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決算書が読めてもダメ? これからの会計リテラシーの新常識:『会計の再生』レビュー

近年、ビジネス環境は目まぐるしく変化し、従来の会計基準では企業の本質的な価値を十分に把握できない場面が増えてきました。

「会計って難しそう」「無形資産ってよく聞くけれど、どう評価すればいいの?」と感じている方も少なくないでしょう。

そこで注目を集めているのが、バルーク・レブとフェン・グーの著書『会計の再生』(原題:The End of Accounting and The Path Forward for Investors and Managers)です。

本書を通じて、あなたの会計リテラシーをレベルアップさせ、企業価値を見抜く視点を身につけてみませんか


『会計の再生』とは?

著者バルーク・レブのプロフィール

バルーク・レブ(Baruch Lev)は、米国ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネスで会計学を専門とする教授として長年研究を重ね、数々の学術論文や書籍を執筆してきた人物です。

彼は無形資産の評価や会計基準の限界に関する研究で特に知られており、学界と実務の両面において高い評価を得ています。

彼の研究は、企業の市場価値と財務諸表との間に生じるギャップを定量的に示すことで、現行の会計システムが抱える問題を浮き彫りにしています。

「なぜ会計では企業の真の価値が十分に伝わらないのか」「投資家や経営者は何を基準に企業を評価すべきなのか」といったテーマに熱心に取り組み、世界中のビジネスパーソンに大きな影響を与えてきました。


本書の概要と主なテーマ

『会計の再生』は、従来の会計基準がもはや現在のビジネス環境に即していないという警鐘を鳴らす一冊です。

本書の中心テーマは、無形資産の評価と、財務諸表と実際の企業価値との乖離にスポットを当てることにあります。

バルーク・レブは、GAAP(米国一般公認会計原則)やIFRS(国際財務報告基準)の枠組みでは十分に捉えられない企業価値を、どのように計測し、評価すべきかを具体例を交えて解説しています。

さらに、経営者・投資家・アナリストが「新しい会計リテラシー」を獲得することで、ビジネスの可能性を正しく判断できるようになることを説いています。


従来の会計システムの問題点

財務諸表が反映しきれない無形資産の重要性

従来の会計基準では、工場や設備、在庫などの有形資産は貸借対照表に計上される一方、研究開発や特許、ブランド力といった無形資産は適正な評価が困難です。

例えば、長年にわたる研究開発によって蓄積されたノウハウや、企業風土、顧客ロイヤルティなど、数字で表しにくい要素ほど、実は大きな競争優位を生み出していることも珍しくありません。

では、なぜ従来の会計システムではこうした無形資産の価値が明確に示されないのでしょうか?

それは、歴史的に費用(コスト)を基準として固定資産や在庫など有形資産を評価してきた伝統的な手法では、デジタル化やグローバル化が進む現代のビジネス環境に追いついていないからです。

その結果、財務諸表の数字と実際の企業価値のギャップが広がり、投資家や金融機関、さらには経営者自身も判断を誤るリスクが高まっています。


GAAPやIFRSの限界と現代ビジネスのギャップ

GAAPやIFRSは、国際的に合意された会計ルールとして企業活動を客観的に評価する上で大きな役割を果たしています。

しかし、これらの基準が想定するビジネスモデルは、主に製造業を中心に「モノを作って売る」ことで成立しています。

データやサービス中心へとシフトする現代のビジネスでは、「モノとして形がないもの」にこそ価値が集中するケースが増えていると思います。

例えば、SNSやプラットフォーム企業では、ユーザー数やブランド力、知的財産を含む無形資産が企業価値の大部分を占めます

しかし、会計基準上はこれらの多くは資産計上されない、あるいは過小評価される場合がほとんどです。

その結果、財務諸表だけでは企業の本質的な強みを見抜けないという問題が発生しています。

このギャップを埋めるためには、会計情報と非財務情報を統合的に理解する視点が必要不可欠です。

バルーク・レブは『会計の再生』を通じて、この根本的な問題に一石を投じる新しい方法論を提案しています。


『会計の再生』が提唱する新しい会計リテラシー

無形資産を評価する新しい指標とは

バルーク・レブは、企業の価値を正しく評価するためには、研究開発費やブランド価値、従業員の知的資産などの「無形資産」を定量化し、既存の財務指標と統合的に評価する必要があると強調しています。

なぜなら、これらの無形資産こそが、現代のビジネスにおいて競争力の源泉になるからです。

たとえば、研究開発に投じた資金が新製品の開発に結びついたり、強固なブランドイメージが長期的な顧客ロイヤルティを生んだりするなど、見た目には「形」がなくても企業に利益をもたらす重要な資産です。


