって、「良いマーケティング戦略」とは「事業目的の達成のため、顧客への価値創造のためにやるべきことと、やらないことが明確になっているもの」と言うことができると思います。
ここからは、その「やるべきこと、やらないこと」を明確にしたマーケティング戦略を作るための方法論について書いていきます。
【戦略を構成する要素とは】
さて、戦略の定義はできたものの、どうすれば実行できる戦略になるのかということです。
例えば以前に流行した「ブルーオーシャン戦略」という言葉を聞いて、意味を知っていればなんとなくの方向性はわかるものの、
実際に何をするのかがわからなければ、組織は動けません。
戦略が組織によって実行されていく以上、戦略を聞いたときに会社・組織のメンバー誰もが「これをやるべきで、これはやらないんだな」と明確に理解できるように言語化されていることが必要です。
メンバーの1人1人が、組織の戦略を聞いたときに、誤解なく戦略に沿ってアクションできるということがいかに強力な強みになるか。
事業をやっている人であれば非常に強く実感できることだと思います。
逆に、「お客様第一主義の徹底!」といった、一見なにも間違っていない標語を戦略として浸透し、
結局のところ何をすればいいのかメンバーの誰もが理解していない・・・というケースは山のように見られます。
では、誰もが明確に理解できる戦略は、どうやってできるのか。
私は以下のように定義しています。
ちなみに以下の本では「目的と戦略」「取り巻く環境の分析」「WHO」「WHAT」「HOW」としてP&Gの成果を出す5ステップとして紹介されています。
全世界のP&Gで浸透されている考え方とのことで、それをそのままコピーするのでも良いかと思いましたが、
・経験が浅いと、目的と戦略の関係性が理解しづらい
・同じく、環境分析という”手法”が先にきているため、慣れていないと仮説を出せない
という課題を感じたため、よりマーケティング初心者むけに上記のように言葉を変えています。
(とはいえ上記の本は非常に簡潔で読みやすく、マーケティング初心者にもおすすめです)
特に後者については、『イシューからはじめよ』の紹介でも書いたとおり、「無理やりにでもスタンスをとる(仮説を出す)」という考え方とはやや矛盾して「先に分析しよう」というようにも見えてしまうため、
仮説を出すというアクションを優先的に意識したほうが、一貫性をもった理解がしやすいと思った次第です。
※実際には環境分析から仮説を出すので矛盾していないんですが
ではなぜこの6つを作ることで戦略になるのでしょうか。
これから見ていきます。
【①戦略は”目的の見直し”から始まる】
前段でも書きましたが、戦略とは「目的達成のための方針」です。
戦略を作るにあたって最も重要なのは「目的の定義」になります。
この「目的」の定義そのものが、事業成果を左右するといっても過言ではありません。
目的に向かってリソースを集中するため、目的の精度が高いほどリソース集中の精度が高まるためです。
では、「良い目的」とはなんでしょうか?
それを確認するためには、よくある「イマイチな目的設定」を見てみると理解しやすくなります。
これがなぜイマイチと言えるかということです。
一言でいえば、「目的(定性)」と「目標(定量)」を混同してしまっているためです。
これが十分に魅力的かつチャレンジングで、メンバーの士気も存分に高まる目標だとします。
しかしながら、「目標を達成したらどうなるのか」がわかりません。
また、目標達成のために何をするのかもわからないため、メンバー個々人がアクションするときに、認識の齟齬が生まれます。
例えば営業部門だけで見ても、ある人は「目標達成のために営業件数をひたすら増やそう!」とするかもしれませんし、ある人は「目標がここまで高いと、いったん達成プランを作るところに集中しよう!とにかく分析だ!」となるかもしれません。
この時点で、貴重なリソースが「営業の活動量」と「分析」という2つに分散してしまっています。
”選択と集中”という鉄則から、いきなり逸脱してしまっています。
さらにいえば、あまりに高い目標の達成のため、営業の現場では過度の値引き受注が発生するといったケースも考えられます。
そうなると「売上は5倍になったけど、赤字は2倍になりました!」といった本末転倒なストーリーもありえます。
目的を定量のみで定義するのは非常に危険なのです。
ここまで読んで、「みんな理性的なのだから、そんな馬鹿なストーリーはありえない」と思う人もいるかもしれません。
それもありえます。赤字を拡大させてまで売上を伸ばそうとしないかもしれません。
しかし、そうすると今度は、誰も目的を信じないという状況が生まれます。
「このままだと売上が伸びても赤字になるから、僕は売上にコミットするのはやめよう」などと個々人が勝手に目的を変えてしまう状況になり、
こういった状況では”選択と集中”などできるわけもありません。
このように、目的の設定がイマイチだと、誰も信じない目的になり、戦略の実行そのものが破綻するのです。
では、「良い目的」とはなんでしょうか?いろんな定義が可能ですが、例えば以下のような目的設定はどうでしょうか。
どうでしょう?メンバーが何をすべきかが、かなり明確になったのではないでしょうか。
ポイントは
・誰に、何をして、何を実現するかの明確な言語化
・簡潔であること
の二点です。
アクションにつながる重要な部分が言語化されていることで、メンバーは迷うことなく「自分が何をすべきか」を判断できるようになります。
例えば上記の目的設定であれば、前述したような「勝手な値引き」などは発生しにくくなります。
また、メンバーが覚えやすく組織に浸透しやすいことが重要であるため、
フレームワーク的な網羅性よりも簡潔さを優先したほうが良いと思います。
例えば目的が
と書かれていたらいかがでしょう?
