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税収と借金(国債)比率の関係について

本記事は、フォローさせて頂いているnoterの「海尾守」様からの依頼に対する回答記事の最終回(第3回)です。

今回は、「日本の借金は1,300兆円で20年分の税収に相当」の主張に対しての反証について説明します。

なお、1回目と2回目の記事はこちらになります。


記事執筆の経緯

1.海尾さんの上記のブログ記事のコメント欄に、B様から以下のご質問。

「何世代にも渡って借金を残すのか」

「貨幣価値が下がり続けいずれ円の信頼が無くなりジンバブエドルのようになる」

「日本の借金は1300兆円で20年分の税収に相当する」

と反論されると思うのですが、どう論破すればいいと思いますか?

海尾さんの記事のコメント欄から引用

2.これに対してコメント欄で返信したかった海尾さんですが、noteの制約(コメント500字以内)により、別記事をアップ。


3.以前、海尾さんの記事を引用させて頂いたご縁があり、上記記事の内容の検証依頼がありました。

なお、海尾さんの記事「お返事が遅くなってごめんなさい」は、国債の世代間負担や円の信用維持に関して、理論に基づいた視点を提供しています。

記事は基本的な論点をよく押さえており、問題ない内容と考えます。

私自身、海尾さんの説明に対して、違和感はありません。


税収と借金の比率について

海尾さんも述べている通り、現在の日本国の借金(国債)が税収の20年分に相当するという話は、税収が成長しない前提に基づいています。

経済が成長すれば税収は増加し、その結果「借金の負担が軽減される」可能性はあります。

このため、国債の残高を強調する論法には注意が必要と考えます。

ただし、「日本国の借金(国債)が税収の20年分に相当する」は、数字上は間違っているわけではありません

よって反証する方法について、今回も数式を使って考えてみます。


税収と借金のバランスに関する論点

借金(以下、国債等)と税収のバランスについては、政府の収支を表す数式で説明できます。

政府収入 T と政府支出 G の関係を通じて、以下の財政収支方程式が成り立ちます。

ΔB = G - T + rB

ΔB:借金の増加
G:政府支出
T:税収
rB:既存債務に対する利子負担(利子率 r × 債務残高 B )

この数式は、税収よりも支出が多い場合(つまり赤字が出ている場合)、新たな借金が必要になることを示しています。


現在の日本国の数値で考える

わかりやすくするために、日本政府の予算や財務状況の数値を当てはめてみます。

以下の数値を2024年の概算数値とします。

G(政府支出):110兆円
T(税収):70兆円
r(利子率):0.5%
B(債務残高):1,300兆円

財政収支方程式:ΔB = G - T + rB

上記方程式に数値を代入します。

ΔB = 110兆円 - 70兆円 + 6.5兆円

ΔB = 46.5兆円

この結果から、借金の増加(ΔB)は約46.5兆円となります。

現在の日本は、収入(税収)に対して支出が多いため、新たな借金が発生していることを示しています。


では、日本の借金(国債)は減らないのか?

しかし、これでは元本(国債の残高)1,300兆円は全く減らない、むしろ増えてしまいます

よって、「税収の20年分に相当する」という主張に対する反証はできないのではないか?と思うでしょう。

たしかに、この数式の枠組みだけでは「元本1,300兆円が減らない」という問題が解決されません。

このため、税収の20年分に相当する国債残高が将来の財政に重荷になるという主張に反論するには、以下のような観点から説明を加える必要があります。


経済成長率と利子率の関係

まず、経済成長率が債務の利子率より高ければ、借金があっても経済の成長によって負担が軽減される可能性があります。

これは、借金があっても経済が成長すれば税収も増えるため、結果的に借金が減っていくわけではありませんが、借金の「重さ」は軽く感じられる、ということを意味します。

以下に数式で示します。


GDPの計算

GDPは以下のように表せます。

GDP = GDP(前年) × (1 + g)

g :経済成長率

例:前年のGDPが500兆円で、経済成長率 g = 2% の場合

GDP = 500 × (1 + 0.02) = 510兆円


債務増加分の計算

債務増加分(利子分のみ)は以下のように表せます。

債務増加分 = 債務(前年) × r

r :利子率

例:前年の債務残高が1,300兆円で、利子率 r = 1% の場合

債務増加分 = 1300 × 0.01 = 13兆円

つまり、前年は500兆円に対して、13兆円の負担(金利2.6%)だったものが、経済成長率2%によってGDPは510兆円になり、名目上の負担は下がります(金利2.3%)。


相対的な負担の軽減

イメージしやすいように、個人の収入とローンを例に考えてみましょう。

年収が500万円で、毎年10万円のローンの利息を払っているとします。
• 年収に対して、10万円の利息は少し負担かもしれません。

しかし、次の年にあなたの収入が増えて年収が600万円になったとします。この場合、同じ10万円のローンの利息でも、600万円の収入に対しては小さな負担に感じられるでしょう。

収入が増えることで、相対的にローンの負担が軽くなったのです。

経済成長率 g が利子率 r を上回るとき、GDPの増加ペースが借金の増加ペースを上回るため、借金の相対的な負担が軽減されることを示すといえます。

つまり、経済が2%成長して税収が増えるペースの方が、1%の利子を支払うペースより速いので、借金が増えたとしても経済規模が大きくなれば、借金の負担が相対的に軽減される可能性がある、ということです。

また、経済成長だけでなく、適切なインフレ(物価上昇)によっても、相対的な債務負担は軽減されます。

経済成長やインフレ(物価上昇)の影響を受けたGDPを「名目GDP」といいます。


名目GDPと債務負担の関係

名目GDPが増えれば、同じ額の借金でも、経済規模に対して相対的な負担が軽減されます。これを式で表すと、以下のようになります。

債務負担率 = 債務残高 ÷ 名目GDP

例えば、債務残高が1,300兆円で、名目GDPが500兆円の場合、債務負担率は以下のように計算されます。

• 債務負担率 = 1300 ÷ 500 = 2.6 (260%)

一方、名目GDPが増加して600兆円になった場合、債務負担率は以下のようになります。

• 債務負担率 = 1300 ÷ 600 = 2.17 (217%)

このように、名目GDPが増加すると、同じ債務額でも経済規模に対する相対的な負担が軽減されることがわかります。

つまり、名目GDPが増加する2つの要因「経済成長と物価上昇」によって、債務負担率は軽減されるといえます。


国債の借り換えと持続可能性

また、多くの先進国で行われているように、日本政府も国債の元本を満期時に一括返済するのではなく、借り換えを続けることで運営しています。

これは、国債が「永久的に借り換えられる性質」を持つためであり、元本返済の必要がないことが大前提です。

このため、「税収の20年分に相当する債務が必ず返済されるべき」という発想が誤解であることを指摘しておきます。

国債は返済するのではなく、借り換えが前提であることについては、前々回の記事「国債の償還と、将来世代の負担について」でも述べております。


結論

したがって、「税収の20年分に相当する債務残高」が未来の財政破綻を直接的に示すわけではない、といえます。

経済成長やインフレ、借り換え前提により、名目上の借金(国債)が多額であっても特に問題ではないでしょう。

よって、1,300兆円が将来的な重荷となる必然性はないと考えます。

以上が私の結論となります。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

海尾さん、簡単にまとめることができず、すいません🙇

また、貴重なご依頼をいただき、誠にありがとうございました。

久しぶりに経済学を学習する機会を得たことに感謝いたします。

引き続き、よろしくお願いいたします。

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Kei | MBA| 元銀行員
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