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「暗黙知」よりも「形式知」を優先してきた日本の未来

私は銀行から転職し、現在は東証プライムに上場する企業の経営企画部門で働いています。

主な仕事は成長戦略の策定で、M&Aやアライアンス、新規事業などに携わっています。

M&Aには「時間を買う」という目的がありますが、それ以外に企業が持つノウハウやスキル、技術や特許などを取得するという目的もあります。

ただ、M&Aを検討する中で、その「技術」といったものが失われている企業を多く見かけます。

今回は、M&Aに携わる仕事を通じて、気づいたことを記事にします。


日本企業の技術の衰退

日本は長い間、技術立国としての地位を築いてきましたが、最近の日経の記事を読んで、その地位が危うくなっていると感じました。

「しんかい6500」に関する問題は、日本の技術進歩の停滞を象徴している事例ではないでしょうか。

私はこの記事から「暗黙知」よりも「形式知」を優先する社会が、日本の技術衰退につながっているのではないかと感じました。


暗黙知と形式知の違い

「暗黙知」とは、言葉や文字で表現するのが難しいが、経験や感覚を通じて身につける知識などを指します。

一方、「形式知」は明確に文書化や言語化が可能で、マニュアルや教科書などに記録される知識です。

日本の製造業などでは、長い間「暗黙知」が重要な役割を担ってきたと思います。

特に高度な技術が要求される分野では、熟練工の経験や勘が製品の品質を左右してきたのではないでしょうか。

しかし日本国内では、グローバル化の進展とともに、投資家から生産性向上や効率性の追求を求められ「形式知」へのシフトが進んでいます。


形式知化が進む日本

日本国内の多くの産業が「形式知」へのシフトを進めています。

マニュアルなどによって生産性と効率性、省力化を追求している事例をいくつか紹介します。


自動車産業

日本の自動車産業は、標準化とマニュアル化により、製造プロセスの効率を大幅に向上させてきました。

トヨタの「カンバンシステム」はその代表例で、部品の在庫管理と生産プロセスを細かく管理し、無駄を削減しています。

このシステムは世界中の製造業に広く採用されるほど、効率的な生産方式として認識されています。


小売業

小売業界では、コンビニがフランチャイズシステムを通じて店舗運営のマニュアル化が進めてきました。

セブン-イレブンは、店舗デザイン、商品の配置、接客方法までを標準化し、効率的な運営を実現しています。

PB商品など、主要な商品を陳列しやすい什器にすることでレイアウトを均一化し、新規店舗が簡易にオープンできるようになっています。


外食産業

外食チェーンでは、料理の品質と味を均一化するために、レシピと調理手順が標準化されています。

そのため、料理に関してプロである必要はありません。

例えば、牛丼のすき家やカレーのCoCo壱番屋は、どこの店舗に行っても一定の味を提供してくれます。


これらの事例からもわかるように、日本国内の多くの産業で形式知へのシフトが進んでおり、生産性と効率性の向上が図られています

確かに、新人や初心者でも気軽に働ける環境を整備するのは、人口減と高齢化が進む日本では重要な施策です。

無印良品のマニュアル「MUJIGRAM」などは、標準化を図る上で優れたマニュアルと評価されています。

一方で、マニュアルに依存することで、独自の技術や伝統が育成されず、失われるという問題があるのではないでしょうか。


技術伝承の断絶について

「しんかい6500」の例に見るように、日本はかつて世界をリードする深海探査技術を持っていました。

その技術を支えていたのは、長年の経験を持つ職人たちの「暗黙知」ではなかったでしょうか。

しかし、新しい世代へ暗黙知の継承が十分に行われず、その技術は失われた可能性があります。

「しんかい6500」のように、日本において技術継承が進まない理由は、複数の要因が絡み合っていると考えます。

以下に主な理由を挙げてみます。


高齢化と若者の技術職離れ

日本は世界有数の高齢化社会であり、多くの産業で熟練工や技術者の高齢化が進んでいます。