自分がこの組織のメンバーだったら、翌日には忘れています。
目的設定は組織を動かすものなので、組織に浸透しない目的を設定しても意味がないのです。
さて、ここで疑問が浮かびます。
どうすればそんな「良い目的」が設定できるのでしょうか。
実は、戦略策定の本質は「目的の見直し」にあります。
ここから先に書いていくようなアクションをもとに、「目的」そのものをブラッシュアップしていくのです。
なので、最初は「とにかく1年で飛躍的に成長する」といったおおまかな目的設定から始まっても構いません。
その目的を仮説として、このあとのフレームワークに沿って、「良い目的」に向かってブラッシュアップしていくのです。
まずは無理やりにでも「目的」の仮説を決めた後に、次の②以降に進んでいきましょう。
【②課題仮説とベンチマーク分析】
さて、仮に小売SaaS系企業の戦略策定をするとして、「1年で飛躍的に成長する」を目的として設定したとします。
すると、目的達成のための課題の仮説を出せるようになります。
”営業の人数が全然足りない””成約率がまだまだ低い””市場のニーズが潜在的で商談リードをとりづらい”などです。
この段階ではあまり精度の高い仮説が出せないかもしれませんが、無理やりにでも仮説を決めて前進することが重要です。
ここで意識したいのは、「課題とは理想状態との乖離のことである」ということです。
上記の例でいうと、目的達成のための理想としてははもっと営業が多く、成約率が高く、リードをとりたいけど、それができていないから課題ということです。
実は、課題を裏返すとそのまま戦略になります。
今回のケースでは、営業を増やす・成約率を高める・リードをとるということがそのまま戦略の中身になる(=他のことはやらずにこれらにリソース集中する)ということです。
ただ、ここでいきなり戦略を決めるのは時期尚早です。
前述したとおり、課題自体がまだ仮説なので、戦略もまだ仮説です。
そのため、本当に課題設定が正しいかどうかを確認する必要があります。
ここでパワフルな価値を持つのが「ベンチマーク分析」です。
参考にできる他社事例を分析することで、課題仮説を検証できます。
例えば「不動産SaaSのA社は営業が少ないけど事業がとても伸びている」という事例があったとします。
すると、”営業が足りない”という課題は仮説として本当に正しいのかという視点に気づきます。
そして、営業が少なくても事業が伸びているのはなぜかということで、別の仮説(例:オウンドメディア集客が強い)に気づけます。
ベンチマーク分析をするさいのコツを以下にまとめます。
まず、分析の前に仮説を持っていないと、何を調べていいのかわからず迷子になります。
「あの企業も営業をたくさんそろえてるに違いない」などの仮説をもっておけば、営業の人数を調べればよいとわかります。
そのさい、同一カテゴリの企業の分析に固執すると、分析対象を見つけることができずに失敗したりします。
例えば今回のケースでは、小売系SaaSといってもそんなに参考にできる企業が見つからないかもしれません。
そういうときは「BtoB系SaaS」と、カテゴリを広げて調べてもいいし、もっと広く「一気に拡大したSaaS系企業」を調べても良いです。
ここは抽象化思考力が試される部分ですが、調べる企業のカテゴリは柔軟に伸び縮みさせましょう。
最後は「良い部分」「悪い部分」を探すということですが、基本的には良い部分を重点的に調べたほうが良いです。
上手くいっていないところを調べると、「あの競合はここができていないから差別化ポイントになりそうだ!」と思ったりしがちですが、
競合がやっていないからといって、顧客にとって価値があることかどうかは別問題です。
あくまで、対顧客の価値を生み出せることをやっているかどうか、で分析します。
こうしてベンチマーク分析をすると、課題の精度が高まります。
