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銀行員必見!「銀行家こそ真の資本家」を証明するシュンペーター理論
銀行員の皆さん、日々の業務で「信用創造」や「リスク管理」の重要性を感じる一方、「イノベーション」「創造的破壊」という言葉を耳にすることも多いのではないでしょうか。
「創造的破壊」という言葉は、20世紀を代表する経済学者、ジョセフ・アロイス・シュンペーターが広めた概念です。
ガラケーがスマホに取って代わられたように、新しい製品や組織が既存のものを打ち負かす、こうしたイノベーションの姿を的確に捉えたのが、シュンペーターの有名な理論です。
今回は、経済学者シュンペーターの理論から、銀行が社会に果たすべき役割について考えたいと思います。
シュンペーター:イノベーションの父
シュンペーター(Joseph Alois Schumpeter, 1883-1950)は、イノベーションを「新しい組み合わせ(新結合)」と捉えました。
これは、既存の技術や製品、サービスの組み合わせを新たに創造し、社会に大きな変化をもたらす意味で、今では一般的なビジネス用語として浸透しています。
古い技術や組織は破壊されますが、同時に社会は革新的に発展します。
このダイナミックな過程を、シュンペーターは「創造的破壊」と呼びました。
例えば、デジタルカメラの普及によってフィルムカメラの市場が消えた現象は典型的な「創造的破壊」です。
こうした革新が起こるたび、既存事業は淘汰されますが、逆に新たな効率性や利便性がもたらされ、経済成長には大きく貢献するのは皆さんご存知の通りです。
シュンペーター理論:銀行家こそ真の資本家
信用創造とは?
では、シュンペーターが注目した「信用創造」の概念について説明します。
銀行が預金者から集めた資金を貸し出すとき、その貸し出した分が経済活動の中で再び預金として還流され、新たな貸し出しが行われ…という循環で、社会全体に存在するお金の総量が増えていくという仕組みです。
【信用創造とは】
たとえば、A社が銀行から1億円を借りるとします。
A社がその1億円を使って設備投資を行い、工場を拡張し、労働者へ賃金が支払われる。
その労働者が銀行に預金し、銀行はその資金に基づいて、さらに別の企業へ融資する…とお金は常に循環しています。
この一連の流れが「信用創造」であり、銀行が社会に新たなお金を生み出す重要な役割を果たしていることを意味します。
信用創造の数式
以下は、銀行による信用創造を数式で示した例です。
数学が苦手な方は読み飛ばしてください。
興味がある方、数学がわかる方は少しお付き合いください。
まず数式の条件として「預金準備率」を $${r}$$ とします。
銀行は預金のうち一定割合$${ r}$$ を「準備金(預金準備)」として保有し、残りの$${ (1 - r)}$$ を貸し出しに回すという単純モデルです。
初期の預金と第一段階の貸し出し
1. 初期の預金を$${D_0}$$ とする
2. 銀行は預金のうち$${r \times D_0}$$を準備金として保有
3. 貸し出し可能額は$${(1 - r) \times D_0}$$
第一段階での貸し出し(融資)額 $${L_0}$$ は次のとおりです。
$${L_0 = (1 - r) \times D_0}$$
第二段階以降の預金と貸し出し
貸し出された $${L_0}$$ が、借り手によって給与や設備投資等に使われ、最終的に誰かの預金として銀行へ還流すると、その預金を $${D_1 = L_0}$$ と考えられます。
すると、銀行はこの預金 $${D_1}$$ に対しても同じく $${r}$$ の準備金を保有し、残りを貸し出すことができます。
<第二段階の貸し出し>
$${L_1 = (1 - r) \times D_1 = (1 - r) \times L_0 = (1 - r)^2 \times D_0}$$
<第二段階の預金>
$${D_2 = L_1}$$
同様に第三段階、第四段階…と続いていきます。
全体の預金額(信用創造)の式
この過程を無限に繰り返すと、最終的な合計預金額 $${M_{\text{total}}}$$ は、以下のように無限等比級数の和として求められます。
$${M_{\text{total}}}$$
$${= D_0 + (1-r)D_0 + (1-r)^2 D_0 + (1-r)^3 D_0 + \cdots}$$
これは、
$${M_{\text{total}}}$$
$${= D_0 \sum_{n=0}^{\infty} (1 - r)^n}$$
等比級数の和の公式
$${\sum_{n=0}^{\infty} x^n = \frac{1}{1-x} \quad \text{(ただし } |x| < 1 \text{)}}$$
を用いると、
$${M_{\text{total}}}$$
$${= D_0 \times \frac{1}{1 - (1-r)}}$$
$${= D_0 \times \frac{1}{r}}$$
となります。
つまり、初期の預金 $${D_0}$$ が最終的に $${\frac{1}{r} \times D_0}$$ という何倍もの預金残高を生み出すことになります。
数値例
例:預金準備率 $${r = 0.1}$$(10%)
初期の預金 $${D_0 = 1\text{億円}}$$
この場合、理論上の最終的な預金総額 $${M_{\text{total}}}$$ は
$$
M_{\text{total}}
= \frac{1\text{億円}}{0.1}
= 10\text{億円}
$$
となり、最初の1億円の預金が、循環を通じて最終的には10億円の預金残高を生み出す計算です。
なぜ、信用創造が起きるのか?
