【経セミ・読者コメント vol.3】 横川侑李さま 2024年4・5月号 特集「経済学で格差を読み解く」
はじめに(編集部より)
経済セミナー編集部です。
『経済セミナー』2024年4・5月号(特集:経済学で格差を読み解く)から読者モニターの皆様からのコメントを本格的にご紹介していきます! いただいたコメントの中から、批判的な考察や具体性のある議論などを含み、他の読者の皆様にとっても有益な内容と思われるものを3~4つほど選定し『経済セミナー』本誌や経セミnoteでご紹介させていただきます。
※頂戴したコメントは本誌やnoteで公開していないものも含めすべて拝見しております。コメントは今後の企画・制作の参考とさせていただいております。
もちろん、ご執筆者のご了解をいただいたうえで、掲載内容をご相談して進めています(記名でも匿名でもOKとさせていただいております)。
今回は横川侑李さま(京都大学経済学部3年)によるコメントをご紹介します!
【以下、コメントです👇】
今回初めて経済セミナーを読ませていただいたのですが、前提知識が必要ないほど丁寧に解説されており、全ての章が非常に読みやすかったです。さらに、幅広い経済学の分野が興味深く書かれていたため、その分野についてもっと詳しく知りたいという気持ちが湧いてきました。その中でも特に、男女間格差について述べさせていただきます。
格差の縮小と日本の経済成長との関係
〇特集:「経済学で格差を読み解く」
日本の文脈に合わせた経済政策が必要
日本では、男女間のスキル利用や雇用形態には依然として格差が存在し、これが経済成長にも悪影響を及ぼしているという問題が特集コンテンツで取り上げられていました。私は、この問題を解決するには、資本投資や社会保障制度の見直しが必要だと考えます。
岸田首相は2022年に「スタートアップ創出元年」を宣言し、スタートアップ企業を経済成長のドライバーだと位置づけました。スタートアップは革新的なアイデアを基に新たな価値を創造し、日本でも短期間でトップ企業に成長した例が数多く存在します。しかし、これらの成功率は高くないため、財政赤字が続く日本政府が全ての企業を支援することは難しいです。そこで、成長が見込めない企業への投資を見直し、さらにIPOよりもM&Aの割合を増やすことが重要です。
京都大の諸富徹教授も、「スタートアップの拡大を抑制し、労働力を既存の成長企業や日本の得意分野に転換させることが日本経済にとって有益だ」と講義での質疑応答の際、個別に教えてくださいました。政府支援の縮小によって生じた男女の失業者に同等のスキルを与えることで、成長企業への採用の際の男女間格差の改善も期待できます。また、日本の政策を考える際は、社会保障を充実させることで格差を小さくとどめながらも経済成長をしているスウェーデンなどの政策を参考にすることが望ましいです。ただし、日本は人口が多く、社会保障が充実している国々の政策を単に模倣するだけでは十分でなく、日本独自の課題や状況に合わせた施策が必要です。例えば、貧困に苦しむ人々も存在するため、闇雲な増税をするのではなく、商品の価格に応じて消費税を調整するなどといった、巧妙な政策が求められます。
政治や研究へ女性が参画するには?──ロールモデルの重要性
また、女性の政治や研究への参画について、内閣府作成の統計(内閣府男女共同参画局 2024)を参考に考えてみました。「男女・年代別投票率」(p.8)によると、第26回参議院議員通常選挙(R4.7.10執行)の投票率は、男性計52.3%、女性計51.8%と男女間で投票率に大きな差はなく、さらに18歳から64歳までに限定すると、全ての年代で女性の投票率の方が高くなっています。これは、男性の有償労働時間が女性よりも長いことも関係しているとは思いますが、それでも男女間で経済や政治に対する関心に大きな差はないと考えられます。それにも関わらず、2023年のジェンダー・ギャップ指数(GGI)(p.1)の経済参画の値は0.561、政治参画の値は0.057と非常に低くなっています。これらのことは、女性は男性と同様に経済や政治に関心があるにも関わらず、十分な参画が出来ずにいると考えられ、今後の改善が求められます。また、「国会議員、直近の国政/統一地方選挙の候補者・当選者に占める女性割合」(p.7)を見ると、女性の当選確率は男性よりも高くなっており、有権者は女性の政治参加に対して否定的ではないと捉えることが出来ます。したがって、経済・政治に関する男女間格差を縮小するには、より多くの女性が選挙に立候補する必要があり、そのハードルを下げるためにも、現職の女性政治家がロールモデルとなることが重要であると感じました。
さらに、女性の割合が低いのは政治だけでなく、研究者にも当てはまります。総務省の「科学技術研究調査」(令和4年)によると、日本の研究者に占める女性割合は17.8%と、他国と比較して非常に低い水準になっています。この原因の一つとして、女性教師の少なさが挙げられると考えます。教師は学生にとって最も身近な憧れの存在です。そのため、女性が少ない教育環境では、女子学生が研究者に挑戦する気持ちを具現化できずに諦める人も多くなります。私自身も、授業やゼミでは男性が大多数を占める環境にいますが、女性経済学者がノーベル経済学賞を受賞したり、テレビで活躍されたりする姿を見て励まされています。研究者の男女間格差を小さくするためには、教育現場で女性研究者の業績や活躍を積極的に紹介する必要があり、これは次世代の女性が目指す志を高める上でも大きな役割を果たすと考えられます。
私も後輩に経済学の魅力や大学院進学の道を示し、ロールモデルとなれるよう努力したいと思っています。最近の経済学では、格差を「機会の不平等の結果」であると捉え、その是正が効率性や経済成長、財政の持続可能性の向上につながるという認識が広がっていますが、男女間で得られる機会に差が生じないよう、こうした配慮が浸透することが望ましいです。
おわりに
最後に、今後取り上げてほしいテーマとして、「学生時代に経済学を専攻し、現在それらを活かした仕事をしている人(シンクタンクなど)」を挙げます。研究者だけでなく、シンクタンクなどの企業で経済学の知識を活用している人々の経験や視点を知ることで、学生の進路選択にも役立ちますし、経済学の社会への貢献度を知ってもらう上でも有用だと考えました。
専門的な知識をまだ持っていない私が、経済セミナーを読んで考えたことや意見を述べることに対して不安があったのですが、教授に質問をしたり本を読んだりして、自分なりに精一杯考え、書かせていただきました。今後も、経済学の勉強に励み続け、さらに多くのことを学び、より良い感想や意見を述べられるよう努力していきます。
読者の皆様からコメントをいただいた『経済セミナー』2024年4・5月号(特集:経済学で格差を読み解く)の詳細情報は、以下のリンクよりご覧いただけます!(電子版も発売中)
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