「営業をそこまで増やさなくても事業は伸ばせそうだ」「解約率のほうがむしろ改善できそうだ」「オウンドメディアでもっとプロダクト理解を深めたほうがいいのでは」といったように、より確信をもった仮説になっていきます。
ここまできたら、より具体的な戦略の仮説を作っていけるようになります。
【③定量センターピン(KSF)を決める】
ここまできたら、課題にもとづいて「センターピン」を決めます。
※どうも界隈のスラングのようなので、一般的な”KSF”とほぼ同義と思ってもらって構いません
センターピンとは、「それを実現することで目的が達成できる事象」のことです。
例えば「解約率を半年で10%以下にする」「オウンドメディア経由のリードを5倍に増やす」などです。
このセンターピンは、定量的であることが望ましいですが、少なくとも達成したかどうかを測る明確な基準が必要です。
例えば「PRで認知度を格段に高める」という設定だと、どこまでいけば達成したかがわかりません。
「PRで業界の主要メディアに最低3回の記事掲載をとる」であれば明確ですし、アクションにも落とせます。
ここでも大事なのは、「無理やりにでもセンターピンを決めてみる」ことです。
実際には事業としてあまり重要でないものをセンターピンとして設定してしまうかもしれませんが、あとで修正すればよいのです。
例えば「解約率を半年で10%以下にする」という設定をしたら、実際の事業計画に落としてチェックしてみます。
すると、「目標が高すぎて現実的ではない」「これを達成できたら事業は5倍どころか10倍になるじゃん」といったことがわかるかもしれません。
そうしてセンターピンの精度を確認するために重要なのが、いわゆる”3C”分析です。
上記の例でいうと「本当に顧客はそんなに解約しないでいてくれるのか」「競合がもっと良いプロダクトに仕上げてこないか」「うちのプロダクトはちゃんと良いものを開発できるのか」といったことを分析し、センターピンの現実性を確認していきます。
このあたりの分析のうまさで大きな差がつくのですが、今回の主旨からは外れるので省略します。
このようにして検証を通じて、明確なセンターピンを作ること自体が戦略の骨子になるわけです。
あとは、そのセンターピンをいかにして実現するかといった話になります。
今回のケースでは仮にセンターピンを
1.解約率を契約から半年以内で10%以下にする
2.オウンドメディア経由の商談リードを半年以内に5倍にする
3.業界主要メディア2つに、半年間で3回以上掲載される
と設定したとして、次に進みたいと思います。
【④WHO:意味のあるターゲットを定義する】
やっとセンターピンの定義まできました。
ここからは具体的な施策方針である「誰に・何を・どうやって伝えるか」の話に入っていきます。
まずは「誰に(WHO)」です。ターゲットをちゃんと分類して定義することで、ターゲットごとの「やるべきこと・やらないこと」を明確にしていきます。
ここで重要なのは、ターゲットの決め方です。
よくある”最悪”な手法は、ペルソナ分析です。
「XXしているXXな人」のような形で、実際には存在しない人格を作って議論するパターンです。
ペルソナ分析には
・仮説を決めてかかってしまうため、現状を打破する施策につながらない
・施策をやっても、検証のしようがなく仮説が進化しない
・そもそも存在しない人格のため、信じきれない
といった”悪”があります。
山で遭難したときは、むやみに動き回るよりもその場に留まったほうがマシという話がありますが、
ペルソナに基づいて間違った意思決定を重ねるくらいなら、なんの施策もやらずにターゲット分析を繰り返したほうが遥かにマシです。
どうもこの話は理解されにくいようで、いまだにペルソナに基づく”誤った”マーケティングにあふれています。
クリエイティブ制作におけるインサイト抽出であればまだしも、事業全体のターゲティングには全く役立つことはありません。もし今どきペルソナによる事業の成功事例があれば、ぜひ知りたいです。
では、良いターゲットの決め方とはどのようなものでしょうか?