銀行の貸し出しによって生まれた資金は、企業への投資や従業員の給与などを経由し、最終的には再び銀行に預金として戻ってきます。
すると銀行は、その預金の一部を準備金として残しながら、また新たな貸し出し(融資)を行えます。
これを繰り返すことで、社会全体にあるお金(預金)の総量が初期の預金額よりも大きく増えていくわけです。
これが、シュンペーターが注目した「銀行が社会に新たな資金を生み出す」信用創造のメカニズムです。
・預金準備率$${r}$$ が小さいほど、信用創造の効果は大きくなる
・初期預金$${D_0}$$ が増えれば増えるほど、貸し出しと預金の循環により、お金の総量が拡大していく
シュンペーターは、こうした信用創造を通じ、銀行は新たなビジネスを支援し、イノベーション(新結合)を生み出す「真の資本家」であると見做しました。
そして、事業が成功したときの恩恵も大きい一方、万一失敗して、貸し倒れが発生した場合、銀行が直接的に大きなリスクを負う点にも着目し、「銀行こそが経済を牽引する重要な存在である」と位置づけました。
銀行がリスクを負うべき理由
シュンペーターは、事業が失敗した場合に「最大のリスクを負うのは銀行だ」と考えました。
起業家は融資を受けた資金でビジネスをスタートしますが、万一失敗しても撤退したり、別の投資家から資金を募るという選択肢があります。
一方で銀行は、融資先が返済できなくなれば、回収不能額がダイレクトに銀行の損失となります。
大口融資が焦げ付けば、経営そのものにも影響が及びかねません。
そのため、銀行(銀行員)は慎重かつ的確な融資判断を行う必要がありますが、同時にそれは「社会における資金の創造と経済成長を担う」という大きな責任を伴うものである、というのがシュンペーターの考えです。
シュンペーターの理論を深く学ぶおすすめ書籍
シュンペーター理論をもっと理解し、融資判断やリスク管理に活かしたいと思った方には、以下の書籍3冊を強くおすすめします。
1.『経済発展の理論』
シュンペーターの代表作であり、彼が提唱する「新結合」や「創造的破壊」の基礎概念が丁寧に解説されています。
銀行の信用創造がどのように経済発展を推し進めるのかを学ぶうえで必読です。
2.『資本主義・社会主義・民主主義』
シュンペーターがどのように資本主義を捉え、社会主義や民主主義との関係を考察しているかが分かる書籍。
現在の金融システムにおける銀行の役割を、より広い社会的・政治的視点から理解できます。
3.『入門 シュンペーター』
本記事の冒頭でも触れた、シュンペーターの影響力をわかりやすく解説している一冊です。
初心者がシュンペーターの理論に触れるには最適で、イノベーションの本質や、日本企業の停滞要因などにまで言及しています。
現代の理論との比較もあり、シュンペーターがいかに現代社会に通用するかを理解しやすいと思います。
結論
シュンペーターは、約100年前に「創造的破壊」や「イノベーション」という概念を提唱しましたが、それらは現代でもまったく古びていません。
むしろ、テクノロジーの進歩が加速する今だからこそ、銀行員が彼の理論を学ぶ意義はますます大きいのではないでしょうか。
現代の銀行員としては、以下の3つのキーワードはぜひ押さえてもらいたいと思います。
イノベーション:将来有望な事業を見極め、適切なリスクを取れるか
信用創造:経済を回す存在としての責任を再認識する
創造的破壊:古い仕組みを破壊し、新しい価値を生み出す流れにどう関わるか
「古くさい理論」と侮らず、シュンペーターの関連書籍を手に取ってみてください。
きっと、これからの銀行業務の可能性が大きく広がるのではないでしょうか。
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