なぜ「目標は右肩上がり」が当たり前と思うのか:成長神話と行動経済学
「なぜ上司は右肩上がりの目標が当たり前と思うのか?」という疑問は、多くのビジネスパーソンが抱えている悩みの一つではないでしょうか。
特に、毎年設定されるノルマや目標が、常に成長を前提としたものになっている現状は、現場で働く人たちにとって大きなプレッシャーとなります。
この記事では、行動経済学の視点から、上司がなぜ右肩上がりの目標設定を当たり前と思っているのか、その背景を分析し、読者がその理由を理解しやすいように解説します。
「右肩上がり」の目標を設定する理由
上司が目標を右肩上がりで設定するのは、ビジネスの世界における「成長神話」に基づいています。
成長神話とは「企業は成長し続けなければならない」という信念であり、株主や経営層、投資家などからも強く求められます。
特に大企業では、売上高や利益が前年度比で上昇していないと、企業全体の評価が下がることがあるため、目標設定の段階で「成長」が当然の前提条件として扱われます。
成長神話とは
「成長神話」とは、「成長し続けることが常に良い」という信念や思い込みを指す概念です。
特にビジネスの世界では、企業は成長するのが当然とされ、売上や利益、社員数などの増加が経営の成功とみなされます。
この成長を前提とした考え方を「成長神話」と呼びます。
成長神話の背景
成長神話は、産業革命以降の資本主義経済に根付いています。
市場経済では、企業が成長して市場シェアを拡大し、競争相手よりも優位に立つことが求められてきました。
このため、経営者や株主、投資家は常に「成長しなければ企業は衰退する」という考えに基づいて行動し、右肩上がりの成長を追い求める傾向が強くなりました。
また、経済学者ジョセフ・シュンペーターが提唱した「創造的破壊」という概念も、成長神話を後押しする要素の一つです。
シュンペーターは、技術革新や新たなビジネスモデルの導入が、古いものを破壊し、新たな市場を創り出す過程を「創造的破壊」と表現しました。
この理論に基づくと、企業は常に革新を求めて成長し続けなければ、市場での競争に敗れてしまうというプレッシャーにさらされているといえます。
成長神話の影響
成長神話は企業経営に影響を与えますが、その影響は必ずしもポジティブなものばかりではありません。
過剰なリスクテイク
成長を追求するあまり、企業は短期的な利益を重視します。その結果、リスクの高いプロジェクトに手を出したり、無理な拡大や、法令違反など、長期的な安定を犠牲にしてしまいます。
従業員への過度なプレッシャー
成長神話は、組織全体にプレッシャーを与えます。ノルマや目標は常に右肩上がりに設定され、従業員は過剰なストレスにさらされます。結果的に、モチベーションの低下やバーンアウト、最終的には離職率の増加といった問題が発生します。
環境や社会への負荷
無限の成長を追い求めれば、環境や社会に対して大きな負担をかけることがあります。資源の無駄遣いや環境破壊、さらには倫理的な問題に直面する可能性もあります。
成長神話は、多くの企業や個人に強く根付いた考え方ですが、必ずしもそれが正しいとは限りません。
無限の成長を追い求めることは、企業や社会に過度な負荷をかけることになり、最終的には逆効果をもたらすこともあります。
成長神話と行動経済学の関係性
行動経済学の視点から見ると、成長神話は「フレーミング効果」に関連しています。
フレーミング効果とは、情報がどのように提示されるかによって人々の判断が影響を受ける現象です。
上司や経営者は「成長することが良い」というフレームで物事を考えます。
このフレームの中では、現状維持や微増といった選択肢は、ネガティブな結果として認識されます。
ノルマ達成へのプレッシャーが生む心理的影響
右肩上がりの目標設定は、現場で働く社員に大きなプレッシャーを与えることが少なくありません。
行動経済学の理論によれば、過度なプレッシャーはパフォーマンスを低下させる可能性があります。
これは「損失回避」の心理が働くためで、目標が達成できないことへの恐怖や不安が先行し、実際の行動に悪影響を及ぼすことがあります。
また、行動経済学の「期待理論」によれば、目標があまりにも高いと、それが達成不可能だと感じられた時点で社員のモチベーションは著しく低下することが指摘されています。
「これを達成することは無理だ」と感じると、挫折感や無力感が生じ、目標を追いかける意欲を失います。
最終的には業績が低下し、モチベーションの低下を招く結果となります。
さらに、根拠の乏しいノルマの設定は、達成するのが困難であると理解しつつも、抵抗できないため、心理的安全性を脅かします。
行動経済学で見る上司の目標設定の背景
上司が無意識に右肩上がりの目標を設定してしまう背後には、「認知バイアス」という心理的なメカニズムが働いています。
認知バイアスとは、自分の信念や期待に合致する情報のみを重視し、それ以外の情報を無視するバイアスのことです。
上司が過去の成功体験に基づいて「成長こそが正しい」という信念を持っている場合、その信念を裏付ける情報だけを選び、目標設定もその方向に傾きます。
それは合理的な選択ではなく、非合理的な考えですが、多くの人はその選択を正しいと思っています。
なぜなら、世界の経済が成長しているのは間違いではないからです。
しかし、自分たちが置かれている環境が必ずしも世界と同じとは限りません。
そのため明確な根拠はなくても、過去の経験に基づき「経済は成長する」というバイアスから抜け出せなくなってしまうのです。
ノルマ達成が当たり前だと思われる社会的証明
最後に、右肩上がりの目標設定が当たり前だとされる「社会的証明」について考えてみましょう。
社会的証明は、人々が他者の行動を基に自分の行動を決定するという行動経済学の原理です。
企業や組織においては、他の企業や同業他社が一定の成長やノルマを達成し、それが「成功」と見なされる場合、自分たちも同じことを目指すべきだというプレッシャーが生まれます。
結果として、組織全体で右肩上がりの目標が当たり前とされる文化が形成されます。
労働者や上司も、他のチームや同僚がノルマを達成していると、その達成が当然だと感じ、社会的証明に基づいて行動するようになります。
行動経済学を活用して目標を適切に設定する
右肩上がりの目標のプレッシャーは、負担になることも多いのですが、行動経済学を活用して目標設定の方法を見直せば、より効果的で現実的な目標管理が可能になるかもしれません。
例えば、「期待理論」の視点から考えれば、目標が現実的で達成可能だと感じられるなら、その目標に向けてモチベーションが高まりやすくなるともいえます。
他にも「損失回避」を逆手に取り、目標を達成することで得られる報酬ではなく、達成できなかった場合に「もともと与えられていた報酬が失われる」ように見せることで、達成意欲を高めることも出来るかもしれません。
また、「前年より10%の成長を達成しなければならない」という目標を「前年の成長を維持しつつ、さらに新しい顧客を10%増やすチャンスがある」といったポジティブなフレームに置き換えれば、達成へのプレッシャーを軽減し、挑戦意欲を引き出すことができるかもしれません。
結論
上司が右肩上がりの目標を当たり前とする背景には、成長神話、認知バイアス、そして社会的証明などが深く関与しています。
これが社員に過度なプレッシャーを与え、モチベーションの低下や業績の悪化を招くこともあります。
ただ、行動経済学の視点を取り入れ、より現実的で効果的な目標設定が可能となり、社員のやる気を引き出すことができる可能性はあります。
フレーミング効果や期待理論を活用し、目標達成へのプレッシャーを軽減する工夫が重要かもしれません。
私としては、まずは現実の社会を見極めることから始めて欲しいものだと思いますが。
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