大きくわけて、以下の3パターンがあります。
どの切り口による定義が適切なのかは、ケースバイケースです。
「経済」による定義はターゲットごとの可処分金額がわかりやすく、よく使われるのですが、
半面、インサイトが見えにくくありきたりな仮説になりがちです。
例えばToCのサービスで「100万円以上使っている人」を最重要ターゲットと定義したとしても、
プロダクトへのロイヤルティの高さだけではなく、可処分所得がそもそも多かったり、店舗との距離が近いから等々の複合的なインサイトが存在し、
それほどまでに自社サービスを使ってくれる理由がなぜなのか、、、確たる仮説を出しにくく現状打破につながりにくいです。
一方「心理」によるターゲティングは非常にパワフルな仮説を生み出しやすくなります。
例えば「ぜひサービスを使いたい」と思っている人が明確にターゲティングできるのであれば、非常に効率的にマーケティングできるでしょう。
その反面、心理というのはデータに基づいた明確なターゲット定義をするのが大変です。
そもそも正確に心理を把握することが難しく、それを定量的にデータ化するにはデータインフラの整備も含めて色々な苦労があります。
ここについては以下の本が参考になるかと思います。
このあたりは戦略の根幹になる部分であり、非常にハイレベルな経験や思考力を求められます。
ひとまず今回はセンターピンが「解約率を10%まで改善する」とあるので、
まずはクライアントの解約率を基準にしてターゲットを分類してみてもよさそうです。
仮にターゲットを”解約率”で分類したのが以下の表です。
ターゲットを分類する際には、「インサイト」「ドライバー(利用促進する要素)」「バリア(利用を阻害する要素)」をセットで洗い出すことで次の「何を(WHAT)」の部分につながります。
裏を返すと、この部分の仮説が出てこないターゲット設定はアクションにつながらず意味がないということです。
また、「ターゲットのボリューム想定」も非常に重要な要素です。
上記の表でいうと、もっとも有望な”TargetA”が、実はすでに800社リーチ済みだったりすると、もう市場にターゲットがほとんど残っていないということになり、
このターゲットに対するアプローチはほとんどムダになります。
今回はそういったこともなく、「TargetA,Bを集中的に伸ばせれば目的は達成できそうだ!」という話になったとして、先に進みたいと思います。
なおターゲットを考えるさいに、知りうる限りもっとも良書と思っているのが以下の本です。
顧客の理解はそれ自体が事業そのものだと言ってよいくらいの重要なものなのですが、
『顧客起点マーケティング』は、それを理解できる最先端のノウハウが詰まっている本ではないかと思います。
【⑤WHAT:伝えるべきコンセプトとRTB】
さて、上記のようにターゲットが明確になっていれば、「何を(WHAT)」伝えるべきかは簡単です。
例えばTargetAであれば、「労働時間短縮というファクト」が重要なので、営業用の資料やWEBサイト、PR露出などで必ずそこをコンセプトとして推すようにします。
TagetB向けには労働時間の短縮を可視化し、社長など上司に報告しやすい機能があること自体が導入の意思決定になるので、そこを伝えます。
ここで重要なのは、「信じる理由(Reason to Believe)」すなわちRTBがあるかどうかです。
例えば、労働時間が実際に短縮できているということが、第三者機関による調査で立証されていれば強烈なRTBになります。
そうでなくとも、導入企業に対する実際の調査で定量的なファクトを見せられるのであればRTBになります。
逆に、「この会社では~」という1社だけのファクトを見せるだけだと、RTBは弱いです。
それがターゲットにとって非常に類似したカテゴリや競合の事例であればRTBとして意味を持ちますが、
関係ない会社の事例だとRTBとはなりえません。
勘の良い方は気付いたと思いますが、
ここでRTBを確立することもマーケティングにおける重要な活動になります。
例えばTargetBにおける「導入による効果の可視化=社長への説明機能」というドライバーに対するRTBとしては、
実際にその機能を開発しておく必要があります。
また、そういった機能は社内報告用の機能であるため、決裁者にとって見やすくわかりやすい内容になっている必要があります。
そういった機能にわかりにくい専門用語を入れるなどは決してやってはいけないということがわかります。
ここが組織全体で認識共有できていないと、機能開発においても目線があわず、「はい、できました」といって上記のようなわかりにくい機能が開発されてしまったりします。
ここまでくると、冒頭で定義したように、「マーケティング」が「組織のリソース投下の方針」であるということの意味が、より鮮明になるのではないでしょうか。