実務で活用できる具体的なアプローチ

ここでは、バルーク・レブの提唱をビジネス現場に落とし込むためのポイントを4つに分けて解説します。

1. 無形資産の洗い出し
まずは、自社にどのような無形資産があるのかリストアップする作業から始めます。

特許、研究開発の成果、社内ノウハウ、顧客データ、ブランド力、さらには企業文化や従業員のスキルセットなども含めて洗い出します。

企業によっては意外なところに大きな価値が隠れている場合もあり、「思い込み」や「当たり前」にとらわれずに棚卸しを行うことが重要です。

2. 定量化の試み
洗い出した無形資産がどれだけ将来的な売上や利益、コスト削減に寄与するのかを数値化します。

これは容易な作業ではありませんが、財務モデルや専門家の知識を活用し、なるべく客観性の高い評価を目指します。

たとえば、ある特許がいくらのライセンス収入を生む可能性があるのか、ブランド価値が価格競争力にどう影響するのかなど、具体的なシミュレーションを行います。

3. 会計処理上の対応
現行の会計基準(GAAPやIFRS等)では、R&D費用の一部しか資本化できず、多くが費用処理となるケースが多くあります。

最近よく聞く「人への投資」も同じです。会計上、基本的には投資ではなく、全て費用認識されます。つまり、どこまでいっても人は会計上はコストとしか見なされていません。

とはいえ、長期的な企業価値向上に寄与する支出も少なくありません。

ここでは、できる限り資本化できる部分を検討し、費用化せざるを得ない部分とのバランスを慎重に見極めることがポイントになります。

経営の観点からは、実質的には投資とみなせる部分も多く含まれるため、財務諸表だけでなく、補足資料や非財務レポートなどで適切に説明していくことが求められると思います。

4. 投資家・ステークホルダーへの情報開示
無形資産の評価は、企業内部の管理会計だけでなく、投資家や債権者、取引先など、広範囲のステークホルダーに正しく伝える必要があると考えます。

統合報告書やESGレポートなどを通じて、「企業の価値を生み出す源泉はどこにあるのか」「将来どのように成長が見込めるのか」を示せば、財務諸表上の数値では理解しにくい部分を補完できると思います。


本書から得られる実践的な知識とその応用

経営者・投資家が取るべき行動

経営者や投資家が本書から学べる大きなポイントは、「財務諸表に載らない資産に目を向けること」です。

製品の完成度やサービスの品質を大幅に引き上げるR&D投資は、短期的には費用として扱われますが、長期的視点でみれば価値の源泉です。

また、ブランドイメージを高めるマーケティング投資も同様に、長期的に利益を生み出す無形資産へと転化します。人への投資も同じ考えです。

投資家の立場から見ると、これらをコストではなく「将来の価値を生み出す資本的支出」と捉え、企業評価モデルに組み入れることが重要だと指摘しています。

単に四半期ごとのEPS(1株あたり利益)やPER(株価収益率)だけを見て投資判断を行うのではなく、企業が実際に取り組んでいるイノベーションやブランド戦略など、潜在的な無形資産にフォーカスすべきだと本書は示唆しています。

経営者にとっても、この観点を意識すれば、短期的な利益を追うのではなく、長期的な競争優位性を獲得するための投資配分を考えやすくなるでしょう。

「会計の再生」は、企業経営の根幹を見直すマインドセット変革の一冊といえます。


今後のビジネスにおける会計の役割

今後、ますますデジタル化や国際化が進む中で、企業の価値の源泉は「モノ」から「アイデア」や「サービス」、さらには「コミュニティ」へと移行し続けるでしょう。

そんな時代において、企業の財務情報だけではなく、無形資産や非財務情報との総合的な評価が必須となります。

ESG投資やサステナビリティの観点が重視される今日、会計の役割はますます広がっています。

企業が社会的責任を果たすことで得られるブランド価値や顧客ロイヤルティも、長期的な財務パフォーマンスに大きく寄与します。

しかし、これらは依然として数値化が困難であるために、投資家やアナリストに正確に伝わりにくい側面があります。

そこで、『会計の再生』が示すような新しい会計リテラシーを持ち、企業は自らの強みや価値をよりアピールできる世界になるのかもしれません。

本書を読めば、会計情報と非財務情報を統合的に理解し、企業価値を多面的に捉えることこそが、これからのビジネス環境で求められるものだと認識できます。


まとめ

『会計の再生』は、単なる会計理論のアップデートではありません。

ビジネスそのものが変化し、無形資産が企業競争力の大部分を占めるようになった現代において、会計の本質的な役割を再定義する一冊です。

著者バルーク・レブは、学術的な知見と実務のリアルを融合させ、企業価値評価の新たなパラダイムを提示しています。

本書を読めば、ビジネスを客観的に分析する力や、投資先企業を選別する視点を得られるのはもちろん、「経営において本当に大切なものは何か?」という根本的な問いについて、具体的なヒントを与えてくれます

あなたが、「財務諸表で正しい企業の評価ができるのか?」と疑問を抱いているのであれば、この本を読むことで多くの気づきが得られるはずです。

また、新たな視点を得ることで、「財務諸表の数字の向こう側」にあるストーリーを読み解き、自分自身のビジネスチャンスや投資判断に役立てることができるはずです。

読後には、「会計って複雑だけど、やっぱり重要だ」「本当の意味で企業を理解するってこういうことか」と共感していただけるのではないでしょうか。

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Kei | MBA| 元銀行員
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