一方で、若者が伝統的な産業や技術職への進路を選ばないことが多いため、技術の継承者が不足していると考えられます。

また、技術職の地位や報酬が低いために、若者がそのような職業を選択しないという点も見過ごせません。

特に製造業のような肉体労働を伴う職種においては顕著ではないでしょうか。


短期的な業績向上を優先

日本は、経済成長とともに、コスト削減や効率化を最優先する傾向が強まりました。

その結果、長期的な人材育成や技術継承に時間とコストをかけるのは効率的ではないと判断され、後回しにされてきたと思います。

短期的な業績を重視する風潮が、技術継承の機会を減少させているのではないでしょうか。


教育制度とのミスマッチ

日本の教育制度はアカデミックな知識を重視します。

大学入学のテストは、技術よりも知識の詰め込み教育が重要です。

偏差値は学習能力の値ですが、スキルなどについては採点できません

そのため、日本においては学術的な科目ばかり重視し、技術教育が不足していると感じています。

教育と現場のニーズとの間にギャップがあることが、技術の継承を困難にしているのではないでしょうか。


テクノロジーの進化

テクノロジーの急速な進化により、従来の技術が陳腐化しやすくなったことも技術継承の断絶の理由と考えます。

新しいデバイスなどが次々と市場に導入され、継承すべき技術が常に変わるため、熟練技術の継承が追いつかないケースもあるのではないでしょうか。

また、グローバル化やデジタル化が進み、伝統的な技術職よりも情報技術(IT)の方が魅力的と感じる若者が増えているのは間違いないでしょう。


生産性向上の皮肉

形式知に基づくマニュアル化や標準化は、一見すると生産性を大幅に向上させるように思えます。

しかし、マニュアル化によって個人が持つ独自の技術やアイデアが出しにくくなり、結果として革新的な発想が阻害されているのではないでしょうか。

また、過度な標準化は、臨機応変な対応が求められる場面での柔軟性を奪い、新たな問題を生じさせることにもつながります。


生産性向上と「おもてなし」の精神の狭間で

日本のサービス業における「おもてなし」の精神は、世界中で高く評価されています。

この精神は、細部にわたる配慮や顧客一人ひとりに対する心からの気配りを特徴としています。

しかし、グローバル化によって、効率性や生産性の追求が求められる中で、この大切な「おもてなし」の精神が犠牲になっているのではないでしょうか。

「おもてなし」の精神は、生産性や効率性とは真逆の考え方だと思います。

しかし、それも依然として求められるとしたら日本人は「無償の奉仕」を永遠に続けなければなりません。


短期的な効率性の追求が長期的な価値を損なう

生産性を重視すれば、確かに短期的な業績は向上します。

ただ、顧客との関係性やブランドを築く上で、重要な「おもてなし」の精神はおろそかにされていくでしょう。

生産性向上を意識し、顧客との接点において気配りや感謝の表現が省略され、機械的な対応になれば、顧客満足度の低下を招く恐れがあります。

日本独自の美意識やこだわりが生み出した製品やサービスは、世界中で高く評価されてきました。

しかし、効率性を意識した形式知への過度な依存は、そのような「日本の良さ」を薄れさせる原因になるのではないでしょうか。

伝統的な技術や熟練工の技は、形式知には簡単に置き換えられません。

マニュアル化は生産性向上に寄与しているかも知れませんが、品質の低下を招いている気がします。


まとめ

私の「仕事での気づき」は、日本全体がマニュアル依存状態になっていないだろうか?というものです。

「しんかい6500」の開発停滞の記事は、資金不足以上のことを示していると感じました。

この記事は、「暗黙知」の喪失と「形式知」への依存による技術的衰退の象徴ではないでしょうか。

日本が再び技術立国としての地位を確立し、「おもてなし」の精神を継続するためには、新たな技術伝承の形を模索する必要があると考えます。

皆さんは、どう思うでしょうか。

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