つまるところ、営業や企画と開発などの組織が分断されていたら、顧客に対する価値創造のために集中することができない、ということです。
そのためにも、ここまで長々と書いてきたような言語化をもって、組織の目線を合わせることがかくも重要であるということです。
【⑥HOW:タッチポイントを死守する】
最後に「タッチポイント」です。
いくら優れたコンセプトを作っても、タッチポイントすなわち「コンセプトを理解してもらう接点」がなければ伝えようがありません。
タッチポイントはターゲットごとに異なることが多いので、調査やヒアリングで明らかにしたいところです。
例えばTagetAであれば「忙しくて(社長の)商談時間がとれない」というバリアが想定されているため、商談でコンセプトを伝えることが困難です。
そういうとき、ターゲットのタッチポイントを広げて考えることが大事です。
例えば中小企業の社長であれば、地元の商工会議所の定例会などに顔を出していることも多いです。
ということは、その定例会に出席させてもらいプレゼンすることができたら、非常に強いタッチポイントになりえます。
タッチポイントというのは何も、TVなどのメディアだけではないのです。
逆に、タッチポイントを意識せずにコンセプトだけ伝えようとすると大事故になります。
例えば、商品の中身を伝える動画を作ってTVCMを放映したものの、ターゲットがほとんど見ていなかったり、自分ごと化してもらえず意味を理解してもらえなかったりして、まったく商談につながらないといったケースです。
TVCMはしょせん15秒などの短時間なので、複雑な商材を理解してもらうには向かないのです。タッチポイントの特性を理解することが肝要です。
このように、タッチポイントと一口にいっても、思ったよりも複雑なものが存在していることも多いため、タッチポイントの深堀りをすることで競合に差をつける施策が発見できることがあります。
例えばモバイルゲームなどToCサービスであれば、口コミ経由のユーザー獲得が非常に多いとわかったとき、口コミを生むタッチポイントとしてTVCMをあえて利用するといったケースも考えられます。
自社独自のタッチポイントを確立できたとき、極めて大きなマーケティング上の武器になります。
事業の成長で悩んでいるようなときは、一度タッチポイントの深堀りをしてみるのもいいかもしれません。
【ブラッシュアップ:目的と戦略を見直す】
ここまできて「やった!完成!」といきたいところですが、実際にはそうもいきません。
上述したように、目的や課題などはすべて「仮説」として進めてきました。
実務としては、これまで作ってきた内容について調査・分析を通じた検証をします。
例えばターゲットのボリュームは本当に充分に存在するのか、ドライバーは本当に有効なのか、タッチポイント確立は可能なのか・・・等々です。
それらを通じて、初めて「目的」を明確に定義しなおせます。
最初は「飛躍的な成長」とだけ言っていたものが、具体的なWHOやWHATを明らかにした目的として、冒頭のように設定できるわけです。
実際の戦略づくりは、ここまでの①~⑥をひたすら繰り返していく作業になります。
事業のフェーズが変われば戦略も変わりますし、そもそも戦略がうまくいかなければ見直しをする必要があります。
しかし、再三書いてきたように、すべては「仮説」なのです。
仮説をもって進めれば、仮に戦略の実行がうまくいかなかったとしても、「これでは上手くいかないな」ということが発見できます。
そうなったら、新たに仮説を立てて検証していけばよいのです。
つまるところ、優れた戦略とは「つねに仮説検証し前進し続けられる」というものなのです。
聞こえのよいキャッチコピーや流行りのワードに惑わされることなく、ただ愚直に改善を積み重ねること自体が、優れたマーケティング戦略になりうるということです。
【全体のまとめ】
いかがでしょうか。これら①~⑥をつなげることで、「目的達成のための戦略(誰に・何を・どうやって伝えるか)」が明確になったかと思います。
これらの言語化を通じて、やるべきことと、やらないことが見えてくることが伝わったでしょうか。
…気づいたら1万字を超える大作になっていました。
これだけ書いても、かなり端折った「最低限」の話を書いたつもりです。
実際に身に着けるには、もっと深い勉強と実践を繰り返さなければ、なんの役にも立たないかもしれません。
マーケティングというのは非常に専門性の高いスキルであり、一言で言えるようなものではありません。
マーケティングに関するいろいろな本を読んでみても、著者ごと・ケースごとに重要なポイントも異なっています。
このnoteを入門の切り口として、本格的なマーケティングを学ぼうという人が少しでも増えてくれたら、自分の”目的”は達成できたといえます。
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